デジタル教科書②【わかる!教育ニュース#11】
先生だったら知っておきたい、さまざまな教育ニュースについて解説します。連載第11回のテーマは「デジタル教科書」です。
目次
2024年度から小5~中3の英語でデジタル教科書を採用
本格的な導入に向けて議論が重ねられてきた、デジタル教科書。このほど、中央教育審議会の作業部会で、導入への具体的なスケジュールが示されました(参照データ)。2024年度から小5~中3の英語で取り入れるという中間報告案が、大筋で了承されたのです。
ただ、文部科学省は24年度にも本格導入する考えでした。なぜ、学年を限定し、英語から始めることになったのでしょうか。
中間報告案を見ると、デジタル教科書を巡り、学校の通信環境や指導面での課題に言及しています。そのうえで現場が混乱せず、効果的に活用するには、教科や学年を絞って段階的に進めるのがよいと結論付けています。そこで、音声再生機能が、聞く、話すといった指導に役立つとされた英語で、先行する流れになりました。
25年度以降は、文科省の実証事業でニーズが高かった算数・数学でも取り入れる考えです。図形やグラフの作成に使いやすいことも見込まれています。
ただ、当面は紙の教科書との併用も提案しています。個々の子どもの学び方には特性があり、紙とデジタルの両方で学べる環境が必要なことと、デジタル教科書に慣れるのには数年かかると見たためです。デジタルよりも紙が勝る点を感じる子も少なくなく、文科省が実証事業に伴って行った調査では「書き込みやすい」「学んだことを残しやすい」が多く挙がりました。
デジタル教科書の不便な点で最多は「フリーズやエラー表示への対処」
政府のGIGAスクール構想が新型コロナウイルス禍で前倒しされ、デジタル教科書を使う下地が整いました。文科省の有識者会議は21年3月、小学校で使う教科書の次の改訂のタイミングになる24年度からの本格導入を提言。具体的にどう取り入れるかを、作業部会で22年3月から検討してきました。
ねらいは、一斉に進める授業からの転換です。文科省は、GIGAスクール構想やデジタル教科書によって、それぞれの理解度に応じて自分のペースで学ぶことができ、子どもが主体的に学習方法を考えることも期待しています。個々のつまずきや習熟度を教員が把握しやすいとも説いています。拡大や読み上げ、ルビ振りなどの機能を生かせば、障害のある子や外国籍の子も使いやすいでしょう。
ただ、文科省が教員に行った調査では、デジタル教科書の不便な点で最多は「フリーズやエラー表示への対処」でした。通信環境が影響していると考えられ、多様な機能を備えた教科書が、授業を滞らせる恐れがあります。そのため、中間報告案はデジタル教科書について、「シンプルで通信負荷の軽いものであること」としました。
デジタル教科書を巡っては、子どもの視力への影響、使いこなすための教員研修、そして自治体の財政力によって付属教材や学習支援ソフトの活用に格差が生まれることなど、考えるべきこともまだあります。深い学びにつなげるというなら、学習効果だけを声高に語らず、弊害も含めて両面から検証することも求められます。
参照データ
▽文部科学省
個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた教科書・教材・ソフトウェアの在り方について(案)~ 中間報告(論点整理案)
https://www.mext.go.jp/content/20220825-mxt_kyokasyo02-000024664_3.pdf
執筆/東京新聞記者・中澤佳子