探究的な学びの充実が「STEAM教育」実践の第一歩【連続企画 探究的な学びがカギ! これからの「理数教育」のあり方 #01】

理数人材育成の必要性やSTEAM教育の推進が叫ばれる中、初等中等教育における理数教育の充実は大きな課題だ。経済産業省のSTEAM検討ワーキンググループ委員も務めた田村学氏に、現在の学校教育における理数教育の実態、およびSTEAM教育と探究的な学びの関連について語ってもらった。

國學院大學人間開発学部教授
田村 学
新潟県上越市立大手町小学校教諭、柏崎市教育委員会指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官、視学官を経て、現在は、國學院大學人間開発学部教授、日本生活科・総合的学習教育学会会長、文部科学省視学委員。著書に、『こうすれば考える力がつく! 中学校思考ツール』(小学館)、『授業を磨く』(東洋館出版社)、『深い学び』(東洋館出版社)、『「深い学び」を実現するカリキュラム・マネジメント』(文溪堂)など。
この記事は、連続企画「探究的な学びがカギ! これからの『理数教育』のあり方」の1回目です。記事一覧はこちら
目次
学校教育における理数教育の実態
「Society5.0」に向けて社会が急速に変化していく中で、テクノロジーや技術革新がさらに進んでいくことが予測されます。そのため、子どもたちがそういった分野に対して興味関心を持つこと、理解できることがとても重要になります。科学技術立国としてここまで日本が発展してきた歴史や経緯、将来の発展などを考えれば、理数系人材の育成は今後の大きな課題になります。
一方、子どもたちの実態を見てみると、理数、自然科学への興味関心があまり高まっていないという事実があります。すなわち、今後の社会発展への期待に、子どもたちの実態が追いついていないということ。その現状を打破することを起点に、理数教育を充実させていく必要があります。「科学・技術分野の経済的成長や革新・創造に特化した人材育成」を目的とするSTEAM教育もまさにそういった背景や経緯から来ており、理数教育充実の方向性にシンクロしているといえます。
この問題は日本固有のものではなく、現在、世界どこの国でも実社会で活用できる「資質・能力の育成」をめざしています。そして、この課題に取り組む有効な手法として、課題解決型の学習に挑戦していくことや、単独の教科ではなく複数の教科を横断的に学んでいくことなどが挙げられています。
「STEAM教育」と「総合的な学習(探究)の時間」の関係
もともと「STEM教育」という、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Mathematics)の4つの教育分野を統合する概念があり、これをアメリカのオバマ政権が熱心に強調したことで注目を集めました。この頃は、アメリカにおける理数系人材育成をめざす動きでしたが、徐々に文理融合的なものに変化していき、デザイン、アート、表現を意味する「Art」が加わり今日における「STEAM教育」の流れが生まれました。
その教育の特徴として、実社会や実生活の課題を取り扱うこと、その課題に対して課題解決的に学んでいくこと、そして単独の教科ではなく、教科横断的に学んでいくことが挙げられます。
一方、「総合的な学習(探究)の時間」では、さらに学習者が自分たちの実生活の問題について学び解決に向かうとともに、多様な他者との協働にも重きを置きながら学習していきます。結果的に各教科を横断するような学びになっているという点においても「STEAM教育」と「総合的な学習(探究)の時間」はきれいに重なり、ニアリーイコールと考えられます。そのため、現在の学校教育のカリキュラム上でSTEAM教育を実行できるのは、基本的に「総合的な学習(探究)の時間」であるといえます。
その意味で、「総合的な学習(探究)の時間」を行うことをまずは第一優先にして、各教科の横断的な学習が実現されることによって、STEAM教育がめざすことが実現されるでしょう。
「総合的な学習(探究)の時間」の効果としては、まず子どもたちが自分の力を使って実生活の課題を解決していく資質・能力が育まれることが挙げられます。さらに、「全国学力・学習状況調査」の結果をみると、「総合的な学習(探究)の時間」で探究している子どもほど学力が高いという相関関係が出ています。その意味で、子どもたちにとってこの時間は非常に楽しく、興味関心の高い学習であり、今後も適切に実施されていけば、期待される学力が着実に育成されていく可能性が高いといえます。
