「エンパワーメント」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
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「エンパワーメント」という用語は、一般に「権限を与える」という意味で使用されています。しかし学校現場では、もう少し異なる観点や意味合いを踏まえながら、この用語を理解し教育活動として展開していく必要があります。

執筆/沖縄国際大学准教授・照屋翔大

みんなの教育用語

エンパワーメントの意味を確かめる

近年、教育の世界でも「エンパワーメント」という用語をよく耳にするようになりました。この用語はもともと、社会的に弱い立場に置かれてきた人々(例えば、女性や人種的、民族的マイノリティなど)の権利を認め守ろうという社会運動のなかで使われ始めたとされています。そのため一般に、弱い立場に置かれた者に対して「権利を認める、権限を与える」という意味で用いられています。

ただ、学校という場の特徴を踏まえたとき、それとは少し異なる意味についても目を向けておく必要があるでしょう。それは、児童生徒が本来的に持つ潜在的な力や価値を引き出し、自分自身で人生を切り開いていくために必要なスキルや自信を身に付けさせるという意味です。エンパワーメントとは、主体性をはじめとする人間の内面にあるポジティブな力を育もうという志向性も持つ概念なのです。

内閣府は2018年度に「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」を実施しました。それによると、日本の若者が諸外国の若者に比べて、自身を肯定的に捉えている者の割合が低い傾向にあること、またその傾向には自分が役に立たないと感じる自己有用感の低さが関わっていることが明らかにされました。

この傾向は日本特有の傾向と指摘されていますが、学校現場におけるエンパワーメントの実践の目的のひとつは、まさにこの児童生徒の自己肯定感や自己有用感をいかに高めることができるかにあるといえます。

VUCA(ブーカ)の時代を生きるために

世界はいま、「VUCA(ブーカ)の時代」と形容されることがあります。VUCAとは、Volatile(変わりやすい)、Uncertain(不確かな)、Complex(複雑な)、Ambiguous(曖昧な)の頭文字を組み合わせた語であり、VUCAの時代とは「予測困難で不確実、複雑で曖昧な時代」ということになります。

主体性や自分に対する自信を持つことは「VUCA」と形容される社会を生きぬくうえで重要である、ということはグローバルに共有されています。

中央教育審議会は2016年の答申で、「予測できない変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、自らの可能性を発揮し、よりよい社会と幸福な人生の創り手となっていけるようにすることが重要」と指摘しています。

一方、OECDは2015年から「Education 2030プロジェクト」を進めていますが、その中で「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力」という概念(「エージェンシー」)を用いながら、児童生徒自身の主体性や当事者性の重要さを主張しています。

児童生徒自身が、主体性や自信といったポジティブな態度や感情を持つこと、また夢も含めて目の前の課題や困難と対峙し決定・行動することを大事にするエンパワーメントの考え方は、未来を生きるための資質・能力等を育む教育のあり方を支えるものなのです。

児童生徒をエンパワーメントする教育活動を

では、どのような教育活動が、児童生徒のエンパワーメントにつながるのでしょうか。そのカギのひとつに、「学びに対する当事者性(オーナーシップ)」の確保があげられます。その実現に向けて教師には、児童生徒自身が学び(目標、内容、方法、過程、評価に至る一連のプロセス)について自己選択・自己決定する機会や場面を積極的に生み出すことが期待されます。

このことは、これまでも繰り返しその重要性が指摘されてきました。例えば、現行の学習指導要領が求める「主体的・対話的で深い学び」とは、そのような学びの内容でありプロセスを重視する理念と理解できます。主体的・対話的で深い学びの観点に立った学校教育の展開は、児童生徒の学びへの動機づけを促し、学び続ける力や自分に対する自信といった内的な力(資質・能力)をエンパワーメントする、という構図です。

その意味で、日本の学校教育が大事にしてきた観点や学習指導要領のねらいは、エンパワーメントの視点を潜在的に有したものであるといえます。

日本型の学校教育のひとつとして世界的な関心を集める「特別活動」の実践は、まさにその典型例です。特別活動が掲げる3つの資質・能力、すなわち「人間関係形成(集団の中で、人間関係を自主的、実践的によりよいものへと形成するという視点)」「社会参画(集団や社会に参画し様々な問題を主体的に解決しようとする視点)」「自己実現(現在及び将来の自己の生活の課題を発見しよりよく改善しようとする視点)」に支えられた「生きる力」の涵養は、エンパワーメントの意味内容にも通じるものです。そして、自己肯定感や自己有用感が低いという日本の児童生徒の課題を改善する可能性を示しています。

また、学習指導要領の前文および総則に「持続可能な社会の創り手」を育成することが掲げられていますが、エンパワーメントはESD(持続可能な開発のための教育)にとっても重要なテーマといえます。

学校現場にあっては、教師はつねにエンパワーメントの視点を持って児童生徒に向き合う必要があります。教育課程であるかどうかを問わず、児童生徒の主体性や当事者性を涵養する機会を創出することが、よりよい学校づくりにつながっていくのです。

▼参考文献
ジョン・スペンサー、A. J. ジュリアーニ著、吉田新一郎訳『あなたの授業が子どもと世界を変える―エンパワーメントのチカラ』新評論、2020年
安梅勅江「きずな育む力〈絆育力〉をつむぐ─エンパワメント科学のすすめ」(日本子ども学会『チャイルド・サイエンス』第8巻、2012年)
浜田博文編著『学校を変える新しい力―教師のエンパワーメントとスクールリーダーシップ―』小学館、2012年
中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」2016年
白井俊『OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来─エージェンシー、資質・能力とカリキュラム』ミネルヴァ書房、2020年
新富康央、須田康之、高旗浩志編著『生きる力を育む特別活動─個が生きる集団活動を創造する』ミネルヴァ書房、2020年

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