もっと教員数が増えないと、とばかり捉えないで【妹尾昌俊の「半径3mからの“働き方改革”」第11回】

連載
妹尾昌俊の「半径3mからの“働き方改革”」
特集
小学校教員の「学校における働き方改革」特集!

学校の“働き方改革”進んでいますか? 変えなきゃいけないとはわかっていても、なかなか変われないのが学校という組織。だからこそ、教員一人ひとりのちょっとした意識づけ、習慣づけが大事になります。この連載では、中教審・働き方改革特別部会委員などを務めた妹尾昌俊さんが、「半径3m」の範囲からできる“働き方改革”のポイントを解説します。

執筆/教育研究家・合同会社ライフ&ワーク代表・妹尾昌俊

仕事を仕分ける

醬油で有名な千葉県野田市。ここは文部科学省事業なども活用して、意欲的な取り組みが進んでいる。私が特に興味深いと感じたのは、大学生を雇って教師の一日に密着したことだ。大学生がストップウォッチを持って、先生がどんな仕事に何分くらい従事しているのかを記録していく。

下図は、小学校におけるある2人の教諭の一日だ。

学級担任の業務内容を見直すことで、業務量を減らす!
●専門職としての業務(75~80%)と一般職でもできる業務(20~25%)の弁別をつける。
●特に、ベテラン教員の担任でも、約20%の業務は一般の方でもできる業務であることがわかった。人に任せる意識を持たせたい。また、一般職でもできる業務については、積極的に分業(学級事務支援員に依頼等)を考えていくことが重要である。

これによると、簡単な丸付け、部活動、集金など、必ずしも教師が行わなくてもよい業務(市の呼び方では「一般職可能業務」)は20~25%程度ある。これは2017年度の調査なので、いまは業務内容が多少ちがっている可能性はある。

もちろん、受け持つ児童生徒によってもちがうだろうし、時期にもよる。だが、ひとつの目安として、必ずしも先生がやらなくてもいい業務が相当程度あるというのは、参考になると思う。

さらに野田市で教師が行うべき専門業務と仕分けたものの中にも、教師以外の人と分業できる余地があるものや効率化を図ることができるものもあると思う。

もっと教員数を増やせという主張の問題

私は、働き方改革や業務改善、学校マネジメントの講演・研修などを全国各地で行っているが、教員や教育委員会からほぼ必ず出てくる質問、意見がある。

「国はもっと教員数を増やしてほしい」

この主張は、私としては、半分正しいと思うが、半分疑問である。

確かに、とりわけ小学校では、仕事の量と範囲に比べて教員数が少な過ぎる。持ち授業コマ数も中高よりも多くて、勤務時間中に授業準備や校務分掌などをやりきれない部分もある。私は、これは大きな問題だと思っているし、度々国の審議会や拙著でも教員定数の見直しを提案してきた。

だが、疑問も残る。

第1に、この主張の裏には、他人(文科省ら)のせいにして、自分たちのことを棚に上げている部分があるのではないか。もちろん、学校現場も十二分に頑張っているところが多いのだが、実は文科省が義務づけていないこと、やれと言っているわけではないところで、現場がやり過ぎている部分もある。部活動の過熱化や行事の過重な準備はその典型例だ(※1)。

また、野田市の調査のように、しっかり洗い出し分析すると、教師以外にも分業可能なものも少なくない。もちろん、これも教師以外のスタッフの予算などが必要であり、ただちに実施できることばかりではないが、現状に改善の余地はあるということは事実だ。

財務省も主張しているように、国費をもっとくれと言うのであれば、貴重な税金(あるいは将来世代への借金のつけ)なのだから、まずは業務改善や部活動の在り方の見直し等を進めて、学校の役割や教師の仕事量を減らすとともに、分業と協業を進めていく必要がある。

第2に、本当に教員数が増えれば、長時間労働は削減するのかは、今後検証が必要である。学級あたりの児童生徒数が少ない学校では、小規模ゆえの難しさもあるものの(例えば、一人がたくさんの校務分掌を持つ)、事実上、通常の学校よりは教員数が手厚い。だが、そうした小規模な学校でも長時間労働が深刻な人は多い(※2)。

※1…本連載第5回の記事で、運動会も見直せる余地があることについて書いた。
※2…ただし、国の教員勤務実態調査(2016年実施)の分析結果によると、学級での児童生徒数が多いほど、学内勤務時間は長い傾向が統計的にも有意である(小中ともに)。だが、長期間労働には他の要因も影響している。

働き方改革に必要なのは、合わせ技

もちろん、学校現場にばかり頑張れと言いたいのではない。過労死ラインを超える人が非常に多いこの業界において、長時間労働を解消していくには、さまざまな組織、人々が、それぞれのできることを進めていくしかない。中教審答申等もさまざまな施策や取り組みを合わせ技で進めていくという発想である。ぜひ読者のみなさんも自分たちの周りで進められることを、今一度探してほしい。

『総合教育技術』2019年2月号に加筆

野村総合研究所を経て独立。教職員向け研修などを手がけ、中教審・働き方改革特別部会委員などを務めた。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』『学校をおもしろくする思考法』(以上、学事出版)、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』(教育開発研究所)、最新著書に『教師と学校の失敗学 なぜ変化に対応できないのか』(PHP研究所)がある。

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