リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #3 それっていいの?|中村優輝先生(奈良県公立小学校)

連載
リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ

子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促していく……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載です。第3回は中村優輝先生のご執筆でお届けします。

執筆/奈良県大和郡山市立平和小学校教諭・中村優輝
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

はじめに

「内容項目Dの視点、『主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関すること』は難しい」。こんな話を同僚から聞きました。

理由は、「命や自然が大切なことは、子供もわかっている」「教科書を読んでも、建前の答えしか出にくい」ことだと言います。

私は毎回、導入で写真やイラストを提示し、共に考えていきます。視覚的に訴えることで、本時の価値について考えることが容易になると考えるからです。 今回は、私の実際の授業の様子や児童の振り返りについてお伝えしたいと思います。

1 「一枚画像道徳」の実践

対象:小学4年
主題名:私たちの生活と自然
内容項目:D-19 自然愛護
 自然のすばらしさや不思議さを感じ取り、自然や動植物を大切にすること。

以下の写真を提示します。

関西国際空港

発問1 この写真を見て思ったことを教えてください

飛行機だ。
すごいいい天気。
乗りたいな。
空港だ。
この人はどこに行くのかな。
旅行に行くのかな。

「そうですね。この写真からたくさんのことを想像することができましたね。じつはこの写真は、関西国際空港という場所で撮った写真です。よく関空と略して言いますね。知っていますか? 行ったことがありますか?」

身近にある場所をとり上げることで、興味をもつ児童が多いことが予想されます。まずは、写真を見て思ったことを自由に交流させます。
その際、飛行機に乗るのが怖いなど、ネガティブな感情ではなく、「楽しいなぁ」「ワクワクするなぁ」というポジティブな感情を中心にとり上げ、クラスで共有します。

説明

ここで、次のように説明していきます。

「関西国際空港は、旅行や仕事などでたくさんの方が利用されることから、便利だと感じる人もいるでしょう。ところで、関西国際空港ってどこにあるか知っていますか?」。児童は、すぐに「大阪」と答えてくれました。
「そうです。じつは大阪の海の上にあります」と伝えると、児童は驚いた表情をしていました。
「もちろん海の上にぷかぷかと浮いているのではなく、埋め立てと言って海に土や砂を入れて陸にしているのですよ」と伝え、発問2につなげます。

発問2  人間が住みやすくするために、自然を壊してもいいの?

子供たちは、以下のように答えました。

仕方ないことだから、いいよ。
絶対だめだよ。
よくはないよ。でもどうしようもない。
できるだけ自然を壊さないようにすればいい。
破壊せずに住みやすくする方法があるはず。

自然は大切であるという考えについては、挙手により全員一致で賛成であることがわかりましたが、発問2に関しては意見が分かれました。
『自然を壊してもいいのか、悪いのか』という意味を含んだ発問ですが、けっして二項対立で考えさせたいわけではありません。
「先生、どちらでもないかな」「もっといい方法があるはず」「どちらかなんて選べないよ。だって、いいって言ったら自然を壊してもいいことになるし、だめって言ったら住みにくくなるもん」……というように、多様な考えを引き出し、それらを基にした活発な意見交流を促すことを見据えた発問です。
子供たちによる話合いの時間を取った後、以下のリンク内の動画を見せます。

アニメで解説!!「5分で分かる環境問題~みんなで守ろう地球の未来」 City Ota Channel/大田区チャンネル

動画視聴後、感想を交流し、
「今日のテーマは『自然を大切にするって何だろう?』でしたね。今から読むお話は、自然を壊してしまったこと、または自然を守る取組のどちらだろうね。考えながらお話を聞いてね」と伝え、教科書教材(日本文教出版)を使った授業展開へと続けていく。

