#7 リーダー格の女子と衝突して悩んでます【連続小説 ロベルト先生!】

連載
ある六年生学級の1年を描く連続小説「ロベルト先生 すべてはつながっています!」

文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官

浅見哲也

今回は、子供と教師との関係性に悩むお話です。リーダー的な児童はプライドが高い場合もあり、不用意に注意すると機嫌を損ねてコミュニケーションを取りづらくなることも。ロベルト先生はどのように関係を修復していくのでしょうか。

第7話 衝突

睨んでいる女子

六年三組がスタートしておよそ1か月が経った。

学級経営は最初が肝心である。この1か月で学級担任のスタンスを子どもは自然に探っている。つまりそれは、どこまでなら怒られないか、その基準を感じ取っているのである。

教師は基本的には子どもに嫌われたくない。だから優しくする。子どもの言うことをよく聞くのだ。

このようなスタンスは教師として基本的な姿勢なのかもしれない。しかし、いつもこのような姿勢で接し、何も問題が起こらないことをいいことに、学級がうまくいっていると勘違いしてしまうと大変なことになる。それは最初だけだ。

三組には児童会長を務めている花崎さんがいた。始業式の日に無言で背の順を決めたときにも先頭を切って動いていた彼女である。

本当によく気がつく子で、係の仕事はもちろん、友達にも指示を出して何でもテキパキとこなしている。授業中はどの教科でも積極的に手を挙げて発表する。ピアノも弾ければ字も上手い。スポーツも万能で非の打ち所がないとはこのことだ。

彼女にクラスを任せておけば、何も口出ししなくてもすべてがうまくいくような感じがしたので、彼女にお願いしてしまうこともしばしばあった。

クラスに慣れてくると、女の子の友達関係が少しずつ固まってきて、グループに分かれ始めた。「いろんな子と遊べるようになりなさい」とはよく言う言葉だが、男の子と違って女の子には難しいようだ。

今クラスは間違いなく花崎さんを中心に動いている。花崎さんとは別に、三組には田口航くんと長谷川優衣さんという学級委員がいる。そんな二人も花崎さんには一目を置いている。花崎さんがこうしようと言えばクラスはその方向に動き出していくのだ。

しかし、女の子の中にはそれが面白くない子もいる。もちろん学級委員の長谷川さんも、相手より一歩下がる性格から口にこそ出さないが、その内の一人である。そうなると自然に目つきが鋭くなり、ちょっと見ただけでも「睨んだ」になる。

それでも花崎さんは絶対に負けない。その花崎さんが自分の味方になる女の子や男の子を集め出し、陰で一方のグループを批判し始めたのだ。

いつの間にか花崎さんを支持する、いや、支配されている5分の3の子どもたちが、一部の女子に冷たい視線を注ぐようになっていた。

「このままではいけない!」

このような雰囲気や危機感を感じ取れず、花崎さんに任せておけば大丈夫だなんて悠長に考えていたなら、クラスにはいじめが起き、いわゆる「学級崩壊」への道をたどるのである。

さて、どうメスを入れていけばいいのか?

しかし、大人とは言えども、児童会長の花崎さんのようなプライドの高い子に切り込んでいくのはかなりの勇気がいる。

私は資料室に彼女を呼び出した。

「先生、何ですか?」

「花崎さん、いつもありがとう。先生は本当に助かっているよ。だけど、もう少しみんなの意見も聞いてあげるといいかもしれないね。何人かの女の子がちょっと元気がないんだ…」

「…」

花崎さんはきっと、自分の親以外、他人から注意された経験などないのかもしれない。私の言葉が言い終わらないうちに、今まで私の前では見せたこともないような目で私を一瞬睨み、プイと目線をそらした。

「先生の言うこと、わかってくれるかな?」

そう言うと、花崎さんはひと言、

「わかんない」

と言って口を閉ざしてしまった。

「ちょっと考えてみてくれないかな?」

この一件からしばらくは花崎さんと会話をすることもなくなった。と言うよりは明らかに花崎さんが私を避けていた。

「どうしたらいいんだろう?」

私は動揺を隠せなかった。

ちょうどこの頃、学校では硬筆展のための練習が始まった。1年のうちで文字を丁寧に書く活動が2度ある。最初は5月から6月頃に行う硬筆制作会。そして次が、冬に行う書き初め制作会だ。これらの活動はお手本を見ながら文字を美しく書くことが求められる。

