【木村泰子の「学びは楽しい」#8】「発達障害」のレッテルを貼っていませんか?
映画「みんなの学校」の舞台、大空小学校の初代校長の木村泰子先生が、全ての子どもが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方についてアドバイスする連載の第8回目。今回は、母子登校をする小1の保護者のご質問から、困っている子どもへの対応について考えていきます。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】
執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子
目次
あなたならどう対応しますか
「初めまして。二児の母で、今小1の息子と母子登校しています。仕事の日もありますので、休みの日は母子登校、仕事の時は祖母が代わりをしてくれています。 どうして学校行かなきゃいけないの? どうして宿題、勉強しなきゃいけないの? どうして どうして どうして? 支援学級に在籍で、授業を受けるどころか床に寝そべって叫んでいます。 学校側は、お薬を飲んで落ち着いて取り組めることが増えることで、彼自身も楽になるのでは!とのお話、木村先生はどのように思われますか? またどのように行動していけばよいか? アドバイスいただけると嬉しいです」
読者の方からの相談です。いっしょに考えてみましょう。
この方の子どものように「なぜ学校に行かなきゃいけないのか」「どうして宿題や勉強しなきゃいけないのか」と困っている子どもがいることが今の学校の当たり前です。
先日報道されていた滋賀県の学校の50代の教員による「いじめ」のケースも「どうして?どうして?どうして?」と聞いてくる子どものことを、言葉を知らない子だから無視しようと周りの子どもを教員が先導した事例です。その教員は仕事のストレスがたまっていたとのことですが、言い訳になりません。信じられない学校での出来事です。「ブラック企業」と揶揄される今の学校現場では、とても残念ですが、発覚するかしないかだけで、同様のことが起きていると考えたほうがよいかもしれません。断じてあってはならないことです。
この相談をいただいた方の子どもも、同じ被害にあっているのではないかと危惧します。ただ、この子は、周りのみんなから分断されて、支援学級で学んでいるのですよね。もしかすると、この子の「どうして?」は「どうして自分だけが違う教室で学ばなければいけないの?」「どうしてみんなと同じ教室で学べないの?」と訴えているのかもしれません。幼稚園や保育園ではいつもみんなと一緒に過ごしていたのに、小学校に入ったら突然、みんなと離れて違う教室で大人と勉強することになるのですから、納得がいかないのが当たり前です。まだ、床に寝そべって叫んでくれているだけありがたいと思うのです。そのうちに、学校での学びをあきらめてしまったら、どんな行動をとるのかと心配でなりません。大人は「この子のために」と配慮するのですが、あくまでも主語が大人なのです。子どもを主語に創造することをしないで、子どもの納得が得られるわけがありません。
薬を投与する目的は?
先ほどの読者の方のお話に戻りましょう。
「学校側は、お薬を飲んで落ち着いて取り組めることが増えることで、彼自身も楽になるのでは!とのお話」とのことでしたが、学校がやるべきことは、薬を飲ますことではなく、その子の周りの環境を調整することです。私には、その子自身が楽になるためではなく、学校(教員)が楽になるために薬を、と言っているように聞こえます。
薬の投与に関して、ようやく最近はエビデンスに基づいた分析が行われ、検証結果が公表されるようになってきました。「向精神薬は、注意欠陥や学業成績の低下などが見られる子どもの困難を改善するのではなく、授業妨害や規則違反、ケンカなど、子どもが引き起こす迷惑行為を鎮めるために使われるケースが多いが、この投与は危険である」と言われています。すべての子どもが安心して学び合えるマニュアルであるか、規則であるか、スタンダードであるかなど、学校の環境を問い直し、子どもの周りの環境を調整して、それでもなおかつ子どもの困り感が起きるようなら、医学的な治療を考えてもよいだろうとのことです。
薬には必ず副作用が伴います。子どもが服薬した副作用はまだ検証されていません。学校が薬を勧めるなど、あってはならない行為です。
大空小の9年間には「発達障害」「不登校」というレッテルを貼られた子どもが多く転校してきました。この子どもたちのほとんどが薬を飲まされていましたが、誰一人として薬が必要な子どもはいませんでした。その子の周りの環境が調整できれば薬は飲まなくても済むのです。「自分が考えて自分が決めて自分が行動するのが学校での学びだよ」「みんなといっしょのことをするのではなく、みんな違っていることが当たり前なんだよ」との空気が学校に豊かに広がっていけば、暴れる子は暴れなくなり、叫ぶ子は叫ばなくなります。
ふつうの子なんてどこにもいない
「発達障害」の言葉は思考停止を招きます。専門家(教育・保育・福祉・医療)が問い直しをしなければ、負の連鎖は止まりません。
「ふつう」に標準を合わせて「ふつうの子」を育てなければと思っている限り、「発達障害」のレッテルを貼られる子どもは増える一方です。
学びの目的は、「その子がその子らしく育つこと」です。学ぶのは子どもです。これまでの学校の当たり前を変えない限り、ますます「発達障害」「不登校」のレッテルを貼られる子どもが増え、「地域の学校」での学びの場から排除されるでしょう。周りの子どもたちが失う学びも取り戻さなければなりません。
先生たちが学ぶ相手は目の前の子どもからのはずです。自信をもって、子どもに学ぶ学校(教員)になってくださることを願います。
学校のやるべきことは、薬を飲ますことではなく、その子の周りの環境を調整すること。「発達障害」というレッテルを貼り、大人の都合で子どもを排除するのではなく、「その子がその子らしく育つ」学びの場をつくっていこう。
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きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。