「授業時数特例校制度」とは?【知っておきたい教育用語】
授業時数の配分について学校による一定の弾力的な運用が認められる制度が、2022年度から始まります。これによって、学校や地域の実態に照らし、より効果的な教育を実施することが期待されています。
執筆/国立教育政策研究所総括研究官・植田みどり
目次
標準授業時数はどのように決められているか
標準授業時数は、学習指導要領に示されている各教科等の内容を指導するのに要する時数を基礎とし、学校運営の実態などの条件を考慮して定められています。
小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程では、学校教育法施行規則において、教科等ごと、学年ごとに標準授業時数が定められています。
標準授業時数は、各教科、特別の教科 道徳、総合的な学習の時間、特別活動など、それぞれにおいて定められています。
小学校の場合、1年間の標準授業時数は、1単位時間を45分として計算して、1年生は850、2年生は910、3年生は980、4・5・6年生は1015となっています。
各学校は、この標準授業時数を踏まえて、学習指導要領に基づいて各教科等の教育活動を適切に実施するための授業時数を具体的に定め、適切に配当する必要があるとされています。決めるに際しては、学校の教育課程全体のバランスをとりながら、児童生徒、学校、保護者の実態等を考慮する必要があります。
「授業時数特例校制度」創設の背景
このような「標準授業時数」がありながら、2021年7月、「授業時数特例校制度」が創設されました。
制度の出発点は、同年1月に発表された中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」です。同答申において、標準授業時数は、教育の機会均等や水準確保の観点から、学習指導要領が求める教育の質を量的に支えるものとして大きな役割を果たしてきたとしながらも、次のような問題点が指摘されました。
- 児童生徒や教員の負担について考慮すべきである。
- 学習状況に課題がある児童生徒も含めて、指導すべき内容を一般的に教えることが可能なものとなっているか検討する必要がある。
- ICTを活用した学習指導を踏まえた柔軟なあり方などを検討する必要がある。
このような課題に対応する仕組みとして創設が提言されたのが「授業時数特例校制度」で、2022年度から運用が開始されることになりました。
これは、学校や地域の実態に照らし、より効果的な教育を実施するため、これまでの標準授業時数は確保した上で、教科等ごとの授業時数の配分について一定の弾力化による「特別の教育課程」の編成を認める制度です。
これは、「学校教育法施行規則」の「より効果的な教育を実施するため、当該小学校又は当該地域の特色を生かした特別の教育課程を編成して教育を実施する必要があり、かつ、当該特別の教育課程について、教育基本法及び学校教育法第30条第1項の規定等に照らして適切であり、児童の教育上適切な配慮がなされているものとして文部科学大臣が定める基準を満たしていると認める場合」(第55条の2)という規定に基づいて指定されるものです。
この制度設立の趣旨は、各学年の年間の標準授業時数の総授業時数は引き続き確保した上で、教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成や探究的な学習活動の充実等のために、カリキュラム・マネジメントに関する学校裁量の幅の拡大を図ることです。
この趣旨を生かすためにも、2008年の文部科学省告示第30号で示された、〈学習指導要領の内容事項が適切に取り扱われること/年間の標準授業時数の総時間数が確保されること/児童生徒の発達段階、各教科の特色に応じた内容の系統性、体系性に配慮がされること/義務教育の機会均等の観点から保護者の経済的負担などに配慮がされること/児童生徒の転出入などの教育上必要な配慮がされること〉が指定の要件とされています。
「授業時数特例校制度」の申請と運用
授業時数特例校になるためには、教育委員会などの管理機関を通して文部科学省に申請します。
この制度では、学年ごとに定められた各教科等の授業時数について、1割を上限として各教科の標準授業時数を下回って教育課程を編成することを特例的に認め、下回ったことによって生じた授業時数を別の教科等の授業時数に上乗せすることができます。なお、新教科を置く特例については教育課程特例校の申請が必要です。
これにより、言語能力、情報活用能力などの学習の基盤となる資質・能力や、伝統文化教育、主権者教育などの現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の育成を推進することが目指されています。
制度の対象は、小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程です。
対象となる教科等は、小学校では、国語、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家庭、体育、外国語です。中学校では、国語、社会、数学、理科、音楽(第1学年)、美術(第1学年)、保健体育、外国語です。年間標準授業時数が35単位時間以下の教科等(例えば、特別の教科 道徳、特別活動など)や総合的な学習の時間は対象外とされています。
「特別の教育課程」の内容(特別の教育課程の編成の方針、教育課程表など)については、事前に保護者・地域に説明するとともに、学校のホームページにおいて公表するものとなっています。
文部科学省は、これから始まる取り組みなので、この制度の運用の状況を把握し、検証するために、引き続き調査等を行うとしています。2022年度から指定された学校においてどのような教育活動が展開され、どのような成果が検証されるのか注目されます。
▼参考資料
文部科学省(ウェブサイト)「授業時数特例校制度」説明資料
文部科学省(ウェブサイト)「教育課程特例校制度・授業時数特例校制度」