つくりながら学ぶコンピュータの時間で子供たちの創造性を育む~加藤学園暁秀初等学校・中原悟先生の実践例
2020年に小学校でプログラミング教育が必修化されてから2年。現場では、さまざまな取り組みが行われています。
加藤学園暁秀初等学校では、必修化前の2018年に、コンピュータ専科としてカリキュラムを再編し、1年生から6年生まで全学年が段階的にプログラミングやICT、コンピュータサイエンスを学ぶ仕組みを構築しました。その目標は、プログラミングを通じて創造性を育むこと。
コンピュータ専科でICTクラブを指導し、全学年のコンピュータの授業を担当している中原悟先生に、実際にどのように授業を行っているのか、詳しくお話を聞きました。
中原悟(なかはら・さとる) 静岡県の私立小学校、加藤学園暁秀初等学校教諭。現在、ICTコンピュータ専科教諭と学級担任を兼務。2019年には、顧問を務めるICTクラブが「小・中学生のための国際ロボット競技会」で優勝。同年、専科として指導した6年授業クラスが、マインクラフトカップ2019で大賞を受賞。また、企業や行政、自治体の教材開発やプログラミング教室のカリキュラム開発にも携わる。国語、地理歴史、公民、社会、体育の免許状取得後、IB文学、Language Arts、物語と映像の構造分析も研究対象としている。
目次
1年生から6年生まで、階段状に積み重ねて学ぶカリキュラム
加藤学園暁秀初等学校の教育理念は「21世紀に生きる創造性豊かなたくましい人間づくり」です。この「創造性」を育むため、2018年から、「総合的な学習の時間」の1コマ(45分)を、プログラミングやICTを活用して「つくりながら学ぶ」コンピュータの時間としました。1年生から6年生までの全ての学年の子どもたちが、楽しみながら試行錯誤を繰り返し、プログラミングやコンピュータサイエンスの基礎を学ぶ授業 (オープンプランICT・プログラミング) です。
この授業は、6年の卒業時に、コンピュータやプログラミングを活用して、自分のテーマでオリジナルロボットやプログラミングで動く作品を制作して発表することを目標にしています。そのために、1年生から6年生まで階段状に積み重ねていくカリキュラム案を作成したのです。
各学年の発達段階や興味・関心を考えて、さまざまなロボットプログラミングの機材やプログラミングソフトを検討して選びました。そして、ロボット専用の研究室を作って、2018年6月には、120台のアーテックロボがいつでも稼働できる状態になりました。
ワクワクしながら学ぶ、プロジェクト型のプログラミング授業
子どもたちには「プログラミングって楽しい!」「もっとやりたい!」とワクワクしながら学んでもらいたいと思っています。そこで、教科横断型の授業や、様々な企業や開発者の協力を得たりして、子どもたちが自信や達成感を得られるようなプロジェクト型の授業を行っています。
2018年度の5年生の「未来の自動車」プロジェクトでは、アーテックロボで自動走行車を作りました。社会科で工場見学に行く自動車関連企業の経営者の方から、小学生が制作する自動走行車を見たいというお話があったので、「プログラミングで動く! 未来の自動車コンテスト」を実施し、同社に審査をお願いしました。
子どもたちは、未来の技術の1つである自動走行の仕組みを学ぶために、全員が超音波センサーや赤外線センサーを使って、自動走行車を制作。衝突防止自動ストップ、サイレン機能、ランプ点滅、荷物の自動積み下ろし機能、空を飛ぶ構想など、ユニークなアイディア満載の自動車ができあがりました。
このプロジェクトでは、社会科の「自動車工業」で学んだことや、自動車関連企業の経営者の方から聞いたことをもとに、子どもたちがそれぞれの興味・関心に従い、創意工夫してオリジナルの自動走行車を作ることができました。これは現在も5年生の定番プロジェクトとなっています。
わからないことは調べて、わかったことは共有する、「自分で概念をつかみとる」スタイル
私は、プログラミングの授業は「教えない」、子どもたちが「自分で概念をつかみとる」スタイルで行っています。そのために、WEBで自由に検索できたり、関連書籍も用意してすぐに手に取って調べられるような環境をつくっています。
もちろん最低限のプログラミングのルールや仕組みは教えます。自動走行車を作るときは、全員がまず数値を読み取るプログラミングコーディングを修得し、赤外線を反射する角度や色などを調べるための実験をしました。子どもたちは、授業の中でいろいろ試しながら、大切な概念やコツをつかみとっていくのです。
