ICT活用で図工の授業はこう変わる!図工専科・岩本紅葉先生のICT実践
ICTを導入することで、授業の形がどんどん進化している図画工作。多くの先生たちがさまざまな試みを行っています。
東京都・新宿区立富久小学校で図工専科を担当する岩本紅葉先生は、viscuit、littleBits、KOOVなど、プログラミング言語やICTツールを授業で活用しています。さらに他教科と連携し、学外の人たちともコラボレーションをするなど、多様な実践を通して、子どもたちの創造力・表現力を高めてきました。 2020年にはその先進的な取り組みでGlobal Teacher Prizeのトップ50に選出された岩本先生に、授業での実践の内容や、子どもたちから個性豊かな表現を引き出す工夫、これからやってみたいことなどについてお話を聞きました。
目次
viscuitで音楽のイメージをアニメーションに
viscuitは、「メガネ」という仕組みを使ったとてもわかりやすいプログラミング言語です。誰でも簡単に使えて、しかも単純なものから複雑なものまでいろいろな作品が作れるので、低学年でも高学年でも取り入れています。The Moving Pictures(ザ・ムービング・ピクチャーズ)は、6年生がviscuitで作った作品です。私が前任校にいたとき、三鷹市スポーツと文化財団と協力してこの取り組みを行いました。子どもたちは、ピアノの生演奏を聴きながら、自分が感じた曲のイメージをviscuitで絵に描き、アニメーションを作成しました。
実は彼らは、5年生のときに、音楽を聴いてそのイメージを描くという体験をしています。いきなり音楽を絵にするのは難しいので、まず、子どもたちが描いた抽象画をピアニストが見て即興で曲にする、というところからスタートしました。次にピアノの演奏をすぐそばで聴き、肌で感じながら、さまざまな画材を使って自由に絵を描きました。この授業を経て、6年生ではviscuitを使ったアニメーション制作に挑戦したのです。
ツールがviscuitになっても、特に抵抗なく絵を描くことができたと思います。viscuitは色の彩度や明度、透明度、色の重なりからペンの太さまで自由に選択できるので、子どもたちは自分のイメージ通りの絵が描けていました。また、何度でも描き直すことができるので、絵を描くのが苦手な児童も楽しんで取り組むことができました。
子どもたちの作ったアニメーションは、三鷹市芸術文化センターで行われたクリスマスコンサートで、ピアノ演奏中に舞台の後ろの壁に映し出され、たくさんの人に見てもらうことができました。
互いに認めあう環境が、自由な表現を引き出す
曲を聴いて描いた抽象画も、アニメーションも個性豊かな作品ばかりでした。とはいえ、はじめのうちは、自分のイメージをどうやって表現したらいいかわからず、戸惑う子どもたちもいました。
私は、子どもたちが自由に描けるように、一人ひとりの表現が素晴らしいということをいつも伝えるようにしています。新しい描き方を考えることができた瞬間や、試行錯誤して自分の思いを形にできた瞬間を見逃さないようにして、その瞬間を一緒に喜んだり、褒めたり、他の子どもたちに紹介したりしています。
また、クラスメートの工夫を褒めている児童がいたら、「その工夫、よく発見できたね。」「人の作品のよさを見つけることができる天才だね!」などと必ず声をかけます。
アイデアが浮かばず困惑したり、参考作品や他の児童の作品の真似ばかりしてしまう子どもも、互いに認めあう環境の中で、自然に個性豊かな作品を生み出せるようになっていきます。
viscuitを使って、教室や学校の外とつながる
2年生には、国語で学んだ「スイミー」を教材に、viscuitで「スイミーが見たセカイ」を動く絵で表現してもらいました。静止画ではなくアニメーションにしたことで、児童は自分の絵に命を吹き込こむ感覚を味わえたと思います。
そして、全員のアニメーションを合体させた映像を作り、特別教室の壁や天井一面に不織布を張って、プロジェクターで投影しました。子どもたちは、自分の作品が画面に現れるたびに、「あっ、これ私の!」と紹介しあって、自分の作品に愛着をもつことができました。また、映像で大きな空間を水族館のように変身させたことで、自分たちの表現のパワーを感じることもできたと思います。
この作品は、他の学年の児童たちや先生たちにも見てもらったことで、6年生との交流が生まれたり、先生たちからはさらなる他教科とのコラボレーションの提案があったり、いろいろな形で広がっていきました。
viscuitを使って、オンラインで他校と共同で授業をすることもできます。私が属している「Type_T(とにかく やってみる プログラミング 教育 ティーチャーズ)」では、参加するいろいろな地域の先生たちが協力して、違う学校の子どもたちがオンラインでつながり、viscuitでバーチャル花火大会を開く試みなども行いました。一つの教室、一つの学校の中だけでなく、いろんな仲間と共同作業したり、作品を共有したりすることができるのも、viscuitの良さだと思います。
みんなでアイデアを出しあって、“未来の遊園地”を作る
littleBitsは、マグネット式のモジュールを組み合わせて電子回路が作れるオープンソースのライブラリです。これを使って6年生が「動く!? 未来の遊園地」と題して、グループで遊園地作りに取り組みました。今まで見たことがない形や動きのアトラクションも作ってほしいと思い、タイトルに “未来”ということばを加えました。
