総合でSDGs調べ学習!17テーマのうち取り上げたのは…?【6年3組学級経営物語15】

連載
学級経営のポイント満載の学級小説「4年3組~6年3組 学級経営物語」

通称「トライだ先生」こと、3年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。今回は、「SDGs」の主体的活動にトライします。

「持続可能な開発目標(SDGs)」は、総合的な学習で取り組みたい重要テーマです。けれど、未来を変える行動を実現させるには、まず課題を自分事として捉える必要があります。地球規模の課題を、子どもたちの日常と関連させ、主体的活動につなげる工夫とは…。今回は、総合的な学習の時間で「SDGs」の主体的活動の実現にレッツトライだ!

文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ

学級経営物語タイトル

11月① 「SDGs」の主体的活動にレッツトライだ!

<登場人物>

渡来先生

トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職3年目の6年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。今年度は、新採のメンターも務める。特技は「トライだ弁当」づくり。


高杉先生

しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
6年1組担任で、学年主任2年目、教職11年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。一児の母、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。


鬼塚先生

オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活5年目の6年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられた昨年度、しずか先生率いるチームに育てられ、渡来先生とぶつかりながらも今や切磋琢磨しあう良き仲間に。


神崎先生

神崎先生(神崎のぞみ/かんざきのぞみ)
高学年の音楽・家庭科の専科講師。インクルーシブ教育にも携わる。大学4年生のときに交通事故で片足をなくし、入退院で休学、留年(渡来先生と同じ年齢)。一度諦めかけた教師の夢へと一歩を踏み出し、西華小の常勤講師に就く。大学時代は陸上選手として活躍し、体力には自信あり。


大河内先生

イワオジ先生(大河内巌/おおこうちいわお)
教職20余年の経験豊富な教務主任。一見いかついが、 温かく見守りながら的確なアドバイスをしてくれ、 頼れる存在。ジャグリングなど意外な特技も。

世界が抱える課題

「飢えや貧しさ、悪化する治安や衛生環境。学校に行けない子どもたち…。自分の日常感覚が通用しない現実に直面し、私の考えは変わった」・・・ポイント1

10月初旬の講堂で、若い頃の海外放浪体験を語る大河内巌先生。背後のスクリーンに映し出される、難民キャンプやスラム街のスナップショット。粗末な衣服の痩せ細った子どもたち…。

「そして、貧困や差別が戦いを生むことも…」

画面の中で微笑む、銃を抱えた少年たちの姿。

「戦闘訓練中の少年兵だ。…みんなと同年齢で、訓練が終わると全員が各地の戦場に送られた」

衝撃的な説明に、顔を強張らせる6年生たち。画面が、水浸しになった街の様子に変わります。

小舟を操り、水没した街並みを進む子どもたち。

「この子たちは、昔の美しい海を取り戻すために清掃活動を始めた。自分たちで相談してな…」

海岸を埋め尽くすプラゴミを、懸命に拾い集める子どもたち。大河内先生の説明が続きます。

「個人の努力など無駄という意見がある。しかし環境汚染や破壊、そして紛争等を防がねばよりよい明日、持続可能な世界は望めない。できることから取り組まなければ、…と私は考える」

講話を終えた大河内先生に続き、話を始める高杉静先生。その内容は、子どもたちが主体的な探究活動に取り組むためのガイダンスでした。

ポイント1 【 世界の子どもの状況 】
世界の国々や様々な地域の子どもたちの状況を調べ、多くの課題に気づくことはとても重要です。我々の生活が世界の平均的水準ではない、困っている人たちがたくさんいる、課題の多い状況であることを理解させ、支援が必要なことに気づかせる指導が必要です。ユニセフのHP等の閲覧で状況を把握し、それを学級で話し合う機会も大切です。

「自分事」にするには…

「…だけど日常とかけ離れた世界の諸課題を、自分事として捉えるのは実際難しいことだな」

困惑気味の子どもたちに語り掛ける高杉先生。

「だから、まず各自で関心のある課題を見つけ、調べる機会を持ちたい。調べたい課題はあるかな?」

高杉先生の質問に、ハジメが立ち上がります。

「ぼくは、異常気象に興味があります。気候変動の仕組みや被害、改善策を調べてみたいです」

最近元気になってきたスミレが、そっと挙手。

「私は、健康や衛生について調べたい。入院が長かったから、そういう課題に関心があります」

ニッコリ笑い、先生方に目配せする高杉先生。

「課題毎に、各先生が分担してサポートする。鬼塚先生は食料問題、環境問題は渡来先生、健康問題は神崎先生、人権問題は大河内先生。その他の課題や未定の場合は私だ。それでは、今から分かれる。暫く変更可能だから、安心して取り掛かってくれ」

指示に従い、講堂内を移動し始める6年生。

その様子を眺め、頷き合う高杉、大河内両先生。SDGsへの取り組みを総合的な学習のテーマとする―発案者の高杉先生が、海外を放浪した大河内先生にリアルな講話を依頼。そして、最も重要な指導―世界規模の課題を自分事として捉えさせる活動も工夫しました。それが、これから取り組む『調べ学習』だったのです。・・・ポイント2

