発達障害児が自己理解をするポイントとは?~特別支援の課題を知る~
教育現場では、発達障害を抱える子供の対応に苦慮している現実があります。今回、小社の『通常学級の発達障害児の「学び」を、どう保障するか』(前文部科学省特別支援教育調査官・田中 裕一/著)の発刊を記念して、専門家3人によるオンラインセミナーを開催しました。そのなかから、ADHD等のある当事者の方とその家族支援をするNPO法人えじそんくらぶ・高山恵子代表による講座をダイジェストでお届けします。
講師/NPO法人えじそんくらぶ代表、昭和大学薬学部兼任講師・高山恵子
目次
障害のある子供たちへの支援の課題とは
学校現場の特別支援では、今、このようなことが起こっています。
・先生が忙しすぎる。
・保護者対応が難しい。
・子供の思いを十分聞き取れていない。
・移行計画が十分でない。卒業後を見据えた支援になっていないことがある。
・先生自身のセルフケアができていないと、学級崩壊、休職に至る可能性がある。
例えば、子供の思いを十分聞き取れていないのは、子供がSOSを出していない場合であることも多くあります。子供の希望を聞き取るためには、技術や知識が必要になります。そのため、担任だけでなく、福祉のスタッフに任せることも大切です。
また、移行計画が十分でないというのは、1年1年で支援者が代わってしまったり、小学校や中学校の卒業時で支援が終わってしまったり……ということです。先生が代わると、子供の状態が急激によくなったり、悪くなったりというケースも見られます。
先生ががんばりすぎて、先生自体が過剰適応になってしまい、休職にならないようにしてほしいと思います。先生1人でがんばらないで、先生自身もSOSを出していき、連携の選択肢を広げるようにしましょう。
「家庭と教育と福祉の連携『トライアングル』プロジェクト」を知ろう
障害のある子と家庭をもっと元気にするためのプロジェクトがあります。それが、「家庭と教育と福祉の連携『トライアングル』プロジェクト」です。このプロジェクトは、文部科学省と厚生労働省が立ち上げたプロジェクトで、各地方自治体の教育委員会や福祉部局が主導し、支援が必要な子供やその保護者が、乳幼児期から学齢期、社会参加に至るまで、地域で切れ目なく支援が受けられるようにしたものです。
一番重要なことは、トライアングルのまん中に支援を受ける子供本人がいるということです。合理的配慮も保護者と先生とが決めて、本人は「みんなといっしょがいい」と言っているにもかかわらず、本人の希望を入れないために、不登校になるというケースも見られます。本人の希望を聞くことが大切です。
田中裕一先生の著書『通常学級の発達障害児の「学び」を、どう保障するか』には、それについての多くの事例が紹介されていますので、ぜひ参考にしてください。
相談力の弱い子を支援しよう
相談力が弱い子が、発達障害で苦しんでいることが多いということを理解することが大切です。
相談力が弱い子の特徴
出典:自己理解力をアップ! 自分のよさを引き出す33のワーク 高山恵子 合同出版
1 困っている自覚がない。
2 自分の力だけでできると思っている。
3 誰かに相談していいと思っていない。
4 相談したくても仕方がわからない(いつ誰にどのタイミングで)。
5 相談したくても言語化できない。
6 最初の相談体験がマイナスだった。
7 だめな自分を見せたくない。
8 (親に)心配をかけたくないので相談しない。
など
これらは、発達障害をもつ子の思いを聞くために知っておくとよいでしょう。本人が相談しやすいように先生や保護者が知っておきたい特徴です。
違いを認め合える学級づくりと本人の自己理解が重要
学校での支援では、自己理解と他者理解を促すことが必要になると思います。
そのためには、違いを認め合える学級、安心して失敗できる学級という学級力が大事になります。
また、「自立を視野に入れたストレスマネジメント(ストレスにどのように対処し、どのように付き合っていくかを考えること)」「失敗した後のレジリエンス(回復力)」「(ゲーム)依存の予防と対策」なども必要です。
発達障害をもつ子供にとって本人が自己理解をすることが大切です。自己理解をするポイントは次のとおりです。
自己理解をするポイント
・特性の理解①:得意なところ、長所の理解。自己理解をさせようと、子供の苦手なところを見つけるのは、考えもの。自己肯定感がなくなり、やる気スイッチもオフになってしまう。最初に「できないところ」の自己理解をさせない。
・うまくいく条件を探す。
・ストレッサー(ストレスのもと)とストレスコーピング(ストレスへうまく対処しようとすること)の理解:ストレスの原因は人によって違い、対処のしかたも人によって違う。個々の原因と対処法を理解する。
・特性の理解②:苦手なところ、その対処法の理解。
・「発達“障害”」がある自分の捉え方:障害のイメージがあまりよくないため、自分でどのように捉えるかを考える。
助けを求められる子に育てよう
発達障害をもつ子供にとって重要なのは、助けを求められること。保護者や先生はそのように育てることが大切です。
・SOSを求め、ナチュラルサポーター(クラスの友達や周りの人たち)に助けてもらう。
・診断を受け、合理的配慮を求める。セルフアドボカシー(自分はこういう障害があって、こういう配慮をすれば、これができるということを把握することが重要)。
セルフアドボカシースキル(SAS)を身に付ける支援
・自己理解:得意・不得意の理解と受容、失敗の原因の特定。
・合理的配慮の理解と適切な配慮要求:どんなサポートを受けると、何ができるか明確に提案。
発達障害をもつ人が、働く職場に対し、「どのようなサポートをしてもらうとこんなことができるか」を言えるようにしておくことが大切です。それには、子供のときからそのように育てることが大切です。
学校の先生も1人でがんばらないで、ぜひ、福祉の人と連携をとって特別支援を進めていってください。
高山恵子(たかやまけいこ
NPO法人えじそんくらぶ代表。臨床心理士。薬剤師。
昭和大学薬学部卒業後、約10年間学習塾を経営。1997年アメリカトリニティー大学大学院教育学修士課程修了(幼児・児童教育、特殊教育専攻)。98年同大学院ガイダンスカウンセリング修士課程修了。専門はADHD等高機能発達障害のある人のカウンセリングと教育を中心にストレスマネジメント講座にも力を入れている。
取材・文・構成・撮影/浅原孝子 イラスト/有田リリコ
特別支援に関する本が好評発売中
『通常学級の発達障害児の「学び」を、どう保障するか
〜学校・家庭・福祉のトライアングル・プロジェクト〜』
障害を支える考え方や子供の学びを支える事例、子供と一緒に学びを作る事例など、学校、家庭、福祉の連携で子供をどのように支え、どうすれば「学び」の保障ができるかが紹介されています。発達障害児をもつ保護者、教育関係者、教師が知っておきたい内容が満載です。
前文部科学省特別支援教育調査官・田中 裕一/著
四六判 208ページ
ISBN978-4-09-840213-7