授業づくりはアートです!<思考のタガを外すありえない授業vol.1>

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先生のためのアート思考(『13歳からのアート思考』末永幸歩先生)
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美術教師・アーティスト

末永幸歩

「美術」はいま「大人が最優先で学び直すべき科目である」ーー中学・高校の美術教師として行ってきた自身の授業内容を一般向けに書き下ろし19万部突破のベストセラーとなった『13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)の著者・末永幸歩先生。浦和大学こども学部で教員志望の大学生に「ありえない図工の授業!」と題した授業を展開されてきた取り組みをご紹介します。

末永幸歩先生
末永幸歩先生。2021年11月、浦和大学にて。

「ありえない図工の授業!」とは?

『13歳からのアート思考』では、6つの代表的な現代アート作品を取り上げ、そのアーティストがその時代にどのような常識を疑い、自分なりの問いを立てて自分なりの答えを出したか、というプロセスがエキサイティングに綴られています。(とても面白いので、未読の方はぜひお読みください!)

そのような授業スタイルが生まれたきっかけは、末永先生自身が美術教師として子どもたちと向き合う中で、技術や知識の習得に偏りがちな図工や美術の教育に疑問を抱いたことがきっかけだったといいます。

変化が大きく先行きの見えないこれからの時代はますます、教科書通りに業務をこなすだけの教員ではなく、自分の頭で考え、真の意味で責任を持って教育に向き合う教育者が必要となるはず、という信念のもと、浦和大学で教員志望の大学生に向けて授業を行ってきました。

「教育者の卵である学生には、教育のノウハウを身につけること以前に教育の当たり前を問い直すことをしてほしい、と考えました。この授業は、まずは学生たちに『図工教育における常識』と思われていることを書き出してもらい、それをいったん否定することから始めます。当たり前とされていることを、『それは絶対なのか』と疑い、問い直すのです。こうしてできあがる授業は、既存の図工の常識にあてはめると“そんな授業ありえない!”と、一蹴されるでしょう。しかし、それで良いのだという想いをこめて『ありえない図工の授業!』という授業名にしました」(末永先生)

この授業で大切にすること・しないこと

末永先生授業中
学生たちに話をする末永先生。

授業は、2021年の秋から2022年の1月までの間、合計15回にわたって行われました。

【テーマ】ありえない図工の授業!

【ねらい】ものごとに疑問を抱き、それについて自分なりに考える。
・この講義では造形教育における様々な制約から離れて「ありえない授業」を空想する。
・決められた通りに業務を遂行することだけが目的化した教育者ではなく、自分の責任で「未来の答え」を創っていく教育者を目指す。

【概要】
末永先生による常識を疑うワークショップを積み重ねながら、3〜4人で1グループとなった学生がひとつの「ありえない図工の授業」(30分間、オンラインでできる授業)を企画し、小学1〜3年生を対象に実際に実施(一般社団法人アルバ・エデュが協力)。予算は5000円以内。授業実践を行って感じたことや気づいたことから、また新たに疑問を抱き、考えることを繰り返す。学生の思考過程を綴ったレポートは、オンライン上で学生同士が見ることができる。

【この講義で大切にするもの】
□教育の当たり前に疑問を抱くこと。
□自分なりに考え続けること。
□「そつなくこなす」より、恐れず実験して「失敗する」方が良い。

【この講義で度外視するもの】
□授業のテクニック
□授業の出来栄え
□学校教育における現実的な制約
□すぐに見える授業の成果

末永先生の、「大切にするもの」と「度外視したもの」からは、教育現場の常識に対する強い問いが伝わってきます。

「図工の常識」を全て書き出し、それを問い直す

「まず、一般的な図工の授業を客観的に観察することから始めました。例えば手元にある図工の教科書の中から題材を選び、その授業のねらい、授業を行うのに必要な物、準備や手段・手順などを全部書き出してみたんです。そして、書き出した事項について『なぜそれが必要か?』『本当に必要?』『それが絶対ではないとしたら?』というように、一つずつ問い直していきました」(末永先生)

末永先生のノート
末永先生のノート。書き出すことで自分の思考を客観的に見ることができる。末永先生自身も、日々ノートを持ち歩き、感じたことを書き出しているという。

授業づくりもひとつのアート

「その後、その問い直しをきっかけに生まれたアイデアを授業の形に落とし込みます。この段階では、問いははっきりとしていなくてもよいと考えました。『やってみて考える』ということでもいいと思うんです。学生同士でゲラゲラ笑いながら『こんな授業面白そう』と発想したり、試しにやってみたりした後、振り返ったときに問いが生まれてきたらそれでいい。私が最初から最後まで学生たちに言い続けたのは、今回重視するのは、授業という『作品』ではなくて、授業づくりをきっかけにして、自分なりの問いを見つけることなんだよ、ということでした」(末永先生)

探究のイラスト
『13歳からのアート思考』より

「『13歳からのアート思考』の中で、私は、自分の中に眠る興味・好奇心・疑問を『興味のタネ』、自分の興味に従った探究の過程を『探究の根』、そこから生まれた答えが目に見える形になったものを『表現の花』と書きました。授業というのも、『表現の花』に過ぎないと考えています。アートの本質は『興味のタネ』と『探究の根』にあり、それがなければ花はすぐに萎れてしまうでしょう。実は、私自身、この講義で学生たちの作った授業を見ていて、『これはよくある授業だな。もっと変わったことをしてもいいのに』と思ってしまったことがありました。でも、それは授業という『花』を見てしまっているなと、ハッと気がついたんです。結果としては『よくある授業』に見えたとしても、学生たちに小さな疑問が生まれたならそれでいいじゃないか、その人なりに考えて根をはっていたならそれでいいじゃないか、と考え直しました。ですから、私は授業そのものの出来よりも、学生たちが提出する思考の過程がわかるレポートを注視していました。授業づくりも、アートの一つだと私は考えています」(末永先生)

末永先生プロフィール写真

末永幸歩(すえながゆきほ)
武蔵野美術大学造形学部卒、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。浦和大学講師、東京学芸大学個人研究員。中学・高校で展開してきた「モノの見方がガラッと変わる」と話題の授業を体験できる「『自分だけの答え』が見つかる 13歳からのアート思考」は19万部を超えるベストセラーとなっている。


いかがでしたか? 学生のうちに、学校現場の制約を度外視した授業を実際に子供たちに行えるなんて、とても貴重な経験になりそうですね! 実際に授業ができるまでの様子も、ぜひお読みください。

取材・構成・文/福原智絵

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