【相談募集中】周りの先生と自分を比べて、劣等感で胸がいっぱいに…
「みん教相談室」に届いたのは、同期に比べて重要な分掌を任せてもらえないと劣等感に悩む先生からの相談。東京未来大学非常勤講師・山中伸之先生は、その劣等感こそ自分を成長させる大きな原動力であると話します。
目次
Q. 高学年の担任や重要な分掌を任せてもらえず、劣等感の毎日です…
公立小学校で2年生の担任をしています。正規採用10年目です。2年生を3回、3年生を2回、4年生を2回、5年生を2回、6年生を1回担任しました。高学年を受け持った際に苦労してしまい、おそらく管理職から「高学年は任せられない、かといって1年生のようなきめ細やかな指導も任せられない」と取られてしまっているのではないかと思います。
しかし、自分の中でどうしてもほかの先生、特に同期や年下の先生と比べてしまいます。ほかの先生方が、高学年や重要な分掌を任せられる中、自分はなかなかそのような位置につかせてもらえない。毎日劣等感で胸がいっぱいになってしまい、苦しいです。
本来、このような悩みはよくないのかもしれませんが、このままでは自分の心の状態が子どもに影響を及ぼしてしまうのではないかとも悩んでいます。前向きになれるようになりたいです。
どのような考え方で今後仕事に取り組んでいけばよいのか、アドバイスいただければ嬉しいです。(あっち先生・30代男性)
A. 劣等感は悪いものではなく、自分を成長させる原動力で
毎日ご自身の劣等感と向き合って生活をしていらっしゃるということで、おつらい日々だと思います。胸が苦しいですよね。
どうして分かるかと言うと、私も若い頃からそういう思いにとらわれていたからです。どんなによい結果を出しても心から喜べませんでした。自己肯定感が低かったからだと思います。
あっち先生。こんなふうに、先生と同じように悩んでいる人は、実は少なくありません。いや、教員には多いのではないでしょうか。先生は「このような悩みはよくない」と書いていますが、そんなことはありません。悩みがあるのが人間です。悩むことが悪いのでは決してありません。
まず、ありのままの自分を受け入れてあげましょう。劣等感と向き合って毎日つらい思いをしつつも頑張っている先生を、ありのままに受け入れてあげましょう。
誰が受け入れてあげるのか? 先生ご自身が受け入れてあげるのです。
「毎日劣等感で胸がいっぱいになってしまい、苦しいんだね。苦しくなっちゃうよね。苦しいって弱音を吐いてもいいんだよ。」
「子どもに影響を及ぼしてしまうのではないかと悩んでいるんだね。悩んじゃうよね。悩んでいいんだよ。悩んでいる自分でいいんだよ。」
「前向きになれないんだね。前向きになんてなれないよね。前向きになれなくてもいいんだよ。」
という具合にです。
何か温かく大きなものに包まれているイメージで、自分に語りかけてください。または、自分の好きな人、信頼できる人から優しく言ってもらっているイメージをしてみてください。そうやって癒やされると、ちょっとだけ活動のエネルギーがたまってくるものです。
自己肯定感は常に一定しているわけではありません。高いときもあれば低いときもあります。だから、へこむときがあって当たり前です。それが人間です。へこんでいいのです。
へこんだときには、先ほどのように自分で自分をやさしく癒やしてあげてください。頑張っている自分をそのまま受け入れてあげてください。
自分を癒やすことで、活動の意欲が少し高まってきたら、次のことを考えてみてください。
1 事実を見る
先生が悩んでいることは、事実なのでしょうか。事実なのかどうかを冷静に考えてみてください。先生は次のように書かれていらっしゃいます。
「おそらく管理職から『高学年は任せられない、かといって1年生のようなきめ細やかな指導も任せられない』と取られてしまっているのではないかと思います。」
ここに表れている、「おそらく」「取られてしまっているのではないかと思います」という文言からは、先生が悩んでいらっしゃること(「自分に力量がないので1年や6年の担任は任せられないと管理職に評価されている」)が、事実かどうか分からないということが読み取れます。
先生が悩んでいることは、単に先生がそう思っているだけのことではないでしょうか。管理職が本当にそう思っているかどうかは、本当は分からないのではないでしょうか。
事実か事実でないか分からないことならば、そのことで悩む必要はない、と考えましょう。実際、事実かどうか分かりませんから。
また、仮にそれが事実だとしても、相手がどう考えるかは相手の都合であって、本来先生が気にされることではありません。先生は先生のできることを精一杯務めればそれでよいのではないでしょうか。そのことを相手がどう思おうと、それは相手の勝手で相手の都合によることです。
できれば、直接聞いて確かめるとよいのですが、それは難しいですよね。でももしも機会があれば確かめてみることをおすすめします。人は分からないことで不安が増すことがあるからです。
2 客観視してみる
それから、仮に若い同僚が先生に、先生が悩んでいるようなことと同じ悩みを相談にきたとします。その同僚に、先生はどのようなアドバイスをなさいますか?