ポイント2【 SDGsとは 】
国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」は、地球環境や人類等を未来に存続させていくための地球規模の取り組みです。そして何より大切なことは、「希望に満ちた未来をつくるために、自分も参加したい」と子どもたちが思うこと。「自分事としてSDGsを捉える」ことは、とても大切なことなのです。

SDGsとわたしたち

世界の様々な課題を解決するため、国連で提唱された「持続可能な開発目標(SDGs)」。

17の目標を自分事として捉える調べ学習が、次の時間から開始。環境問題担当の渡来先生が、6年3組に集合した子どもたちに語りかけます。

「産業廃棄物や生活ゴミ、大気汚染による気候変動と災害の関連等…。2030年までに改善しなければ、取り返しがつかなくなるだろう。でも、まだ自分と関わりがあると思えないよな」

微かに頷く子どもたち。砂浜に横たわる鯨の写真を提示して、辛そうに説明をする渡来先生。

「餌と間違え、海に漂うプラゴミを食べて死んだ鯨だ…。他の魚や海鳥も、被害を受けている。このままでは、魚が住めない汚れた海になる。ヒデの大好物の鉄火巻きも、食べられなくなる」

「そんなの困る…。何とかしないとダメだよ!」

顔を顰めるヒデに、ニッコリ微笑む渡来先生。

「そう、何とかしなければ…。でもそれには問題や原因等を調べ、課題を理解する必要がある。そうすれば、自分で取り組むことが見えてくる」

コクリと頷くヒデ、ジュンが発言をします。

「おじいちゃんの村の近くで、土石流や洪水があったの…。異常気象の原因や被害を調べるわ」

大きく頷く渡来先生。調べ始めたり、周囲と相談したり…。子どもたちが動き始めました。

総合的な学習「わたしにできること」

「調べ学習の交流を始めます。最初の発表は…」

2週間後の講堂。司会のカオリに紹介され、「食品ロス」の発表を始めるケンタのグループ。・・・ポイント3

「…日本は年間600万トン、世界全体で13億トンの食糧が廃棄されています。でも世界は、9人に1人が栄養不足の状態…。食べ残しや期限切れ等を減らし、再利用をしていかなければなりません。残さず食べる、残り物を使った調理の工夫等が考えられます。でも僕たちはできる事から始めればいい、と話し合いました」

「600万トンは、東京ドーム約5杯分。世界全体なら1000杯以上、もったいないにも程があるわ」

アキの例え話に、驚きの声があがります。

「僕はこれから、絶対に食べ残しをしないよ!」

決意を表すヒデに、優しく助言する渡来先生。

「食品ロス対策を自分事として捉えれば、為すべきことが見える。その具体的な取り組みが、SDGsの目標『飢餓をゼロに』や『つくる責任、つかう責任』等へのチャレンジにつながるんだ。活動目標に近づいてきたぞ、ケンタたち」

微笑むケンタたち、次はハジメたちの番です。

「僕たちは異常気象を調べました。最近の地球温暖化により、極地の永久凍土まで溶け始め…」

満足気に見守る高杉先生。総合的な学習「わたしにできること」の発表は、さらに続きます。

ポイント3【 「食品ロス」について 】
本来食べられるのに、様々な理由で捨てられてしまう「食品ロス」。もったいないし、環境にも悪い影響を与えます。日本では国民1人当たり茶碗1杯分(約130g)の食品ロス量があり、年間では約47㎏。それに食品製造業、食品卸売業、食品小売業、外食産業等の事業系食品ロス量を加えると、年間600万t以上の量になります(平成30年度推計値)。
参考:農林水産省HP「食品ロスとは」

主体的活動につなげよう!

「本当にしっかり調べたな、どのグループも!」

称賛する高杉先生に、満足そうな子どもたち。終盤に近い学年発表、ケンタが挙手をしました。

「だけどこれからが大切…、と僕は思うんです」

その発言に、みんなの視線が集中しました。

「食品ロスの問題点や課題は、理解できたと思います。でもSDGsは行動が大切。さっきも言ったけれど、できる事を考えていきたいです」

頷くみんなに、穏やかに話しかける高杉先生。

「同感だ。その言葉を、先生たちはずっと待っていた…。SDGs目標の意義や必要性を自分事と捉え、具体的な計画を全員で話し合おう!」

熱い思いを受け止めて、カオリが仕切ります。

「早速話し合います! 提案をお願いします」

数人の発言を聞いた後で、立ち上がるハジメ。

「全校に伝えたいです、SDGsの内容や取り組みを…。だから西華祭で取り上げましょう」

「僕も同じだ。西華祭まで後1か月、チーム6年で取り組もうよ。やり甲斐ありそうだから!」

ケンタに続き、講堂に響き始める賛成意見。

「最後の西華祭に相応しいぞ!」

「私も同感!」

発言を制して、高杉先生たちに問うカオリ。

「みんなの意見は、西華祭の学年テーマとすること。具体的目標と考えても、いいでしょうか」

6年の先生たちが、同時に大きく頷きました。

(次回へ続く)

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