小1道徳「ハムスターのあかちゃん」指導アイデア
使用教材:「ハムスターのあかちゃん」(東京書籍)
執筆/千葉県公立小学校教諭・濱田綾佳
監修/千葉県公立中学校校長・大舘昭彦、文部科学省教科調査官・浅見哲也
目次
道徳の時間とは
「道徳は何を学習する時間ですか」
初めての学級で道徳の授業をするときに、私はいつも、子供たちにそんな問いかけをしてみます。国語は、新しい漢字を習ったり物語を読んで考えたりする時間……。算数は、計算をしたり時計の読み方を学習したりする時間……。
では、道徳は? 予想していなかったであろう私の問いかけに、一瞬、子供たちの反応が止まります。そして一瞬の沈黙の後、「登場人物の気持ちを考える時間」「お話を聞いて、考えたことを発表する時間」など、いろいろな反応が返ってきました。
「道徳の時間は『心を勉強する時間』です」。私は、そんな話をします。登場人物の心、友達の心、自分の心、さまざまな心を想像したり、考えたりする時間であり、自分の心と向き合う時間でもあるのではないでしょうか。子供たちにはそれぞれの心があります。
それぞれの心の中で考えたことを、お互いにたくさん聞き合いたいのです。45分の授業の中で、一人ひとりが心の中の気持ちを表現できるような授業、そして学びがある授業を展開することで、「心を勉強する時間」がつくられるのだと考えます。
生命の尊さを扱う
本校では、飼育委員会を中心に金魚やカメを育てています。エサやり体験には、子供たちがうれしそうに参加しています。生活科で育てているミニトマトや朝顔に熱心に水やりをし、教室ではグッピーやメダカの成長を心待ちにしています。
犬や猫などの生き物と一緒に暮らしている家庭も少なくはないでしょう。私たちの身の回りには、尊い生命があふれています。このような環境の中で過ごす子供たちは、「命は大切だ」ということは、よく知っています。
その頭で分かっていることをゴールとする授業ではなく、「命は大切だ。では、なぜ大切なのか」を考える授業にしたいのです。
本教材は、ハムスターの誕生と成長の様子が見守る側から語られています。生命を守る側の人間として、生命が大切な理由を考えます。
- 小さな一匹一匹にそれぞれ生命があり、二つとないかけがえのない存在である。
- 生命を守り育てる親ハムスターがいる。
- 生命はつながっていく。
これらの学びが生命の尊さに気付かせ、命あるものを大切にしていこうとする態度につながっていくのだと考えています。
実際の授業展開
教材名
「ハムスターのあかちゃん」
ねらい
身近な生き物の誕生や成長の様子をやさしく見つめ、生命あるものを大切にしようとする態度を育てる。
内容項目
D 生命の尊さ
準備するもの
・ワークシート(児童配付用)
・教材の場面絵、実物の大きさ(2センチメートル)のハムスターの赤ちゃんのペープサート
▼ワークシートのダウンロードはこちらからできます
道徳科ヒントとアイデア小一「ハムスターのあかちゃん」
指導の概略(板書計画例)
導入
発問① なんの動物の赤ちゃんでしょう。
- 実物の大きさ(2センチメートル)のハムスターの赤ちゃんのペープサートを見せ、教材への興味付けを図る。
展開1
教材を読みます。
- 教材を範読し、範読した後は教科書をしまうようにする。
展開2
発問② 生まれたばかりの赤ちゃんを見て、どんなことを思いましたか。
- 大きさや色、毛の有無など、実感をもって感じられるよう、挿絵や写真で視覚的に捉えられるようにする。
展開3
発問③ お母さんは、どうして宝物を守っているように運んでいるのでしょう。
- 赤ちゃんを新しい巣に運ぶときのお母さんの姿からその思いを想像させ、親ハムスターにとって愛すべき生命であり、守るべき存在であることを押さえる(生命を守る親ハムスターの存在がある)。
展開4
発問④ 生まれてから10日たったハムスターを見て、どんなことを思いましたか。
