子供の資質・能力を伸ばす見取りと評価の在り方
学習指導要領が実施されて2年目となりますが、今でも、「評価が難しい」という声を聞くことが少なくありません。そこで、評価に関する著書が全国の現場から高く支持されている、早稲田大学教職大学院の田中博之教授に、評価の基本的な考え方や、評価を行っていくための具体的な方法について伺いました。
目次
数値化する評価ではなく、自分を客観視し改善につなげられる評価
評価といえば、低学年の先生方が頭に浮かべるのは、漢字の書き取り問題や算数の計算問題など、小テストや単元テストを行って評価するというイメージではないかと思います。
特に低学年では、テストの丸付けや返却が忙しかったりします。しかし、本来、評価とは、子供の学習の状況を捉え、学習改善のために行うものであって、テストを行って数値化し、通知表を付けて終わるものではないのです。
特に低学年の子供は、ほめれば意欲が出てきます。課題があったとしても、先生がほめたり励ましたりしながら、「あなたなら、こんな取り組み方をしたらもっとできるようになるよ」とか、「こういった解き方もしてみると、もっとできるようになるよ」とアドバイスをしてあげて、子供たちに、見通しと意欲をもってもらうことが大切です。つまり、子供の学習改善や学習意欲につながっていくような評価が大事なのです。
学校教育の導入期である低学年の学習では、ややもすると、たくさん漢字練習をしたりドリルに取り組んだりするなど、一生懸命取り組むことに重きが置かれたりします。もちろん、一生懸命がんばることも大事なことですが、それ以上に、自分を見つめ、自分を客観視し、改善を図っていくことのできる子供を育てていくことがとても大切だと思います。
学習指導要領には出てきていませんが、中央教育審議会の答申には「メタ認知」の必要性が示されています。たとえ低学年の子供であっても、自分は今、何ができて、何ができていないのか、それはどうやったらできるようになるか、を考えられるようにするための評価をしていくことがとても大切です。
評価を通して、教科等横断的に自己修正力を育んでいくことが大事
低学年の学習では、子供が書き間違いや計算間違いをすることもよくあるでしょう。あるいは、文章が理解できないまま学習に取り組んでいることもあるでしょうし、国語で文学教材を読むときに、「場面の様子に着目して、登場人物の行動を具体的に想像できているか」というと、難しい子もいるでしょう。
そういう誤解やうっかりミス、自分の課題などに気付いて自己修正していけるようにすることが大切です。ごく平易に言えば、確かめ、見直し、検算といったことを教師が評価して、習慣化していくことがとても大事なのです。
現行の学習指導要領では、各学校が学習の基盤となる資質・能力を育成できるよう、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図る、としていますが、先に示した自己評価力や自己修正力は、教科等横断的に育むべき資質・能力として大事にすべきではないかと私は思います。大切なのは正解を出すことよりも、間違いを修正していく力だということです。
低学年の先生は、間違いを修正するような学習過程を入れていくと、「間違ったところが定着してしまうのが怖いから、あまり間違いを扱いたくない」と言ったりします。しかし、少し学習心理学の勉強をしてみると、修正することの大切さにも気付けると思います。
文部科学省は、「主体的・対話的で深い学び」を通して、資質・能力を育むと言っています。ここで重要になる深い学びというのは、国語なら練り上げ、推敲などであり、算数なら修正、改善だと考えられます。実際に、評価観点の中の、「主体的に学習に取り組む態度」について、文部科学省から出されている資料では、算数・数学の評価の観点として、「問題解決の過程を修正、改善する」とされています。
子供たちが主体的・対話的に学習していくと、当然、間違いも起こるでしょう。そのときに、他の子を模範にして自分の考えをよりよく修正していくなど、子供自身が修正・改善するようにしていくことが大切です。そのために先生は、子供自身の修正・改善に向けたアドバイスやフィードバックを与えるような評価を行うことが大切なのです。
低学年の評価ではルーブリックを簡略化して実施
しかし、冒頭でも触れたように、日本では昔から根強く、評価=点数至上主義となる傾向があり、そこから抜け切れていないように思えます。そこを、この機会に見直して、評価の改善を図ることが必要です。