わからないことがあれば、家で本やICTを活用して徹底的に調べてくる子どももいます。またわからないことは、得意な人に聞き、わかったことは皆の前で発表して全員の「共有知」にします。
そして、自分が作りたいデザイン、持たせたい機能を決めたら、一人一人がオリジナルの自動走行車づくりを目指していきます。これは、“入り口”は同じでも、答えは、子どもの数だけある、という「オープンエンド」の手法です。
1人ひとりがプログラミングに取り組み、難しい課題にはチームで挑戦
みんなで情報を共有するので、「それ、面白そうだね」といって、自分が追究するテーマや関心が似た子ども同士が集まり、チームを作って取り組むこともあります。例えば、ロボットカーを作り終えた3年生が、二足歩行の研究をチームでやりたいと言ってきたこともあります。
ただ、最初からチームで活動すると、プログラミングが得意な子どもが独占して開発してしまい、チーム活動にまぎれて最終的に何も身につかない子どもが出てしまう、といったこともあります。
だから、まず1人ひとりがプログラミングをして作品を作って動かし、その上で、さらに難しい課題に取り組むために、仲間の知恵が必要だったらチームを結成してよいことにしています。どの授業、どの学年でも、最終的にはチームになったり、逆に1人で黙々と自分のプロジェクトを続けていったりするような授業になっています。
制作の過程や完成作品を共有することで生まれる、学びの好循環
制作過程でクラスの仲間と情報共有するときは、ロイロノートの共有機能を使っています。自分がコーディングした画面や、撮影した作品の動画を、授業中に別の児童に送ったりしています。動画などのデータ量のある作品は、iPadのAirDropを使ったりもします。
全員の作品が完成したら、ロイロノートの提出ボックスに出した「設計図」や「動画」を、教室のプロジェクターでスクリーンに投影して発表会を行います。「設計図」は、自分のプロジェクトや作品を一目でわかるように説明するためのシートです。私の授業では2年生からロイロノートでこの設計図を制作できるようにしています。
例えば自分が制作したロボットを説明するために、ロボットの写真や、使ったもの、機能、コーディング画面、工夫したこと、課題、動画など、1枚のシートに自分の言葉で表現しながら、まとめていきます。いわば「デジタル設計図」です。
また、高学年は、動画で発表してもよいことにしています。私の授業では、子どもたちが自分の表現したい内容に合わせて、機材やソフトウェア、アプリケーションを選択できるようにして、自分の表現したいスタイルに合わせて、すべて児童が制作します。
企業など外部の人に発表するときは、学校のウェブサイト上で掲載した児童の作品ページを視聴してもらい、メールで送られてきた感想を子どもたちに伝えています。
子どもたちは、クラス発表会だけでなく、常にロイロノートの提出ボックスで全員の作品を見ることができます。友達の作品を見て、「〇〇君の作品、すごい!」と、教室で自然に感想を伝えあうようにもなりました。
すると、その動画や設計図、作品そのものを実際にどうやって作ったのか、制作者本人に聞くようになります。聞かれた子どもは自分の言葉でわかりやすく説明しなくてはならず、この問答が子どもたちの理解をさらに深めます。このような学びの好循環が、作品の共有と交流によって実現可能になったと思います。
「なんでもやってみる」を実現! 未来のテクノロジーを学ぶAI探究学習
2019年度からは、AIを学ぶために、AIを自分たちで作りあげるAI探究学習に挑戦しています。2020年には、AIサービスを考案するプロジェクト授業を行いました。
AIを使ったサービスや未来のテクノロジーの動画をみんなで見ると、子どもたちは「AIは怖い!」「難しすぎる!」などの感想を持ちます。そこで、本当に怖いものなのか、実際に市場や地域、家庭にあるAIサービスを調べて体験してみました。すると今度は「AIってすごい!」「便利!」などと言い始めます。
そこで、Scratchの拡張機能であるAIブロックを使って、「AIで〇〇を自動識別する作品(マシン)」を作るプロジェクトに取り組むことにしました。PCのカメラが何かを見た時に自動認識するプログラムを、Scratchで制作します。作り方や、問題が起きたときの解決方法は、テックパークのAIブロックのページを見て学びました。
