小二道徳授業ルポ「くまくんのたからもの」大切な物と困っている相手とをてんびんにかけながら考えさせる
道徳の研究に力を入れている東京都町田市立小山ヶ丘小学校の授業実践を、文部科学省の浅見哲也教科調査官の解説入りでご紹介します。
目次
教材
教材名:「くまくんのたからもの」(東京書籍)
主題: あたたかい気持ち〈B親切、 思いやり〉
導入
本時のねらい
幼い人や友達に温かい心で接し、 思いやりの心をもって親切にしようとする心情を育てる。
1 自分の宝物について発表する
教師は肩にかけた小さな肩かけバッグを見せながら、「このバッグの中に、どんな宝物を入れますか」と子供たちに聞き、教材の内容につながるようにします。
子供たちの発言
練り消しゴム
宝石
お金
お友達にもらったもの
展開
2 教材「くまくんのたからもの」を聞いて、話し合う
BGMを流しながら、語り聞かせ、教材に浸らせます。たくさんの宝物を手にした喜びを押さえ、宝物を捨てるときの葛藤につながるようにします。
発問
かばんが宝物でいっぱいになったとき、くまくんはどんな気持ちになったでしょう。
子供たちの発言
うれしい。
たのしい。
どんどん増えてくると笑顔になる。
発問
かばんにねずみくんが入れば、両手を使って登れることに気づいた時、くまくんはどんなことに気付いたでしょう。
「ええい」と宝物を捨て、ねずみくんの子を助けると強く決心したときのくまくんのやさしさを、動作化を通して考えさせます。
くまくん役を通した子供たちの発言
宝物がいっぱいあるけど、ねずみくんを助けるためには、捨てないとできない。
宝物は探せばあるけど、ねずみくんの命は一つしかないから…。
授業の工夫
授業研究の視点として、「どう広げていくか」 「どう深めていくか」を模索しています。その一つとして、発表する子供だけではなく、うなずきやつぶやきなどの子供に対し、「うなずきはどういうことだったの。教えて」 「今のつぶやき、みんなに教えてあげて」とみんなに広げ、深く考えさせるきっかけにしています。
浅見先生の花まるポイント
「子供たちの一人ひとりの考えを引き出し、その後ネームプレートで自分の考えをもたせ、その根拠を聞くところが道徳の学習としてしっかり押さえられています。」
中心発問
くまくんが「一つでも、これは特別な宝物なんだ」と心の中で言ったときの気持ちを考えましょう。
子供たちの発言
ねずみくんが拾ってくれたどんぐりだから。
ほかの宝物とはちがう。大切にしたい。
3 自己を見つめる
これまでの生活をふり返り、相手の立場を考え、困っている人に親切にする気持ちのよさについて考え、ワークシートに書かせます。
発問
相手のことを考えて、親切にした時の気持ちを教えてください。
子供たちのワークシートから
しんせつにしてよかったな。またしんせつにしてあげよう。しんせつにした子と友だちになりたいな。
おりがみがおちていて、ドキドキしたけど一年生にききにいきました。そしたらおりがみのもちぬしがわかりました。そのときはとてもうれしかったです。「ありがとう。」ともいわれました。それに2回もいわれました。とてもとてもうれしかったです。
このあいだ、一年生がないていたからじゃんけんでわらわせた。わらってくれてよかったなとおもった。
終末
4 一年生との交流について話す
子供たちが一年生のことを思って書いた手紙を一年生の子供たちが真剣に読む姿の写真を見せることによって、これからも幼い子にやさしく接するという意欲をもたせるようにします。
文部科学省教科調査官 浅見哲也先生からのアドバイス
低学年の子供たちでさえも、どのようなことがよいことで、どのようなことがいけないことなのかは、さまざまな体験から学んできているものです。ですから自分のことはさておき、よいことを言おうとする傾向があります。野場先生はそんな子供の実態をしっかり把握して、導入では子供たちの宝物を確認し、教材を活用してその自分の大切な宝物と困っている相手とをてんびんにかけながら考えられるようにしています。残されたたった一つのどんぐりを貴重な宝物だと感じ取れる子供たちの純粋さで心を洗濯することができました。
取材・文・構成/浅原孝子 撮影/北村瑞斗
『教育技術 小一小二』 2021年12/1月号より