2020年の社会情勢と教育トピックを振り返る
新型コロナウイルスに世界中が振り回され続けた2020年。いまだ収束の目処すら立たない厳しい状況で、明るい話題は決して多くなかった1年でした。来年は良い年になることを祈念しつつ、教育関係の話題と主な出来事を時系列で振り返ってみましょう。
目次
1月「大学共通テストの2つの柱、英語民間試験と記述式が見送りに」
大学入試改革の柱は実行されず
文部科学省は、2020年度大学入試改革で予定されていた英語民間試験に続き、記述式問題の導入見送りを発表。改革の柱が実行されない形となりました。
2021年実施の大学共通テストを利用する見込みの大学・短期大学は、860以上に上っています。
1月の主な出来事
・1月7日 中国の武漢市で発生している原因不明の肺炎が、新型コロナウイルスによるものと特定。
・1月31日 世界保健機関 (WHO)が新型コロナウイルスの感染拡大について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)を宣言。
2月「新型コロナウイルスが全世界で猛威! 日本の小中高校等も全国一斉の臨時休業へ」
3か月に及ぶ全国一斉休校措置
全国での感染拡大を受けて、安倍首相(当時)が全国一斉の臨時休校を要請したのが2月27日。それを受けて大半の学校が3月2日より休校に入り、全国での緊急事態宣言、さらにその延長により、5月末まで、多くの学校が休校せざるを得ない状況に。
誰も経験したことがないこの事態に、学校現場も対応に追われることとなりました。休校中の児童生徒の学びをどう保障するのか、休校で失われた授業時数をどう回復するか、学校再開後、子どもたちの安全を確保しながらどのように教育活動を行っていくのか。試行錯誤しながらの学校運営が、今も全国各地で続けられています。
2月の主な出来事
・2月19日 学校法人森友学園(大阪市)の補助金不正事件で詐欺罪などに問われた学園前理事長の籠池泰典被告(67)に、大阪地裁で懲役5年の実刑判決。
3月「文科省、新型コロナの学校再開ガイドライン公表」「児童虐待についての手引書を文科省が作成」
新型コロナウイルス感染症に対応した学校再開ガイドライン
文部科学省は3月24日、新学期を迎える学校の再開に向けて具体的な留意点を整理した「新型コロナウイルス感染症に対応した学校再開ガイドライン」を公表。
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議による「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」と各地域の感染状況をしっかり把握した上で、新学期以降も警戒を怠らず、感染症対策に万全を期すよう呼び掛けました。
https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/index_00007.html
※参考/文部科学省ホームページ
手引書「児童虐待への対応のポイント~見守り・気づき・つなぐために~」
児童相談所での児童虐待の相談対応件数が増え続けている近年。児童虐待の未然防止・早期発見につなげるための手引書「児童虐待への対応のポイント~見守り・気づき・つなぐために~」を文部科学省が作成。家庭教育支援や地域学校協働活動などの関係者に向け、留意してほしいポイントなどをまとめた内容になっています。
https://www.mext.go.jp/content/20200327_mxt_chisui01-100014278_1.pdf
※参考/文部科学省ホームページ
3月の主な出来事
・3月24日 新型コロナウイルスの世界的流行に伴い、8月に東京都で開催を予定していた東京オリンピック・パラリンピックについて1年程度の延期を決定。
・3月29日 ザ・ドリフターズのメンバーで、コント王として幅広い層に愛されたコメディアンの志村けんさんが3月29日、新型コロナウイルスにより70歳で死去。
4月「臨時休校措置などを踏まえ、GIGAスクール構想が前倒しへ」「小学校で新学習指導要領が全面実施」「改正給特法が成立 段階的に施行へ」
GIGAスクール構想
1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備し、個別最適化された学びを展開することをめざす「GIGAスクール構想」。緊急時においても子どもたちの学びを保障するための環境整備費として、文部科学省は総額2292億円の補正予算を計上。「GIGAスクール構想」を前倒しする方針が示されました。
かねてから他の先進国に比べ、子どもたちが学習のために使うICT機器の整備の遅れが指摘されてきた日本でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、環境整備への動きが加速化することとなりました。
新学習指導要領
2017年3月に告示された新学習指導要領が、2020年4月に小学校で全面実施となりました。中学校も翌2021年度の全面実施を控え、2018年度から行われている移行措置期間の3年目を迎えています。
小学校にとって新学習指導要領元年となった2020年は、各校が全面実施に向けて最終準備を整えていた3月、新型コロナウイルス感染拡大防止対策として全国一斉休校となり、現場でもその対応に追われることになりました。休校明けも「学校における新しい生活様式」の下での活動が必要とされています。
改正給特法
公立学校における働き方改革を推進すべく、2019年12月に「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律」が成立。いわゆる給特法が、1971年の制定以来、およそ半世紀ぶりに改正され、2020年、2021年と段階的に施行されることになりました。
4月の主な出来事
・4月7日 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は緊急事態宣言を発令。
5月「コロナ休校が高校・大学入試にも影響」「学校の新しい生活様式が始まる」
高校・大学入試への配慮事項
