先生といっしょに水の恐怖を克服だ!【4年3組学級経営物語11】
8月②「具体的な支援」にレッツ・トライだ!
4年3組担任の新任教師・渡来勉先生……通称「トライだ先生」の学級経営ストーリー。アンテナを張り、子ども達の悩みに寄り添う大切さを知った渡来先生。泳げないことに悩むハジメを支えるため、個に応じた支援をしっかりと実践し、悩みの解決へ一歩一歩進んで行きます。
文/濱川昌人(よりよい学級経営を考える大阪教師の会)
絵/伊原シゲカツ
目次
<登場人物>
トラウマ脱出大作戦、開始!
「えっ、洗面器で練習するの! それも屋上で」
校舎屋上に、水を満たした洗面器が二つ。
海パン姿の二人が、その前に座ります。
「今日の課題は基本中の基本の体得。水中では絶対に息を吸わない、吐くだけ。…それだけ」
思い切り息を吸い込んだ渡来先生が、洗面器に顔を突っ込みブクブクと泡を吹き出します。
「水の中では息を吸い込まなきゃいい。横にいるから安心して」
うん、と頷き洗面器に顔を入れるハジメ。
最初は恐々。でも暫くして慣れてきました。
勢いを増していく泡を、先生は見守り続けます。
「吸うのは空気だけ…、それを守れば大丈夫!」
ハジメが納得できた時、暑さでフラフラになりながらも先生はニッコリ微笑みました。
「よし明日から浮く練習だ。プールに入るぞ!」
「俯せの姿勢で、お腹の下にビート板を入れると絶対浮く。フロートも増やすから大丈夫だ」
プール開放後の二人だけの秘密練習。
最初はしがみついていたハジメが、徐々に水平な姿勢になってきた時、新たな課題が示されました。
「今度は重心のコントロール。頭を上げればお尻が沈む。下げれば浮く。…見本を見せるから」
浮いたり、沈んだりして見せる渡来先生。
「頭を下げると体は浮く。これは泳ぐ姿勢の基本だ」
頭を上げ下げする練習を続け、浮く姿勢を実感します。
それから数日後、フロートの数も怖さも減少したハジメ。
「人の体は浮くことが納得できれば、もう怖くない。明日からいよいよ壁キックにトライだ」
個に応じた支援の大切さを学ぼう
「頭を下げ、両手を前で揃えて、壁キックの姿勢!」
壁際でハジメの体を支え、何度もスタート姿勢を体得させます。次に、壁をキックする練習。
「よ~し、じゃあ実際に壁キック、いってみよう」
両手を伸ばしたハジメが体をクルッと曲げ、壁を両足で蹴ると一筋の航跡が描かれました。
「空を飛んでいるって感じだ。楽しいなぁ!」
よりよい姿勢を考え、何度もキック。
回を重ねる度に、距離が少しずつ伸びます。
十数度目に浮上した時、盛大な拍手が聞こえました。
4年の先生方がプールサイドに揃っていました。
「よくやった、ハジメ。上手に泳げているぞ!」
渡来先生に続き、葵先生の声が響きます。
「もう秘密にしなくて大丈夫よ。明日から、皆と一緒に練習しましょう。待っているからね!」
本当に嬉しそうに微笑むハジメ。
視線を主任に移した渡来先生は、深々と頭を下げました。
「支援方法を教えていただき、ありがとうございました。それにアンテナの感度の低さ、個に応じた支援の未熟さも…。気になる子、まだいます。夏休みは、個に応じた支援を頑張ります」
無言で頷く主任に、さらに決意を述べる先生。
「そして、もう一つトライします。それは…」
そこにいきなり、葵先生の言葉が飛んできました。
「教育書の読破よね。私が貸した本、読んでる?」
「そ、それは…」 と絶句する渡来先生。
教師力向上を目指す夏のぶらり旅の計画、…語る機会は消えました。
(9月①につづく)
『小四教育技術』2017年8月号増刊より