プログラミングの過程では様々な誤差が生じます。なぜそれが起こってしまうのか、子どもたち一人一人が検証や調べ学習を行い、最終的には全員がAIによるさまざまな自動識別マシンを完成させました。例えば、教室における自動識別防犯マシン、散らかった文房具を識別するマシン、低学年に生活探検カードで言葉を覚えてもらう学習マシンなどです。
その時、学校行事のバザーでゲーム店を出店するグループが、店員不足を解消するために「AI自動レジ」としてこのマシンを活用できないかと提案してきました。子どもたちは、実際にバザーで試作機の検証を行い、自分たちの開発したものが、リアルな現場で活用できることを実感したのです。
ビジュアルコーディングからテキストコーディングへの移行とその課題
コンピュータの授業では、1年生からアーテックロボを使ったビジュアルコーディングをスタートし、5年生からはIchigoJamなどでテキストコーディングも導入していました。5年生になるまでには、子どもたちは、様々なビジュアルプログラミングを経験しているので、テキストコーディングにもスムーズに取り組むことができ、こちらの方がわかりやすいという子どももいました。
ただ、テキストコーディングの場合は、例えば、1文字でも違ってはいけないというコーディングルールがあります。うまく動かなかった時にそのプログラム上のミスを見つけるのは、子どもたちにとっては非常に難しかったようで、授業中に動かせなかったり、教師の手伝いが必要だったりする場合も多くありました。
本校のコンピュータの授業では、プログラミングの基礎を学ぶとともに、プログラミングを活用して、ものを作る・動かす、そして新しいサービスやシステムを自分たちで考案することも1つの目的としています。週1コマ45分しかない授業(活動)時間の中で、1人ひとりが、「つくりながら学ぶ」ことができるように、現在はビジュアルプログラミングを中心に行っています。
それでも、ビジュアルプログラミングからテキストコーディングへの移行は非常に興味深い研究分野です。高校の情報科の内容にスムーズに移行できるように、小学校から高校までの12年のコンピュータサイエンスのカリキュラムとしても考えていくべきだと思っています。
教員の役割は、子どもたちの好奇心と秘めた力を引き出し、学びの形にすること
プログラミングでロボット制作をすることに、あまり興味を持てない子どもももちろんいます。それは今までの子どもたちの遊びや創作活動の経験とも関係していると思います。
アイデアが浮かばない子どもには、「かわいいロボットを作ってみたら?」とか「お家のペットロボットをつくってみたら?」といった、その子にあったアドバイスをします。
アーテックブロックを作ったロボットプログラミングの場合、ブロックがカラフルで、様々な組み合わせによる自由度の高い作品を作ることができます。だから、プログラミングの中身や機能よりも、ロボットのデザインにこだわる子どももいます。
また、ある程度の作品に仕上がったら、設計図や動画にするように勧めています。この分野での表現や編集、デザインが得意な子どももいるのです。1人ひとり、興味や関心も、得意な分野も違うので、みんなが自分のやりたいことをとことん追究できる機材や材料を提供し、表現ツールを自由に選択できる環境づくりを目指しています。
プログラミングの授業で何をしたらいいのか、迷っている先生たちも多いと思います。そんな場合は、まずは子どもたちと一緒にやってみる、つくったものを動かしてみることをお勧めします。
教員の役割は、子どもたちの知的好奇心と「つくってみたい!」「動かしてみたい!」という気持ちを引き出し、それを学びの形としてデザインしていく、そのためのお手伝いをすることと捉えています。
つまり、授業や教材のネタは子どもたちの中にあるものと考えます。教員が何でも教えるのではなく、一緒にいろいろトライして、子どもたちが、「もっとやってみたい!」「家でも調べてくる!」と言ってくれるような授業をすること。私はいつもそれを目指しています。
*中原先生の取り組みについては 、iTeachersTV 『創造性を育む小学校のプログラミング授業』 で紹介されています。
▼ 『創造性を育む小学校のプログラミング授業』 (前編)
▼ 『創造性を育む小学校のプログラミング授業』 (後編)
取材・執筆/石田早苗