「消費者教育」とは?【知っておきたい教育用語】
成年年齢が引き下げられたこともあり、消費者教育の重要性が高まっています。その目的や方法について理解しておくことが必要です。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・宮崎猛
目次
消費者教育の定義
2012年、「消費者教育の推進に関する法律」が施行されました。この法律には消費者教育の定義が以下のように規定されています。
消費者の自立を支援するために行われる消費生活に関する教育(消費者が主体的に消費者市民社会の形成に参画することの重要性について理解及び関心を深めるための教育を含む。)及びこれに準ずる啓発活動
消費者教育の推進に関する法律
消費者の自立支援と消費者市民社会の形成に参画のための資質育成が消費者教育の目的となっています。ここに示されている消費者市民社会については、消費者が社会の発展と改善に積極的に参加する社会であるとされています。
消費者教育の背景
消費者は商品を自由に選択する権利をもっています。その商品の品質や性能については生産者からの情報に依存せざるを得ない状況にあります。また、消費者の購買意欲は広告や宣伝に左右されがちです。こうしたことからアメリカでは1962年にケネディ大統領(1917〜63年)が消費者主権として、①知る権利、②選ぶ権利、③安全である権利、④意見を反映させる権利の「消費者の四つの権利」を提唱しました。
日本でも1960年代頃から商品の品質や安全性を消費者自らチェックするなどの消費者運動が発展してきました。現在ではクレジットカードやインターネット決済の普及、また、あとを絶たない悪徳商法などからより消費者の自立が求められる状況にあります。17の国際目標(持続可能な開発目標=SDGs)の12番目の目標にも「つくる責任、つかう責任」があげられました。
政府はこうした状況に対応するために製造物責任法(PL法、1994年)やクーリング・オフ制度を定めました。2004年には消費者基本法が制定され、2009年には消費者庁が設置されました。消費者基本法では「消費者の四つの権利」に、⑤消費者教育を受ける権利、⑥生活の基本ニーズが保障される権利、⑦救済を求める権利、⑧健康な環境を求める権利が加えられ、八つの権利となりました。
さらに2022年4月より成年年齢が引き下げられ、18歳以上であれば親の同意のない契約が可能になり同時にその責任も負うことになりました。こうしたことから消費者教育の重要性が様々な視点や立場から求められるようになったのです。
消費者教育の方法
消費者教育は多岐にわたり、学校教育を含む社会全体で取り組むものとされています。政府(「消費者教育の推進に関する基本的な方針」閣議決定、2013年)は消費者教育が育むべき力として以下の4つを挙げています。
①消費者市民社会の構築に関する領域
消費が他者に影響を及ぼし得るものであることを理解し、適切な商品やサービスを選択できる力など
②商品等やサービスの安全に関する領域
商品等やサービスの情報収集に努め、内在する危険を予見し、安全性に関する表示等を確認し、危険を回避できる力など
③生活の管理と契約に関する領域
契約締結による権利や義務を明確に理解でき、違法・不公正な取引や勧誘に気付き、トラブルの回避や事業者等に対して補償、改善、再発防止を求めて適切な行動をとることができる力など
④情報とメディアに関する領域
情報、メディアを批判的に吟味して適切な行動をとるとともに、個人情報管理や知的財産保護等、様々な情報を読み解く力を身に付け、活用できる力など
上記を受けて学校教育では家庭科や社会科、公民科、総合的な学習の時間(総合的な探究の時間)などで公正な取引を実践する仕組みや消費者契約についての基本的な知識・技能の修得、インターネットの普及への対応として消費生活に必要な情報リテラシーの向上、問題商法の例やその対応の仕方などを図る指導が求められています。
消費者教育の事例
学習指導要領には消費者教育の充実した事例として以下が挙げられています。
【小学校】
●社会科
・販売や生産の仕事、消費者の多様な願いを踏まえ売り上げを高めるよう、工夫して行われていることを理解すること
●家庭科
・売買契約の基礎について触れること
【中学校】
●公民分野
・消費者の保護について、それらの意義を理解すること
●技術・家庭科(家庭分野)
・クレジットなどの三者間契約についても扱うこと
・売買契約の仕組み、消費者被害の背景とその対応について理解
・自立した消費者としての責任ある消費行動を考え、工夫すること
【高等学校】
●公民科(公共)
・多様な契約及び消費者の権利と責任
●家庭科
・契約の重要性、消費者保護の仕組み
▼参考資料
文部科学省 (ウェブサイト)「これならできる!消費者教育 自立した消費者を育成するための主体的な学びヒント&事例集」(2021年)
内閣府(ウェブサイト)「消費者教育の推進に関する基本的な方針(基本方針)」(2013年)