#23 このドキドキは、がんばってきた者だけが味わえるもの【連続小説 ロベルト先生!】

連載
ある六年生学級の1年を描く連続小説「ロベルト先生 すべてはつながっています!」

文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官

浅見哲也

今回は親善運動会の後半のお話です。ついに練習を重ねてきた長縄飛びチャレンジの本番が始まりました。たった7分間にかける気持ち。そして結果は…。

第23話 いよいよ始まった

「よし、みんな、そろそろ始まるから、トラックに移動するぞ」

いよいよ始まる。応援スタンドの横を通ると、保護者からの応援の声が聞こえる。我が子に声をかけるお母さん。お父さんの顔も数人見られた。

始まる前に、みんなで円陣を組んだ。

「今のこのドキドキは、これまで優勝を目指してがんばってきた者だけが味わえるものなんだ。後は全力を尽くすことだけを考えていこう! 学校のため、家族のため、そして、自分のためにがんばろう!」

私の言葉の後に、代表委員のグッチが気合いを入れた。

「三組、ファイト!」

「オーーーーーー!!」

縄の回し手の長谷川さんと加藤さんは、お互いに見つめ合いながら覚悟を決めた。そして、他のみんなは列を作り、スタートの合図を待った。心臓の鼓動がドックン、ドックンと高鳴る。

「位置について、用意~」

「パン!」

ピストルの音が陸上競技場に響き渡ると、一斉に声が上がった。

「1、2、1、2…」

「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ…」

いろんなかけ声が入り乱れる。子どもたちも無心になって跳び始めた…。

本番では、他校の記録係の先生しかカウンターを持つことができないため、何回跳んでいるのかはわからない。私はストップウォッチを持って時間だけを計っていた。

1分経過。調子のよい時にはノーミスでいくところだが3回のミスがあった。1分で100回いったかどうかというところだ。次の1分、ノーミスでリズムに乗ってほしい。私の声も自然に高鳴る。

「よし、いいリズムになってきたぞ! その調子だ! ファイト!」

子どもたちも真剣そのものだ。

「3分経過! 3分経過しました」

一斉放送で場内に時間が知らされた。リズムに乗りかかると縄に引っかかり、ペースが今一つつかみ切れないでいる。しかし、ミスの後の立ち直りには練習の成果が出ている。

縄が2回も回らないうちにすぐに次の子が縄に飛び込みペースを上げていく。これは、跳ぶ子と回す子の気持ちが通じているからこそできることだ。

回し手の長谷川さんと加藤さんは、その日その日の子どもたちの様子を見抜いている。連続してひっかかるような子がいれば、その子が跳ぶ前から、

「○○ちゃん、今度は大丈夫。跳ばせてあげるから心配することないよ!」

と声をかけて、わずかではあるが、膝を曲げ、縄をゆるめて大きく回し、見事に跳ばせてしまう。それを2、3回繰り返すと跳ぶ子も自信をつけて、いつもの調子に戻っていく。

とにかく4月から、この7分間のために一生懸命練習してきた。たった7分間のために、どれほどの時間を費やしてきたのだろうか。それを考えれば、すばらしい結果を残してほしい。

しかし、どんな結果になったとしても、子どもたちにとっては一生の宝となるはずだ。

「困難を避けて通ることだってできたのかもしれない。諦めるのも簡単だ。だけど、何事もそんなに簡単に諦めちゃいけないんだ。

子どもたちは、将来、サッカー選手になりたいとか、パティシエになりたいとか、夢はちゃんともっている。そのくせ、努力もしないで現実を見つめるふりをして簡単に諦めるんだ。もしかしたら、どうせ無理だと感じながら夢を語り、自己完結しているのかもしれない。

でも、こうやって努力すれば、夢をかなえようとするステージにちゃんと立てるんだ。夢を叶える権利が与えられるんだ。それを子どもたちは、今、現実のものにしている。それをしっかり感じてもらいたい。この7分間のことを一生の財産にしてほしい」

私の心の中は、そんな熱い気持ちでいっぱいになった。

一番つらいはずの5分から子どもたちは粘りを見せた。誰一人ミスをすることなく跳び続けた。

そして6分が経過し、残り1分を切った。ここまでのペースとミスの回数からすると、800回に到達できるかどうかというところにいることを感じていた。

私は、ロベルトコーチとして一か八かの賭けに出た。

「長谷川さん、加藤さん、残り30秒の合図をするから、そこからはいつもより速めに回そう。ラストスパートをかけるぞ! みんなもついて来い!」

「よし、ラストスパートだ!」

明らかにいつもよりも縄は速く回っている。子どもたちも必死に縄に飛び込み、跳んで、抜けていく。

残り10秒。

「みんなで跳ぶのもラスト1回だっ!」

子どもたちは、最後の1回に全神経を集中させた。

「1、2、1、2…」

「パン!」

終了のピストルの合図が鳴った。

限界を超え、全力を出し尽くした子どもたちは記録に注目する。

結果は…

「790回」

子どもたちは…。

一斉に泣き崩れた。

泣き崩れる子供たち

こんな結果になろうとは…。

神様は残酷だ…。

これまでの最高記録が833回だっただけに、この結果には誰一人として満足はしていなかった。努力の成果が結果に結びつかなかった子どもたちの気持ちを考えると、見ているのが本当に辛くてたまらなかった。

