GIGAスクール時代を生きる先生方にとって、何が必要? 「先進的な自治体&小学校」の「ICT活用」実例⑤

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「先進的な自治体&小学校」の「ICT活用」実例
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鹿児島県鹿児島市では、これまでに紹介してきた県域アカウントや、鹿児島市学校ICT推進センターが進めるGIGAスクールフォーラムなどの研修、各家庭も含めた環境の整備などを実施。それを基盤に、同市立星峯西小学校のような実践が行われていることを紹介してきました。
今回は、それ以外の学校での実践状況や学校外での取り組みについて紹介します。最後に現場の先生へのメッセージもいただきました。

デジタルへの置き換えにより、子供同士が話し合う時間が20分以上とれることも

その他にも多様な実践が各校で蓄積されていると、同センターの木田博所長は話します。

「最初に、デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションについてお話しをし、まずは『しら(調べる)、とる(撮る)、つく(作[創]る)、とる(録る・残す)』を合言葉に、デジタイゼーションから始めましょう、というお話をしたと思います。

そのような取り組みも実際にやってみると、多様な利点が見えてきます。

例えば、考えをノートに書いたものをホワイトボードに書いて、黒板に貼り出し、共有しながら対話していくような方法も、よい授業の一場面として見られました。しかし、これをデジタルに置き換えると、手元のノートを撮って送ればよく、書き換える必要がありません。それを黒板に貼り付けることに手間取ったり、書いた文字が読めなかったりするような問題も起きないのです。

実際に、このようなデジタルへの置き換えを行った学校では、書き換え、貼り出し、それを読み取る時間を短縮することができます。そのおかげで例えば、以前は子供同士が話し合う時間が10分もとれていなかったものが、20分以上、じっくりと話合いにあてることができたという例もあります。

ICTによる授業時間の効率化
タブレット端末の活用で、より授業が効率化される実例。

さらに、先のようなデジタルへの置き換えによって、それまで挙がらなかった手が挙がったりする場合もあります。そうすると、今まで手が挙がらなかったのは、考えが浮かばなかったからではなく、視認性が悪かったため友達の考えを比較しにくかったからではないかと気付くこともあるのです。

あるいは、ある先生は授業の最後に板書を撮って、最後に子供たちに送っています。それを見た子供たちは、板書を見ながら自分が必要だと思うことを書き込み、自分たちなりの板書に整理し直し、さらにそれを先生に送り返すような取り組みをしているのです。

そうすることによって、子供たちも自分自身のふり返りをきちんと行い、それを蓄積していくことで、ショートスパンやロングスパンで、自分の学びを構築したり、見直したりすることができます。先生の側も子供たちから学びの結果が送られてくることで、子供の学びを見とるとともに、自分の授業や板書を省察できるわけです。

あるいは研究指定校のある学校では、予習型学習(反転学習)を日常に落とし込むような取り組みをしています。

ちなみに反転学習は、ICT機器が出てきたからできた考え方ではありません。私が昔学ばせていただいた上田薫先生は、『分からないことから分からないことへ』と言われていましたし、有田和正先生は『授業と授業の合間で授業をつくる』と言われていました。授業が終わり、課題を解決した時点で終わりではなく、そこでまた新しい問いが生まれる。そこから『あれが気になって仕方がない』と思う子たちが、次の授業の前に自分で調べてくる。そういう授業が実現できると、子供たちが授業の最初から課題意識をもって取り組むような、新たな価値に基づく授業ができるようになると思います。

実際に、先の小学校では子供たちが主体的に予習型学習(反転学習)を進めることで、いわゆる学習者を中心とした学びができるわけです」

反転学習の実践事例
反転学習の実践事例。

今までスポットが当たらなかった、社会にとっては必要な子供たちのもつ力を認めていく

こうした学校内の教育実践だけでなく、既存の学校教育の枠組みを超え、子供たちの力を評価し、伸ばしていくようなコンクールも、同センター中心に行っていると木田所長。

「以前、本センターでは、学習メディア作品コンクールという名称で、多様なコンクールを行っていました。しかし、2021年度から未来型デジタルスキルコンクールと名前を変え、大きく二つに絞って実施をしています。

未来型デジタルスキルコンクール
学習メディア作品コンクールで、教科学習以外の活用を通した資質・能力の育成も図る。

その一つはデジタルプレゼン部門で、ICTを使って、自分の考えをどう相手に伝えるのかを競うコンクールです。もう一つはコンピュータグラフィック部門で、簡単に言えばコンピュータで描く絵なのですが、ここで評価したいのは図工や美術のコンクールなどではなかなか評価されにくい絵です。しかしアニメなど、サブカルチャーの世界では高く評価されたりしているようなものです。そのような、今まで学校教育の中ではスポットが当たらなかったけれども、社会にとっては必要な子供たちのもつ力を認めていこうという取り組みです。

その他、デジタルシチズンシップの教材を導入したり、鹿児島大学の先生に協力していただいてプログラミング教育の出前授業を行ったりするなどもしています」

「まず一歩を踏み出さないと次の一歩はない」GIGAスクール時代

このような、多様な取り組みを基盤にしながら、さらに教育DX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進めていくという鹿児島市。最後に、GIGAスクール時代を生きる先生方にとって何が必要なのか、聞いてみました。まず、永田指導主事は次のように話します。

「先生方は本当にまじめなので、『きちんと自分ができるようになってからでないと…』と思いすぎがちです。その意識の変革を図ることが大切だと思います。まず一歩を踏み出さないと次の一歩はないのですから」

木田所長は、次のように話します。

「これまで先生方は、自分たちが教えることが仕事だと思っていたでしょう。先生が多くの知識をもっていて、そのうちのいくつかを分け与えていくようなイメージですよね。実際に先生方自身はそのような教育を受けてきたのだと思います。

しかし、GIGAスクール時代は子供の手元にICT機器があり、先生の知識量の何万倍、何億倍の知識を一瞬で検索できるのですから、その構図は根底から揺らいでいます。

そうであるのならば、先生は子供たちと共に学びながら、学び手としてのモデルとなったり、集めた情報をどのように精査し、自分の考えを構築していくのかといったことをファシリテートしていく役割になったりするのだと自覚していくことが必要だと思います。

先生の仕事は学び方を学ばせることであり、機器の使い方や操作については子供から聞いたり、学んだりしてもよいのだとマインドセットを変える。そこから一歩を踏み出してほしいですね」

最後に、辻教育部長は全国の現場の先生方に向けて、こう話してくれました。

「鹿児島は今、さまざまな場で『風は南から』をキーワードにしていて、教育現場でも新しい風を私たちから吹かせていこうとしています。

以前、自然豊かな地域を求めて都市部から鹿児島に移住してきた方が、『教育現場はすばらしいが、都会と同じレベルの教育が受けられるか心配だ』とおっしゃることもありました。しかし、GIGAスクール時代に入り、ICTを活用することで、都市部と地方の差がなくなってきていますし、さらに言えば、地方のメリットを生かし、地方が教育をリードしていくことも可能だと考えています。GIGAスクール構想のそのような面にも目を向けていきたいと思っています。

永田千章指導主事、辻慎一郎教育部長、木田博所長
写真右から、鹿児島市学校ICT推進センターの永田千章指導主事、鹿児島市教育委員会の辻慎一郎教育部長、同センターの木田博所長。

執筆/矢ノ浦勝之

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