授業は、全部で5回。まず最初にlittleBitsで何ができるのかを考え、一人ずつ自分のアイデアをプレゼンテーションして、それをもとに3人から6人のグループを作りました。そして、メンバーみんなのアイデアを取り入れることができるように、グループの中で話し合いながら遊園地作りを進めていきました。
4回目の授業では、途中鑑賞のプレゼンテーション大会を開きました。完成前に互いのアイデアを紹介することで、新しいアイデアを吸収しあい、よりよい作品を生み出せるからです。そして5回目には、全体で完成作品の鑑賞会を行いました。
子どもたちは、他のグループの作品の色、形、仕組みなどについて、さまざまな視点でコメントしていました。また、これらの作品は展示会で発表し、訪れた人たちに実際に触って動かして楽しんでもらうこともできました。
他教科とのコラボレーションで多様な表現が生まれる
ブロックで形を作りプログラミングで動かすことができるロボットプログラミング、KOOVを使って5年生が取り組んだのは「SDGs ロボットコンテスト」です。
子どもたちは総合的な学習の時間で、SDGsの中から自分が選んだ目標について調べていました。そこで、その目標を達成するためには何をしたらいいかを考え、KOOVでそれを実現するロボットを作ることにしました。
例えば「陸の豊かさも守ろう」という目標を選んだ児童が作ったのは、不法な森林伐採を宇宙から取り締まったり、宇宙に土地を作ったりする“衛星”のロボット。また、「ジェンダー平等」という目標を実現するロボットは、男性、女性、その他の性の人たちが、バラバラに動くと倒れてしまうけれど協力しあえば未来への一歩を踏み出せる、ということを表現した作品になりました。
このような多様な表現が生まれたのは、総合的な学習の時間と連携したからこそだと思います。子どもたちは、自分が興味をもって調べたテーマで作品を作りました。活動のゴールが明確だったので、終始夢中になって取り組んでいたのだと思います。
作品完成後、それぞれの作品が動いている様子とプレゼンテーションを撮影し、みんなで鑑賞しました。「コンテスト」というタイトルでしたが、あえて優秀作品を選ぶといったことはしませんでした。ただ、いろいろな種類の賞を考えて、作品を表彰しあってもよかったかなと思っています。
ICTを図工に取り入れるメリットとは
プログラミングやいろいろなICTツールを図工の授業に取り入れることで、子どもたちはより自由に表現できるようになっていると思います。とはいえ、図画工作という教科はさまざまな材料に触れ、感じ、自分の体を動かして表現することが大切な教科なので、何にでもICTを取り入れればいい活動になるというわけではありません。
ICTのメリットとしては、何度でもやり直しができること、作品を発表する際にダイナミックな演出ができることなどが挙げられます。また、デジタルネイティブの小学生たちにとって、ICTは、他の画材と同じように馴染みのあるツールであるというのも利点です。これらのメリットを生かせる題材にICTを取り入れることで、子どもたちは、自信をもって活動できるようになったと思います。
前任校で私が5年間図工の授業をした子どもたちは、授業アンケートで100%が「図工ができる、よくできるようになった」と回答し、現任校の6年生は「一番得意な教科」で図工を選びました。図工は全国的なアンケート調査で「好きだけど、得意ではない」という結果が出やすい教科です。私の授業で「できるようになった」「得意」と答えてくれる子どもたちが多いのはICT活用が大きな要因の1つだったと考えています。
ICTを活用しながら、これから挑戦したいこと!
現在、viscuit、littleBits、KOOV以外にも、MESH(IoTブロック)や、mBot(STEMロボット)を取り入れたり、レーザーカッターを使ったりと、さまざまな取り組みを続けています。
プログラムで動かせるロボットボール、Sphero BOLTを、ゴムの力や風の力で動く車を作る題材に取り入れることもやってみました。プログラムを組んで動かしたり、ラジコンのように動かすこともできるので、子どもたちはその動きからアイデアを膨らませて活動することができました。
Sphero BOLTは丈夫で防水性があるので、船を作って水上で動かしたり、あるいはSphero BOLT自体に絵の具をつけて、大きな絵を描くことにも取り組んでみたいです。また、光るので、光を使う題材にも使えると思っています。
その他にも、1年生のマスキングテープを壁や床に張ってイメージを広げる活動にmBotを使ったり、2年生の「まどをひらいて」という題材に木製のロボット、キュベットを取り入れたり、あるいはみんなで協力して校庭に大きな地上絵を描き、その過程をドローンで撮るといった活動も考えています。
そして、これから挑戦してみたいのは、学校の枠を越えて、日本中、世界中の子どもたちが交流する場をつくることです。ZOOMやMicrosoft Teams、あるいは動画共有プラットフォームのFlipgridなどを使えば、子どもたちが作品を共有してその良さを伝えあったり、バーチャル作品展を開催することができます。子どもたちには、自由に表現し、発信して、世界をどんどん広げていってほしいと思います。
取材・文/石田早苗