- 生まれたばかりの頃に比べ、大きさや毛の有無に違いがあること、一匹一匹の模様が違っていることを押さえ、それぞれがかけがえのない生命であることに気付くようにする(一匹一匹が、かけがえのない存在である)。
展開5
発問⑤ これまでに、生命は大切だなと感じたことを書きましょう。
- 身近な生き物との関わりを想起させ、これまでの自分をふり返るようにする。
終末
生活科で学習した生き物や教室で育てている生き物、家で飼っている生き物の生命が親から子へつながっていることについて話し聞かせます。
- 生命の尊さについて感じたときの話をし、価値についての意識を高める(生命はつながっていく)。
授業をするうえでの注意点 ・ ポイント解説
視覚的に訴える
生まれたばかりのハムスターの赤ちゃんが体長2センチメートルほどであるということを、私も教材研究を行うまで知りませんでした。子供たちも、その小ささには驚かされることでしょう。
言葉で2センチメートルと言うよりも、実際の大きさのペープサートを用意することで、その小ささがより実感として感じられ、小さくても命があり、一生懸命生きていることに気付かされます。
板書では、発問③のまとめとして、我が子を守りたいと思う親ハムスターの存在があるということ、発問④のまとめとして、それぞれがかけがえのない命であるということを目立つ色で囲んで強調します。
自己を見つめる時間
子供たちがこれまでの経験と照らし合わせながら、さらに考えを深める「自己を見つめる」場面を展開の後段に設けます。板書で強調した部分から、「だから生命は大切なんだね。では、このお話のハムスターの赤ちゃんのように、これまでに生命は大切だなあと感じたのは、どんなときですか」と、発問⑤につなげます。子供が道徳的価値を自分事として捉え考える、重要な場面です。
道徳だよりの活用
授業を実施した後で、道徳だよりを活用することがあります。保護者に道徳の授業の内容や様子を伝えることができ、子供たちに考えてもらいたい道徳的価値を共有することもできます。
学校での指導と同じように、家庭でも声かけをすることができ、家庭と連携した道徳教育が可能になります。授業参観などで道徳の授業を行った後、保護者との懇談の場で話題に上げるのも有効でしょう。
今回の授業の後には、赤ちゃんの誕生から1年間の成長を月ごとに綴った写真絵本の読み聞かせを行いました。そして、道徳だよりの発行とともに、「自分が生まれたときの話を家の人に聞いてくる」という宿題を出してみました。
「無事に生まれてくれて安心した」「生まれてすぐに元気に泣いて、手と足を動かしていた」「みんな大喜びだった」「指を出したら、ぎゅうっと握った」「お兄ちゃんが来たら泣きやんだ」など。
たくさんの心温まるエピソードが集まりました。道徳だよりによって、保護者に授業のねらいを理解していただけたからこそ、協力が得られたのではないかと思います。そして子供たちの心にも、より貴重な学びとなりました。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
読者のみなさんは子供たちに道徳科の授業は何を学ぶ時間だと伝えていますか。濱田先生のように、他の教科などと似ているようで違うところを子供たちに意識させることが、道徳科の特質を生かした授業を行うことを可能にすることでしょう。
この授業では、ハムスターの赤ちゃんの誕生から成長を通して生命について考えていきますが、一年生の子供たちにペープサートによる大きさで捉えさせたことで、そのはかなさを実感しやすくしています。
さらに発問の工夫によって、一つ一つの生命の尊重や守りたい生命のように多面的・多角的に捉えることにつながっています。「自然愛護」と異なり、「生命の尊重」では、自分の生命を見つめる必要があります。
そこで、道徳科の授業にとどまらずに、保護者向けの道徳だよりを通して保護者と子供が語り合うきっかけをつくることも大変効果的です。とても温かい雰囲気に包まれた取り組みとなっています。
『教育技術 小一小二』2020年7/8月号より