「情報教育」とは?【知っておきたい教育用語】
情報教育はコンピュータ教育とは異なり、子どもたちが情報についての知識、活用のしかたなどを幅広く学びます。今日の、そして未来の情報社会を生きていくために、情報教育は必須のものです。
執筆/東京福祉大学専任講師・中園長新
目次
情報教育の本質は情報活用能力を育成すること
情報教育は、「教育の情報化」を構成する側面のひとつです。「教育の情報化」は2000年代後半頃から使われるようになった用語ですが、文部科学省が2010年に発表した『教育の情報化に関する手引』において「情報教育」「教科指導におけるICT活用」「校務の情報化」の3つに整理されました。
この中で情報教育は「子供たちの情報活用能力の育成」を目指す教育として位置づけられ、2020年の『教育の情報化に関する手引(追補版)』ではよりわかりやすく、次の3観点8要素にまとめられています。
情報活用の実践力
- 課題や目的に応じた情報手段の適切な活用
- 必要な情報の主体的な収集・判断・表現・処理・創造
- 受け手の状況などを踏まえた発信・伝達
情報の科学的な理解
- 情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解
- 情報を適切に扱ったり、自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解
情報社会に参画する態度
- 社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響の理解
- 情報のモラルの必要性や情報に対する責任
- 望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度
これらの3観点は互いに独立したものではなく、関連づけながらバランスよく育成することこそが、情報教育の本質といえます。
情報活用能力の3観点
情報活用の実践力
この観点は、情報活用能力の基盤となるもので、情報を適切に入手し、判断・加工し、発信することに関する一連の能力です。
情報を適切に活用するためには、活用のための基礎的な能力が必要です。2000年代頃の情報教育では、この力の育成を主とした教育が多く、結果的にワープロソフトや表計算ソフトの使い方を学ぶだけのような授業も多くありました。もちろんそれらの学習も必要ですが、情報活用能力の本質ではありません。それらのスキルを使って情報をどのように活用していくかに目を向ける必要があります。
情報の科学的な理解
一方、情報や情報手段の特性について、科学的な視点から学んでいくことが求められます。その科学的な理解を深めるためには、コンピュータ科学をはじめとした理学・工学分野の知識を身につけるだけでなく、情報活用を評価・改善するための人文学・社会学などの観点から考えることも必要になります。ここでいう「科学」とは、文科系・理科系などという領域を問わず、学問として体系的に学んでいくこと全般を指しています。
情報の科学的理解が十分に達成されてはじめて、情報社会に適切に参画できます。
情報社会に参画する態度
情報活用の実践力、情報の科学的な理解力を身につけるとともに、それらを社会の中でどのように活用していくかの態度を学ばなければなりません。情報社会に参画する態度とは、これからますます発展する情報社会を生きていくための能力です。これは、情報を活用することによって新たな社会を創っていくことに通じます。
情報社会に参画するためには、「情報モラル教育」も必要です。情報社会で適正に活動を行うためには、社会の中で情報が果たしている役割や影響を理解し、情報の光と影の両面を知らなければならないからです。
学習指導要領における情報教育
新しい学習指導要領では、すべての校種の「総則」の中で情報活用能力への言及があります。総則では「教科等横断的視点に立った資質・能力」として「言語能力、情報活用能力(情報モラルを含む。)、問題発見・解決能力等」があげられており、情報教育は言語能力などと並んで、各教科の学習を支える基盤能力として位置づけられています。
『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編』によると、情報教育は情報活用能力の育成に向けた「学習活動を遂行する上で必要となる情報手段の基本的な操作の習得や、プログラミング的思考、情報モラル、情報セキュリティ、統計等に関する資質・能力等も含む」とされ、幅広い資質・能力を総合的に育成することが求められています。
情報活用能力は各教科等の学びを支える基盤であり、これを確実に育んでいくためには、各教科等の特質に応じて適切な学習場面で育成を図ることが重要です。情報教育で情報活用能力を育成することによって「主体的・対話的で深い学び」につながることが期待されています。
こうした教育現場を支える研究として「初等中等教育を通した情報教育カリキュラム」も提案されており、教育実践・研究の両面から情報教育の推進が活発化しています。
これからの情報教育
情報社会の発展に伴い、今後は情報教育の重要性がますます高まります。2020年度から小学校に「プログラミング教育」が導入されたように、教育の内容もますます多様化・高度化することでしょう。「GIGAスクール構想」によって1人1台の情報端末が当たり前になりますが、それを活用するためにも情報教育が欠かせません。
近年では、責任をもって情報技術を適切に利用していくための世界標準の概念として「デジタル・シティズンシップ教育」の推進が行われるなど、情報教育そのものも時代とともに変容し続けており、「ポスト・コロナ期の新しい教育における情報教育の検討」も試みられています。
情報教育はコンピュータ教育ではなく、情報を活用するための教育です。すべての教員が、時代の流れを踏まえながら情報教育の本質を理解し、実践していくことが求められます。
▼参考文献
・文部科学省『教育の情報化に関する手引(追補版)』2020年
・久野靖・和田勉・中山泰一「初等中等段階を通した情報教育の必要性とカリキュラム体系の提案」(『情報処理学会論文誌 教育とコンピュータ』2015年)
・文部科学省(ウェブサイト)「教育の情報化の推進」
・坂本旬・芳賀高洋・豊福晋平・今度珠美・林一真『デジタル・シティズンシップ:コンピュータ1人1台時代の善き使い手をめざす学び』大月書店、2020年
・白井詩沙香「ポスト・コロナ期における情報教育の検討に向けて」(『情報処理』2021年)