こんな時、子どもたちに何と声をかければいいのか? どんな言葉をかけたとしても、なんの慰めにもならないことはわかっていた。

さっきのハードル走で優勝した奈々も泣いていた。そして私も…。

閉会式、すべての力を出し尽くし、静まりかえった子どもたちの上空には、秋の澄み切った青空が広がっていた。

「静」という字は「青い」に「争う」と書く。親善運動会の長縄跳びの「争い」の後に、「青い」空を眺めながら、心を「静めて」味わった充実感を三組の子どもたちと応援に来ていただいた保護者と私の一生の宝物にしたいと思った。そして三組は、また新たな目標を見つけて前進していくことを誓った。

こうして、緑ヶ丘小学校六年三組の長縄跳びへのチャレンジは幕を閉じたのである。

特技

その日から数日間は気が抜けたような日々が続いた。

夜、布団に入ると長縄跳びの場面が思い出される。もう一度やり直すことができたなら…。それは私だけではない。おそらく子どもたちや保護者も…。

しかし、子どもたちは私たち大人よりもはるかに切り替えが早かった。

2時間目の授業が終わり、休み時間を迎えたが、子どもたちの様子が何か変だ。もともとサッカーが好きだった男の子たちは、元気に外へ飛び出して行ったが、女の子たちは、教室でもじもじしている。

「どうした?」

「先生、休み時間に何をすればいいのかが、わかりません」

「は?」

「毎日、長縄練習をしていたので、それが急になくなると、何をしたらいいのかわからないんです。先生、決めてください」

「はあ、困ったなあ…、じゃあ、女の子だからオママゴト!」

「今時そんな遊びをする子はいません」

「じゃあ、しりとり。よし、早速始めるぞ。朝見の『あ』からね。じゃあ…『あきかん』、うわぁ、しまった。負けた」

「先生、そんなつまらない一人芝居はやめてください」

「はい、すみません!」

「じゃあ…○×って知ってる?」

そう言って私は、いらないプリントの裏に、鉛筆で「井」を書いた。

「初めにジャンケンをして、勝った人から「井」の線で区切られたどこか空いているところに○を書きます。次に負けた人が、空いている所に×を書きます。これを交互に繰り返して、縦・横・斜めのどれかに○か×を三つ揃えた方が勝ちです」

「あ、私やったことがある」

「じゃあ、約束しよう。この勝負は引き分けることが多いんだけど、もし、みんなが先生に勝つことができたら、宿題なしを1週間サービスしま~す」

「え~っ、本当? 私やるやる」

「よし、じゃあ、先生と勝負したい人は、ここへ一列に並べ!」

ということで、15人の列ができた。

「ジャンケン、ポン!」

宿題なしを賭けた勝負が始まった。

結果は、私の7勝8引き分け。○×にしてはすごい勝率である。

「まだまだだな。修行が足りん!」

それからと言うもの、女の子の間では○×がブームになり、それは男の子にまで広がった。宿題なしを勝ち取ろうと男の子も挑んできたが、私は容赦なく跳ね退けた。

調子に乗った子どもたちの中には、教室の黒板や学習ノートに○×をやり出した子もいたので、それは、ビシッと注意した。

「そんなにやりたければ、新聞の折り込みチラシの裏にやりなさい!」

教師として、ピアノやギターが上手に弾けるとか、絵が上手に描けるとか、どんなことでもいいから、これだけは子どもに負けないというものをもっているとよいと思う。それだけで子どもたちの先生を見る目が違ってくる。

私の場合は、それが○×ゲームだった。実はこのゲーム、勝つためのパターンがあるので、ちょっと研究するだけで、うっかりミスをしない限り、高い確率で勝つことができる。

もちろんその秘密は子どもたちに明かさない。放っておくだけで間違いなく何人かの子どもは考えてくる。勝ちパターンがわかった子とは、いくらやっても引き分けが続くので、そこでこのゲームからは卒業となる。

親善運動会が終わると、子どもたちは大きな目標を失った。子どもが目標を失う時は、非行問題行動に注意をしなければならない。それは、すべて、生活規律や学習規律が乱れるところから始まってくる。

普段付けるべき名札を胸に付けていなかったり、上履きのかかとを踏んづけてみたり、連絡帳をちゃんと書かなかったりすることからだんだんと崩れていく。

小学生では喫煙、飲酒というところまではなかなかいかないかもしれないが、学校にお菓子を持ち込んだり、お店で万引きをしたりすることはある。

だから、常に子どもたちには、次の目標になるものを考えさせる必要がある。今は与えられることが多いと思うが、やがては自分で夢や目標を設定し、努力できる人になってもらいたい。

次回へ続く


執筆/浅見哲也(文科省教科調査官)、画/小野理奈


浅見哲也先生

浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。

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