#24 絵本のもつ不思議な力【連続小説 ロベルト先生!】
読書の秋になりました。絵本には子どもから大人まで魅了する不思議な力があります。ロベルト文庫を用意して、読書週間のひと知恵です。
第24話 読書の秋
稲の穂が垂れ、収穫の時期を迎えた。
実りの秋、食欲の秋とともに、スポーツの秋、読書の秋、芸術の秋など何をするにしても過ごしやすい季節。慌ただしい毎日を過ごしてきた子どもたちには、落ち着いて読書をするなど取り組んでもらいたいと考えた。
しかし、子どもたちにとって読書は、好きな子と嫌いな子にはっきり分かれる。好きな子は放っておいても時間を見つけては図書室から借りた本などを読んでいる。しかし嫌いな子は、図書室に連れて行って本を借りさせたり、読書感想文を書くために読ませたりしないと、なかなか本を広げようとしない。
私自身も子どもの頃はテレビ中心の生活で読書は嫌いだった。だから、その気持ちがわからなくもない。
緑ヶ丘小学校では、毎朝15分間、朝の読書タイムがあるので、時間と空間をしっかり確保することで、読書に親しむ子も少しずつは増えてきている。
◇
たまたま私が行きつけの床屋さんで順番を待っていると、そこに数冊の絵本が置かれていた。
童心に返って絵本を手に取り読んでみると、あっという間にその物語の世界に引き込まれた。それと同時に心が和んだり、改めて考えさせられたりと、大人が読んでも、いや、その年齢相応に子どもの時とは違った思いが広がった。
「子どもたちにも読んでもらいたい」
絵本には、子どもから大人まで魅了する不思議な力がある。
読書嫌いな子でも、絵本なら文章もそれほど多くなくて読みやすい。これがきっかけとなって、読書を今までよりも身近なものに感じてもらえるといい、そのような思いで図書館の絵本コーナーに駆け込んだ。すると、あるある、たくさんの絵本が…。
私は数冊の絵本を手にとった。読むと懐かしさがこみ上げてくる。
「うさぎとかめ」のお話では、山の頂上まで競走することになり、うさぎがどんどん先に進むが、あまりにもかめが遅いのをいいことに、途中で昼寝をしてしまう。そのすきにかめがうさぎを追い抜いて勝つというお話だ。
また、羊飼いの少年がオオカミが来てもいないのに「オオカミが来たぞ!」と嘘をついて、村人をだまして喜んでいたら、今度は本当にオオカミが来て、「オオカミが来たぞ!」と叫んでも誰にも信じてもらえずに羊を食べられてしまうというお話もあった。
この他にも、「アリとキリギリス」や「金の斧、銀の斧」のお話など、どれもすでに私の記憶に残されていたお話だ。
一体いつの間に私にインプットされたんだろう? 母が読み聞かせてくれたのかもしれないし、幼稚園の先生が紙芝居をしてくれたのかもしれない。
でも、こうした記憶が、もしかしたら大人になった私に、怠けたり、嘘をついて人を騙したりしてはいけないと働きかけてくれているのではなかろうか。
「よし、クラスにも絵本を置いて読んでもらおう」
私は、自分で読んでみて、これはと思った絵本を購入してクラスに置いた。
その後も本屋さんに行った時には絵本コーナーに立ち寄って、心に留まった物は購入してクラスに置いた。すると、すでにあった学級文庫の他に、もう一つの学級文庫ができたので、私はこれを「ロベルト文庫」と名付けた。
その中のいくつかを紹介する。
『だいじょうぶ だいじょうぶ』作者:いとうひろし【講談社】
おじいちゃんとの散歩。おじいちゃんのいつもの一言から世の中の道理を学び、愛情に包まれていきます。そして、今度はぼくがおじいちゃんを…。
『いのちのあさがお』作者:綾野まさる【ハート出版】
白血病で命を絶った一年生の男の子。その子が残していった朝顔を大切に育て続ける母の思い。命の尊さがじわっと心にしみこみます。
『さっちゃんのまほうのて』作者:田畑精一【偕成社】
指のない手をもつ女の子の気持ちを通して、人そのものを丸ごと愛そうとする思いが沸き立ちます。
『君のいる場所』作者:ジミー〈幾米〉【小学館】
出会いは紙一重、そのような偶然の出会いを大切にしたくなります。中学校ではどんな出会いがあるのかな?
『葉っぱのフレディ』作者:レオ・バスカーリア【童話屋】
生涯を全うし、散っていく一枚の葉。死を乗り越えたところに命のつながりを感じさせてくれます。
『千の風になって』作者:新井満【理論社】
一つの詩との出会いを通して死んだ者に対する見方が変わり、決して姿は見えなくても共に生きていこうという気持ちが沸いてきます。
『勇気』作者:バーナード・ウェーバー【U・LEAG】
勇気は様々。これまでの他人の勇気に気付くとともに、自分の心の中にある勇気のスイッチを入れたくなります。
『みんなのためのルールブック』作者:ロン・クラーク【草思社】
大切だけど、当たり前すぎてなかなか言えない50ものルールをわかりやすく語ってくれます。
『光る泥だんご』作者:加用文男【ひとなる書房】
光る泥だんごの作り方について、ひたすら真面目に書かれているこの本は、そのストレートさが感動的です。この結果、子どもたちに泥だんご作りが流行ったことは言うまでもありません。
執筆/浅見哲也(文科省教科調査官)、画/小野理奈
浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。