教材『小さな草たちにはくしゅを』(日本文教出版)を範読する。
タイトルにもある『はくしゅ』に着目し、「どうして拍手をしたのかな?」と問うと、「自然がすごすぎるから」「踏みつけられても、立派に草が生えているから」と答えてくれました。
子供から出てきた、自然はすごい存在であるという考えは、まさしく内容項目のDの視点に沿ったものでした。
その後、「自然のすごいところはどこだろう?」の発問に対し、『自然が人間をいかしているのか、または人間が自然をいかしているのか』『人間と自然が共に生きていくことはできるのか』という二つの問いが子供からうまれました。
『自然を大切にするって何だろう?』という切り口から派生し、たくさんの考えが広がりました。

子供たちによるこの授業の振り返り

【4年生】

  • 自然は大切だと思いました。なぜなら、自然がなくなると自由に生きている草や木、花が悲しむからです。自然にも友達がいるのだから大切にしないとなぁと思いました。
  • 自然は人間や生き物にすごい役割をしている。人間と自然は助け合っていると思います。
  • 私は、人間が自然をいかしているんだと思います。なぜなら、私たちが動物の命をうばっているからです。だから私たちは肉や魚を食べることができると思いました。

【6年生】

  • 環境問題を変えるのは、一人一人の心次第だと思った。環境を汚すのか、汚さないのか、そのちょっとの工夫が大事だと思った。
  • 自然を守るって小さなことの積み重ねだと思う。ごみを分別するとか油をそのまま流さないとか。自分一人ではあんまり意味はないかもしれないけど、それが周りに広がってくれたら少しは変わると思う。自分にできることをコツコツと。
  • 海に出たプラスチックごみが魚や海の生物だけでなく、人間にも被害をあたえると聞いてびっくりした。

2 「一枚画像道徳」 他教科へのつながり

今年度は4年生で授業を行い、社会科の学習『ごみのしょりと活用』へとつなげていきました。
この社会科の学習は、自然環境を守る取組の一例ではありますが、調べたことをGoogleスライドにまとめ発表していました。
道徳科で学習した『自然を大切にすること』から派生させて考えた児童も多かったでしょう。
三学期には、奈良県の伝統工芸品として、高山茶せんや吉野杉桶・樽を扱う授業を予定しています。全国で使われている茶せんの90%を、この高山茶せんが占めています。そんな奈良県の自然をいかした産業を学ぶ際、今回の道徳科で学んだことを振り返り、学習を進めていきたいと考えています。

また、かつて6年生児童に対して実践したときには、国語科『私たちにできること』(光村図書)と理科『地球に生きる』(東京書籍)の、SGDsの学習へとつなげていきました。

おわりに

今回の問い「人間が住みやすくするために、自然を壊してもいいの?」には絶対的な正解はありません。
自分事として捉え、考えることができればよいのです。その手助けの一つとして、この写真を活用しました。一人一人が自分事として考えをもつことが、「考え、議論する道徳」につながるのではないでしょうか。

今回のこの素敵な企画に、私を執筆者の一人として選んでくださった藤原友和先生、小学館の白石正明様、ありがとうございました。そして読んでくださった読者の皆様ありがとうございました。

次週もお楽しみに。

【参考文献】 
City Ota Channel/大田区チャンネル
佐藤幸司『道徳の授業がもっと上手くなる50の技』 2018年 明治図書出版

今後の連載予定
第4回 戸来友美(北海道・千歳市立桜木小学校)
第5回 山崎太輔(北海道・千歳市立泉沢小学校)
第6回 岩田慶子(兵庫県・神戸市立星陵台中学校)
第7回 瀬戸山千穂(群馬県・前橋市立大胡中学校)
第8回 郡司竜平(北海道・名寄市立大学保健福祉学部社会保育学科)
第9回 葛西もえ(岩手県・奥州市立佐倉河小学校)
第10回 小林雅哉(北海道・室蘭市立地球岬小学校)
以下、続々と執筆進行中です!

※この連載は、毎週木曜日に公開します。

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