#32 未来の新しい自分を見つけるために【連続小説 ロベルト先生!】

連載
ある六年生学級の1年を描く連続小説「ロベルト先生 すべてはつながっています!」

前文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官/十文字学園女子大学教育人文学部児童教育学科 教授

浅見哲也

今回は芸術祭の映画の台本より、長縄跳びの練習をせずサッカーをしているだいすけをめぐみが説得するシーンから、縄跳びがうまく跳べないなな子とそれ励ますお母さんのシーンまでをご紹介します。

第32話 校庭3 だいすけを説得するめぐみ(芸術祭)

怒っているめぐみ

(縄跳び練習をしている横で、サッカーをしているだいすけとその仲間)

めぐみ「ねえ、だいすけくん。長縄跳びやろうよ。」

だいすけ「おれはやんねえよ。そんなままごとみたいなもん、やってられっかよ。」

あやか「キャプテンのあきらくんがけがをしちゃって大変なの。」

だいすけ「そんなのおれには関係ねえだろ!」

あやか「そんなこと言わないでさあ。もう、クラスのみんなも諦めちゃってさあ。このままじゃ親善運動会で優勝できないよ。」

だいすけ「おまえ、まだそんなこと考えていたのか。やめとけ、どうせ無理なんだから。そんな意味のないことをするよりも、おまえは親に期待されているんだから、勉強でもしてれば…。」

めぐみ「何よ、それ! だいすけくんのわからずや。それでも男なの。もういいわ。頼まない。好きなサッカーだけやってれば。ふん!」

(走っていくめぐみを見つめるだいすけ)

【なな子の家】

なな子「お母さん、明日、私、学校休む!」

「どうしたの、風邪もひいてないのに。」

なな子「休むって言ったら休むの!」

「何よいきなり。…わかった、テストで0点でもとったんでしょ。」

なな子「そんなんじゃない。」

「わかった。好きな子にふられたんでしょ。」

なな子「ちがう!」

「わかった。今度こそ当たりよ。学校でおもらししたんでしょ。」

なな子「(言い終わるか終わらないうちに)いい加減にしてよ! 私…、私…、(泣きながら)縄跳びがうまく跳べないの。私がいたら優勝できないの。だから、私なんていない方がいいの。」

「そうだったの…。」

(ちょっと間をおいて)

「なな子、顔をあげてごらん。誰だってうまくいかないことはたくさんあるのよ。でもね。そこで諦めちゃだめよ。『ピンチはチャンス 』 って言うでしょ。今はつらいかもしれないけど、この苦しみを乗り越えれば、きっとなな子は今よりも、もっともっと強くなれるわ。それにね…」

なな子「(ちょっと間をおいて)それにって?」

「実は…今までなな子に隠していたことがあるの。あなたの名前、なな子の「な」は、縄跳びの「な」、もう一つの「な」は、何でも諦めるなの「な」なのよ。」

なな子「えっ! そうだったの!(真剣に驚く)」

「そうと決まったら今から練習よ。未来の新しい自分を見つけるためにがんばるのよ。」

なな子「うん。」

(母となな子は手と手を握り合う)

(電信柱に縄の片方を縛りつけて、お母さんが励ましながら練習を始める)

(陰でゴースト三人がその様子を見ている)

挿入歌  平井堅「思いがかさなるその前に…」

次回へ続く


執筆/浅見哲也(文科省教科調査官)、画/小野理奈


浅見哲也先生

浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。

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