私は硬筆練習の時期になると、書写の時間だけでなく、普段の授業のノートや連絡帳でも速さよりも美しさを意識して書かせるようにした。

特に、連絡帳の文字は保護者も目を通すので、子どもの文字の丁寧さはすぐに伝わる。連絡帳など普段から丁寧に書いている子は、硬筆でもとてもきれいに仕上げることができる。

連絡帳は、帰りの会の前に書いて必ず私が目を通すのが三組のルールだ。私が黒板に書いたとおりに子どもたちが写し取るのが基本であるが、時には黒板に書かず、口で伝えて書かせることも取り入れている。特に後者のやり方は正確に聞き取るだけでなく正確な漢字で書くことも要求されるので、メモを取る力や漢字で書く力が身につく。

しかし、今回は丁寧に美しく書くことが目的なので、私もできるだけ丁寧に連絡を板書する。

「宿題は計算ドリル。持ってくる物は三角定規。明日は歯科検診があります」

連絡帳が書けた人から教室の私の机に列を作って並び、私がチェックをする。いくら私が黒板に丁寧に書いても、子どもたちの中には、漢字を使わなかったり、小さな文字で書いたり、女の子特有の文字(通称ギャル文字)もいる。さらには、ごまかして私に連絡帳を見せに来ないだけでなく、連絡帳さえ面倒臭がって書かない子もいる。

見せに来た子には、チェックした印として判を押すことにしている。その判は「検印」のような真面目なものではない。実はカプセルトイ(百円を入れて回すと出てくるおもちゃ)やキャラクター商品など、なんでもよいので31個以上集めて、最低でも1か月は違う判が押せるようにしている。

まあ、ちょっとした子どもたちへのサービスだ。これを知っている三組の子どもたちは、家族でどこかへ旅行に行ったりすると、お土産として私にはんこを買って来てくれることもある。それは私へのお土産というよりも、連絡帳を通してクラス全員に還元されるので、遠慮なくいただき使わせてもらっている。

さて、硬筆展では、各クラスから代表2名を選出することになった。ここで選ばれると放課後残ってさらに練習することになり、地区ごとの作品展に出品することになる。そして三組からは、花崎真理さんと岡田敏幸くんが選ばれた。

放課後、各クラスの代表が一つの教室に集められ、音も立てずに黙々と練習する。一つ書き上げるごとに同じ学年の先生からアドバイスをもらう。

「岡田くんは文字を書く時って、何に気をつけて書いている?」

「線の長さとか、少し右上がりにするとか、はらいやはねかな」

「よく考えながら書いているんだね」

「ところで、線と線の間にできる隙間の形や面積なんか考えて書いたことはあるかな? それは一つの文字の中でも言えることだけど、それだけじゃなくて文字と文字の間にできる空間だったり一マスや一行にできる空間でもいいんだよ。その空間の面積を揃えたり、バランスよくすると、自然に中心も揃うようになって全体としてきれいに見えるよ」

「はい、わかりました」

岡田くんのいいところはとにかく素直なところである。だから、よいことはどんどん吸収できて、勉強でも何でもぐんぐん伸びる。

私は努力も大切だと思うが、それ以上に素直さが大切だと考えている。どれだけ才能のある子でも、努力以上に素直さがないと必ず自分の能力に限界が来て成長が止まる。人の意見が聞ける素直な子は、無限の可能性をもっていると言える。

さて、花崎さんにはどう声をかけるべきか。この前の件があるのでそっとしておいた方がいいのかもしれない。しかし、それでは、いつになっても私と花崎さんの溝は埋まらない。