おそらく、悩んでいるようなことはあまり気にせず、自分のできることを精一杯やって力をつけ、前向きに頑張った方がいいとアドバイスするのではないでしょうか。
これと似たようなことを、イメージの中で行うことができます。先生が座っている目の前に、イスをもう1つ向かい合わせに置いてください。次に、そのイスに腰掛けてご自分の悩みを、目の前に信頼できる人がいると想像して話してみてください。心の中で思うだけでもいいです。そうしたら、元のイスにもどり、ご自身が相談された立場になって、先ほどまで目の前のイスに座っていたご自身にアドバイスをしてあげてください。
これを行うことで、先生ご自身に少し元気が出ます。誰かを励ます人が実は最も励まされるからです。また、これを行うことで、先生ご自身の悩みを客観的に見ることができます。客観的に見ることができると、悩みが少し薄らいでくるものです。
3 認知バイアスに気づく
人には物事を判断するときに、知らず知らずのうちに先入観によって不合理な判断をする傾向があります。例えば、ある人から「嫌いだ」と言われると「みんなが自分のことが嫌いなんだ」と考えてしまったり、1度失敗すると、自分には能力がないと思ったりすることです。
合理的に考えれば、1人の人に嫌いだと言われたからといって、誰もが嫌っているということなどありませんし、1度失敗したからといって、それはたまたまかもしれず、能力がないということの合理的な理由にはなりません。
しかし、人はそのように考えてしまう傾向をもっています。これらの考え方を認知バイアスと言ったりします。
先生はそのような認知バイアスにとらわれていないでしょうか。一度静かに考えてみるのもいいかもしれません。
さて、はじめに、人は誰でも先生と同じようなことで悩んでいるのではないでしょうかと申し上げました。世の中に劣等感をもっていない人なんてほとんどいません。誰でも多かれ少なかれ劣等感をもっています。
実は、劣等感は悪いものではありません。それは自分を成長させる原動力にもなるからです。
劣等感をバネに誕生した「伝説のドアマン」
ひとつ例を挙げてみます。以前、大阪のホテルに「伝説のドアマン」と呼ばれた名田正敏(なだまさとし)さんという方がいました。名田さんは34歳で、ホテルでドアマンと組んで働く配車係として勤務することになりました。しかしまわりのドアマンと比べて容姿や学歴に自信がなく、このままでは全く芽が出ずに終わると思った名田さんは、ある日、上司に転職をすべきか相談をします。
そのとき上司が「背伸びして管理職を目指してもしょうがない。学歴などないものねだりをしてもどうにもならない。それよりも君の土俵をつくれ。お客様との結びつきでは誰にも負けないような人物になることが君の活路だ」というようなアドバイスをしてくれます。
名田さんが日頃から感心していたのは、熟練したドアマンはお客様の名前を覚えていて、到着されると「○○様」と名前を呼ぶことでした。名田さんは自分もそのようになりたいと思いました。
早くそうなるためには集中して覚えることだと思った名田さんは、休日になると、ホテルをよく利用する企業400社を訪問し、駐車場の出入り口に立って重役の顔と名前、車種、ナンバー、運転手の名前を覚えたそうです。
なんと2年間で400社を回り、4000人の顔を覚えました。顔と名前だけでなく、出身地、出身校、趣味、家族関係などもリストにしていったそうです。
ホテルで大きなパーティーがあると、お客様が帰る頃、ホテル前は車で大混雑になるのですが、名田さんは出口に向かって歩いてくるお客様の顔を見るとすぐにマイクで名前と運転手の名をアナウンスし、数千人を見事にさばいたそうです。 大阪中のホテルが、喉から手が出るほど、名田さんをほしがりました。
名田さんはドアマンとしてお客様を迎えると、名前はもちろん、最近昇進したことなども新聞でチェック済みで、それを伝えた上、レストランに電話して、お酒の好み、ステーキの焼き方、奥様の誕生日が近いので何かプレゼントを、ということまで指示をしたそうです。
このような名田さんですから、名田さんのファンになる著名人は数知れず、普通のホテルのセールスマンが年間8千万円程度を売り上げていた時代に、名田さんはドアマンだけで4億を売り上げたといいます。
名田さんもまた劣等感をバネにして自分を成長させた一人ではないかと思います。周りと比べてみれば、学歴もない、年齢も若くない、能力もないのですから、劣等感ばかりです。しかし、名田さんは他と比べるのではなく、自分だけの土俵をつくってそこに活路を見いだしました。
劣等感は誰もがもっているものです。その劣等感を有効に使えば、自分を成長させてくれる大きな力にもなるのではないかと思います。
先生も、まずご自身をねぎらい、いたわり、癒やしてあげてください。そして活動の意欲が高まってきたら、自分だけの土俵をつくるための1歩を踏み出してはいかがでしょうか。
繰り返しになりますが、自己肯定感は一定ではなく、高いときもあれば低いときもあります。やる気が出ない日もあるでしょう。自己肯定感が低いときは自分を癒やし、高くなったら1歩進めばよいのです。3歩進んで2歩さがっていいし、時には3歩進んで4歩下がるときもあるかもしれません。しかし、それでよいのです。それが人間です。
先生がご自身の土俵をつくるための1歩を踏み出せることをお祈りしております。
みん教相談室では、現場をよく知る教育技術協力者の先生や、各部門の専門家の方が、教育現場で日々奮闘する相談者様のお悩みに答えてくれています。ぜひ、お気軽にご相談ください。