「インクルーシブ教育」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】

障害のある子どもも、障害のない子どもも、すべての子どもを同じ場所(学校や学級)に包含して教育することがインクルーシブ教育です。差別のない社会をつくるために、この教育は世界の潮流になっています。

執筆/筑波大学准教授・米田宏樹

みんなの教育用語

排除のない世界をつくるために

インクルーシブ教育とは、すべての子どもの多様なニーズに対応できるように、すべての子どもを包含する教育のことです。目的は、排除のない社会を実現することであり、社会的・経済的格差、民族・人種・宗教等の差異がもたらす差別の軽減・解消をめざします。そのためには、不利な立場にある人々の自立および社会への完全参加を、学校の改革によって実現しなければなりません。

国や地域の実情によって、インクルーシブ教育の捉え方は異なりますが、狭義には、すべての子どもが同年齢の子どもとともに「通常の学級」に包含されることを、広義には、すべての子どもの教育が、教育行政機関の責任のもとに、共通の規則や手続きに基づいて行われることを指します。

インクルーシブ教育の理念と歴史

インクルーシブ教育という言葉が、世界的に注目されるようになったのは、1994年、スペインのサラマンカにおいて開催された「特別なニーズ教育に関する世界会議」からです。この会議は、1990年3月の「万人のための教育世界会議」の「すべての人への『基礎教育』の提供」という目的を進展させ、学校がすべての子どもたち、とりわけ特別な教育的ニーズ(Special Educational Needs: SEN)のある子どもたちに役立つものとなるように、インクルーシブ教育のアプローチを促進する基本的政策への転換になりました。

この会議で採択された「サラマンカ声明」では、「通常の学校内にすべての子どもたちを受け入れるインクルーシブ教育」を原則とすることが決められました。そして、インクルーシブ教育を原則とする通常の学校(インクルーシブな学校)こそ、「差別的態度と戦い、すべての人を喜んで受け入れる地域社会をつくり上げ、インクルーシブ社会を築き上げ、万人のための教育を達成する最も効果的な手段」となることが確認されました。

なお、サラマンカ声明では、特殊学校や特殊学級(日本では特別支援学校や特別支援学級が該当)で子どもを教育することは、通常の学校・学級内での教育では子どもの教育的・社会的ニーズに応ずることができないケースか、その子どもの福祉や他の子どもたちの福祉にとって必要であることが明白であるケースだけに勧められる例外とされています。

インクルーシブ教育のカリキュラム

インクルーシブ教育の重要な論点の一つに、「特別なニーズのある子どもが通常の教育カリキュラムへアクセスできるか」があります。通常の教育カリキュラムの中に特別なニーズのある子どものための教育内容・方法を組み込むことにより、多様なニーズに応える新しいカリキュラムに改変することが求められているということです。

例えば米国では、障害のある子どもたちにも通常教育カリキュラムへのアクセスが義務づけられており、子どもの特性や状態に応じて修正される以下の4つのカリキュラムが考えられています。

①教育内容、達成水準、順序と時間割、指導方法に変更を加えないカリキュラム。②教育内容、達成水準には変更を加えないが、順序と時間割と指導方法を調整するカリキュラム。③教育内容、達成水準、順序と時間割、指導方法のすべてあるいは一部に変更を加えるカリキュラム。④内容・方法が異なる個別の教育目標に基づく代替的個別カリキュラム。

特別支援教育も含めた教育全体の議論を

日本では、障害のある子どもの問題だけが議論されがちですが、インクルーシブ教育のためには、特別支援教育も含む教育全体のあり方について議論する必要があります。

2019年度より実施の新教職課程において「特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解」に関する科目が、教職課程コアカリキュラムに設定されました。ここでは、障害のある子どもの指導や支援に関する事項のほかに、「障害はないが、母国語や貧困の問題等によりSENのある子どもの学習上又は生活上の困難や組織的な対応の必要性を理解している」ことが求められるようになりました。

この科目の設定は、インクルーシブな学校の実現のために、特別支援教育は全教職員一丸となって取り組まれるべき営みであることと、特別な教育的ニーズのあるすべての子どもを対象とする営みとなるべきことを意図しているといえます。

インクルーシブな学級の実現のために

インクルーシブな学級を実現するためには、できるだけ多くの子どもが、その学級における学習と生活に包含されるような「学級環境の整備」と「指導の工夫、すなわち、ユニバーサルデザインの学校や授業」が求められます。個別の支援なしで授業等に実質的に参加できる子どもが増えれば、支援の必要な子どもに十分な支援が提供できるようになります。

また、特別な教育的ニーズのある子どもが、授業に参加できるようにするには、学習課題・活動の最適化が必要です。そのためには、「①同一課題同一教材での学習」、「②同一課題同一教材スモールステップでの学習」、「③同一課題別教材での学習」、「④同一テーマ別課題での学習」、「⑤別テーマ別課題での学習」、の5つが考えられます。どの最適化にどのような実質的な参加が可能なのかの検討が必要です。

▼参考文献
文部科学省(ウェブサイト)「教職課程コアカリキュラム」2017年
小林秀之・米田宏樹・安藤隆男『特別支援教育―共生社会の実現に向けて―』ミネルヴァ書房、2018年
特別支援教育総合研究所(ウェブサイト)「サラマンカ声明」
中村満紀男・岡典子「インクルーシブ教育の国際的動向と特別支援教育」(『教育』2007年10月号

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