私は花崎さんに思い切って声をかけた。

「花崎さんは相変わらず一文字一文字、形が整っていて本当に上手だね」

聞こえているのかは定かではないが、花崎さんは無言である。

「漢字も平仮名も書くときには鉛筆の先にまで自分の心を通わせることが大切だよ。漢字は肩幅を広げて堂々と力強く、平仮名は優しい心をしなやかな曲線で表現で、クッ、サッ、くうるっ、しゅい、てね。そうすると、今度は上手さを突き抜けて作品としての味が出るようになるよ。その味付けは花崎さんしだいかな?」

「知らない!」

また、突っ慳貪(つっけんどん)な答えが返ってきた。間違いなく私は嫌われている。しかし、ここで揺らいではいけない。絶対に負けてはならない。いつかきっとわかってくれる。とにかく今は焦らずに、下向きに閉ざされているコップをひっくり返せるチャンスを待つしかない。

教師は、子どもに任せるところと絶対に譲らないところをしっかりともつべきである。もちろん教師は、時と場合によって柔軟に対応できるバランスが大切である。しかし、バランスだけとっていればよいというものでもない。その中に自分のしっかりとしたスタンスをもつことが必要だ。

人によって態度を変えたり、ある時は認めてある時は認めなかったりすると、子どもたちは敏感にその不公平さを感じ取る。だからこそ、だめなことはだめ、正しいことは正しいとはっきり示せる教師の姿勢や態度が絶対に必要なのだ。

それを新学期が始まった段階で子どもたちの前で示す。正義が勝る学級経営は最初が肝心とはこのことである。

私がこだわっていて、子どもたちに譲れないものがいくつかある。

その一つは、教室内の座席決めだ。毎月1日に席替えをすると子どもと約束する。4月こそ名前と顔を早く一致させるために名前の順に並べて座席を決めたが、ひと月もすると名前と顔が一致して一人一人の子どもの様子がわかってくる。

あの子は授業中ちょっと落ち着きがないから前の方に座らせて集中させようとか、あの子は教室内の真ん中よりも窓際の方がストレスが溜まらなそうだ。また、4、5人のグループにした時には、どのグループにも、まとめ役ができそうな子、あるいは、まとめ役をやれるようになってほしい子を考えて配置するなど様々なことを考える。

もちろん今の段階では、花崎さんと長谷川さんは少し離れた位置にする。また、休み時間にトイレにまで一緒に行こうとするほどベタベタくっついているような子同士も距離をおくようにした。

さらには、ある男の子がある女の子を好きになる。小学生だと子どもの様子を見ていれば案外分かってしまうものだ。時には、こちらが聞かなくても休み時間の何気ない会話の中でわざわざ教えてくれることもある。そんな情報を知り得た時には、その二人は隣ではなく斜め後ろに男の子の席を配置し、見守れるようにすることも考えた。

それは考えすぎと言われるかもしれないが、それくらい緻密な配慮が子どもたちにとって毎日安心して通える居心地のよいクラスを作る秘訣だと思う。

少し下品な話だが、私はいつもノートを持ってトイレにこもり、30分くらい考えて座席を決めることが多い。

こだわりのもう一つは、宿題の出し方である。宿題にはどうしても個人差がある。同じ宿題でも5分でできる子もいれば30分かかる子もいる。また、宿題をたくさん出してほしいという保護者もいれば、塾があるから学校の宿題はほどほどにしてほしいという保護者だっている。

そこで考えたのが、宿題を「スタンダードメニュー」と「オリジナルメニュー」に分けるやり方だ。

スタンダードメニューとは、基礎・基本をしっかりと身につけるための内容で、音読や漢字の書き取り、言葉の意味調べ、小作文、計算練習などが中心である。宿題の内容は授業の進度を考えて、今日は漢字ドリル、明日は計算ドリルなどすべて私が決めている。

それに対してオリジナルメニューは、その名の通り子ども自身が宿題の内容を決めて学習する。新聞や本を読んだ感想文を書く子もいれば、自分で購入した問題集をやってくる子もいる。

スタンダードメニューが復習だけに、予習を中心にいろいろな教科の勉強をしている子もいる。塾の宿題を学校の宿題に充てる要領がいい子もいる。オリジナルメニューの意味をはき違えて、マンガのような絵やイラストなどを描き、楽をして宿題にする子もいる。