では、具体的にどう評価を行うかなのですが、これにはルーブリックのようなものが必要です。現行の学習指導要領は資質・能力ベースとなりましたが、資質・能力の多くは、点数で簡単に評価できるものではありません。やはり、ルーブリックの考え方で、A、B、Cなど、大きく何段階かで達成度を捉えることが必要です。そのために、評価規準(ものさしの種類)と判断基準(ものさしの目盛り)を整理し、複数のレベルや段階で捉えていくのです。
特に、音楽や体育、国語、生活科など、そうした評価方法になじみやすい教科では、低学年のうちから入れていくようにしたいものです。
ただし、ルーブリックの表を作成することは大変ですし、低学年の子供たちにも分かりにくいものです。そこで、大きく何段階かに分けて達成度を捉えられるような評価表を作成し、評価を先生と子供とで共有していけばよいでしょう。
例えば、音楽で四分音符のタンバリンのリズムが、四分休符を入れて打てるとか、友達と合奏して打てるとか、いくつかの段階に分けて、それができたら1枚ずつシールを貼っていくようにしている実践もあります。
そのように、身に付ける資質・能力を上るべき階段として可視化して、見せてあげることが大切だと思います。
これがあれば、子供は自分自身の状況を把握できますし、改善に向けて何に取り組めばよいか、自分で考えることもできます。
他教科では、例えば、生活科との関連を図って、国語科で「おもちゃの作り方の説明」を書くときにも、手順書の中で、「まず」「次に」といった順序を表す言葉が使われているとか、「何をどこに」が書かれているといったことを、階段表のようなチェックシートにして示し、できたらシールを貼っていくようにしていけばよいと思います。
ただし、現在、大半の通常学級には特別な支援を要する子供たちも在籍しており、どんな評価表でも、常に1段階で止まる子がいる場合もあります。そうしたときには、クリアしたらシールをどんどん貼っていくだけではなく、クリアしたらその項目に日付を書いていくような工夫をしてみたらよいと思います。
身に付けた資質・能力を自覚・共有できる評価場面を工夫していく
このような、資質・能力ベースでの評価を行っていくうえで大切なのは、「学びと評価の一体化」だと私は説明しています。
これまで、評価では「指導と評価の一体化」が重要だと言われてきました。それは、学習指導要領が新しくなった今でも変わりません。しかし、現行の学習指導要領では、評価を授業改善につなげるとともに、子供自身が学びを自覚し、改善を図っていけるような自己評価と相互評価の活性化が求められます。ですから、「指導と評価の一体化」と、「学びと評価の一体化」が両輪となることが必要なのです。
先にも、ルーブリック評価になじみやすい教科の一つとして生活科を挙げましたが、生活科は、子供が主体的・対話的に行う作業や活動を多く伴うため、子供自身が「学びと評価の一体化」を図りやすい教科だと思います。
例えば、学習したことを原稿用紙にしっかり書いて発表したとき、友達とほめほめ対話をしたりするのも、とても大切な評価です。文章を上手に書けたとか、観察日記が書けるようになったというのは、子供自身も友達も気付きやすいことです。
そうやって、友達(あるいは先生)が評価したことを付箋などに書いてもらい、作文や日記の裏に貼り付けて、成長アルバムのようにファイルしていくことで、「身に付けた資質・能力の自覚と共有」を図ることができます。加えて、子供自身が自己評価を行う成長カードのようなものも工夫してみるとよいでしょう。
そのように、身に付けた資質・能力を子供自身が自覚したり、子供同士や先生と共有したりしていくことで、自尊感情が高まりますし、次の学びに向かう意欲にもつながります。
さらに、年度末などに行われる成長発表会などを通して自分の成長を見つめることも、とても大切な評価です。
いずれにしても、今求められる評価とは一人ひとりの子供の成長を促す評価であると認識することが重要です。そのために、先生は、「成長って、1個でも花丸が増えることなんだよ」などと、分かりやすく子供たちに話してあげたらよいと思います。
このように、主体的に自己成長をしようとする気持ちを育むような評価を行っていくことが、求められる資質・能力を育むうえで大切な評価なのです。
たなか・ひろゆき
1960年、福岡県生まれ。専門は教育工学・教育方法学。大阪大学人間科学部卒業後、大阪大学大学院博士後期課程在学中に、同大学助手となる。その後、大阪教育大学助教授、教授などを経て2009年より現職。1996年および2005年に、文部科学省長期在外研究員制度により、ロンドン大学キングズカレッジ教育研究センター客員研究員。近著、『GIGAスクール構想対応 実践事例でわかる! タブレット活用授業』(学陽書房、2021年)等、著書多数。
取材・文/矢ノ浦勝之 撮影/横田紋
『教育技術 小一小二』2021年10/11年月号より