しかし、現状は、自分で学習する内容がなかなか決められないので、多くの子は私が与えた宿題をやってくる。

本来、勉強は自分で課題を見つけて取り組めるとよいと思うので、オリジナルメニューはその方向付けのつもりで考えたものだ。将来的には受験勉強もあるので、是非、身につけておきたい力である。

基本的には毎日宿題を出す。子どもたちはどちらかのメニューを選んで宿題をやり、次の日には必ず私に提出することになっている。

提出したノートはその日の帰りまでに見て、子どもたちに返すことはまずできない。それをやろうとしたら、給食の時間や清掃の時間、休み時間に机に向かって丸付けなどをしなければならなくなる。休み時間は子どもと遊ぶ。給食や清掃の時間は子どもと行動を共にする。だからこそ子どもたち一人一人を理解できる。

もし、授業の姿だけで子どもたちを理解したら勉強の苦手な子は救われない。いじめは見抜けない。もちろん誰ちゃんが誰ちゃんを好きなのかどうかもわからない。例え勉強が苦手だって心の優しい子はいる。かけっこで活躍できなくてもドッジボールで活躍できる子だっている。

特に休み時間は子どものいろんなよいところが見られるチャンスなので、私は休み時間に宿題やテストの丸付けなどは絶対にしない。放課後や家に帰ってからの仕事にしている。

そこで、ノートを私に預けても、毎日宿題ができるように、子どもたちにはノートを二冊用意させたり、教科を変えて同じノートを連日使わなくても済むようにしたりさせている。

宿題は多くの子どもたちが他にやりたいことを我慢して一生懸命やったもの。だから私もできるだけ丁寧に見るようにしている。検印をポンと押すだけのような見方をしたら、間違いなく子どもたちは宿題をやらなくなるか、やっても機械的にノートを埋めるだけになるだろう。

例えば、漢字一行ずつ書くような宿題を与えたら、「働く、働く、働く…」と書けばいいが、「働、働、働…」とまず書き、次に「く、く、く」と書く。ひどい時には「にんべん」だけをまず書き、次に「動」を書いたりする子もいる。こうなると一つの漢字ではなくなる。

とにかく勉強が嫌いな子は速く行やマスを埋めることを考える。だからこそ私は見た証として必ずコメントを入れるようにしている。

漢字や送りがなが間違えていれば赤で正す。子どもが間違えたまま覚えてしまうことはよくあるからだ。そしてコメントとして、「最後まで字が整っているね」「練習だから『、』を省くと一行にもっとたくさん書けるよ」「今日は字が暴れているねえ。何かイライラするることでもあったでしょう」など、文字を通して会話を楽しむこともある。

時にはコメントだけではなく、昆虫シリーズや乗り物シリーズ、恐竜シリーズなどのシールを貼ったりすると六年生でも素直に喜ぶ。ノートからはがして別のノートに貼り、コレクションにする子も現れるほどだ。

実は宿題にはもう一つのルールがある。それは、クラスの中に誕生日の子がいるとその日は宿題が無しになる。そうすると、自動的にクラスでは誕生者は英雄扱いされる。どちらかというとおとなしく、あまり目立たないような子でさえも、この日はみんなから喜ばれる。

「よくやった! よくぞ生まれてきてくれた!」

という声が飛び交い、給食の時間は牛乳で乾杯する。

夏休みや冬休みを除くと年間で約30日弱は宿題無しの日ができることになる。もちろん自主的に勉強をやってノートを提出すればいつも通り見ている。そのような子は残念ながらごく一部で、ほとんどの子は宿題無しの日を素直に満喫する。誕生日が連日続く時もあるので、まさに子どもたちにとってのゴールデンウィーク。親からは不評の声もしばしば聞かれるが、メリハリがあってよいという声も聞く。

実際に1日分の子どもたちの宿題を見るのには約2時間を要するので、こういう日もないと寝不足になるのも正直なところだ。あまり大きな声では言えないが…。

次回へ続く


執筆/浅見哲也(文科省教科調査官)、画/小野理奈 

浅見哲也先生

浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。

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