コロナ禍により一斉休校が実施され、高校の学校説明会や大学のオープンキャンパスが中止や延期に。入試本番についても、さまざまな部分に影響が及んでいます。
高校入試の配慮事項として、文部科学省から「スポーツ・文化関係の行事、資格検定が中止や延期になったことによる不利益を被ることがないようにすること」「出席日数や学習評価の記載内容、諸活動の記録が少ないことによって不利益を被ることがないようにすること」などが示されました。
大学入試においても、「大学入学共通テストの科目指定で高3でも履修することの多い地理歴史、公民、理科の2科目指定を1科目に減らすこと」「発展的な学習内容を出題しないこと」などが提案されました。
学校の新しい生活様式
文部科学省では『学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル〜「学校の新しい生活様式」』を5月22日に打ち出しました(内容は以下の通り)。
●手洗い、マスク、咳エチケットなどの基本的な感染症対策
●感染リスクが高い3つの条件「3密(密閉 ・密集 ・密接)」が同時に重なることの回避
●学校医や学校薬剤師と連携した保健管理体制の構築
●体調不良者への対応計画、連絡体制の確認と整備
●感染症を正しく理解するための指導と差別・いじめ等への配慮や注意喚起
●家庭と連携した健康観察の徹底(発熱時の休養、出席停止など)
5月の主な出来事
・5月25日 アメリカ・ミネアポリス近郊で白人警官に手錠をかけられたアフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイド氏が、頸部を膝で8分以上押さえつけられ死亡。
・5月20日 新型コロナ感染拡大の影響により、春の選抜高校野球大会と夏の全国高校野球選手権大会が中止に。主催する日本高校野球連盟と朝日新聞社が発表。
6月「コロナ禍で学校行事の簡素化や中止相次ぐ」
学校行事に大打撃
新型コロナウイルスの影響は依然深刻で、春先の卒業式・入学式に続き、修学旅行や運動会など、学校運営の節目であり教育上意義のある行事の簡素化または中止を決定する事例が当たり前となりました。
6月の主な出来事
・6月11日 ジョージ・フロイド抗議運動参加者らがアメリカ・シアトル市警察署周辺を占領し、キャピトルヒル自治区設立を宣言。
7月「小中学校の9割が夏休みを短縮」
小中学校の最多は16日間
7月17日、文部科学省は、公立学校のコロナ下における夏休みの対応などに関する調査で、休みの期間を短縮すると回答した自治体が9割に上るとの結果を発表しました。小中学校では16日間、高校は23日間が最多でした。新型コロナ対策での休校措置が大きく影響した対応を迫られました。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020071700967&g=soc
※参考/時事ドットコムニュース
7月の主な出来事
・7月1日 「中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法」が施行され、香港警察は国家安全法の下で同日中に暴徒を180人余りを逮捕。そのうち7人が国家安全維持法違反によるものと発表。
・7月1日 レジ袋の有料化がスタート。
・7月3日 梅雨前線が停滞した影響で、7月3日から7月31日にかけて九州を中心に記録的な豪雨が発生。
・7月5日 東京都知事選で小池百合子氏が再選。
・7月16日 藤井聡太七段が棋聖戦五番勝負で史上初めて一次予選からの勝ち上がりで渡辺明三冠から棋聖位を獲得。最年少タイトル獲得記録を30年ぶりに更新。
8月「女性教員の割合が過去最高に」
中高大学などで過去最高の割合
文部科学省は8月25日、中高大学などで教える女性教員の割合が過去最高になったことを発表しました。女性が働きやすい環境整備が進んだ結果とみる反面、高校や大学の女性教員は未だ3割前後に留まっています。
https://www.asahi.com/articles/ASN8T4S74N8TUTIL00F.html
※参考/朝日新聞デジタル
8月の主な出来事
・8月28日 安倍首相が持病の潰瘍性大腸炎の悪化を理由に辞任する意向を表明。
・8月31日 東京都練馬区の遊園地・としまえんが閉園。1926年の開園から94年間営業。
9月「教員のわいせつ行為が増加 文部科学省が法改正を検討」
教員免許再取得まで5年
9月29日、文部科学省文教科学委員会では、教員によるわいせつ行為の増加を「深刻な事案」とし、その再取得までの期間を5年へ延長する法改正を検討中と発表しました。
一方で、保護者らを中心として子どもをわいせつ行為や暴力から守るために活動する「全国学校ハラスメント被害者連絡会」と、その母体である「子どもの権利を守る会」は9月、子どもへのわいせつ行為で懲戒免職処分となった教員に教員免許を再交付しないよう法改正を求める陳情書と、「わいせつ行為の前歴がある教員に教員免許の再交付しないで」とする、インターネット上で集めた約5万4千人分の署名を文科省に提出しました。
※その後12月に、文部科学大臣は、2021年1月の通常国会への法案提出を見送る意向を発表しました。
9月の主な出来事
・9月13日 女子テニス・大坂なおみが全米オープンで2度めの優勝。
・9月16日 第4次安倍内閣 (第2次改造) が臨時閣議により内閣総辞職。その後、衆議院本会議と参議院本会議で行われた内閣総理大臣指名選挙で自民党の菅義偉総裁を指名し、菅内閣が誕生。
・9月28日 菅首相が学術会議候補6人の任命を拒否。現行の任命制度になった2004年以降、日本学術会議が推薦した候補を政府が任命しなかったのは初。
10月「令和元年度のいじめ件数60万件を超え過去最多に」
小学校で約14%増加
文部科学省が10月に公表した令和元年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、いじめの認知件数は61万2496件に上り、前年度から約7万件増えて過去最多を更新しました。
小・中学校の内訳は、小学校が48万4545件(昨年度より5万8701件増)、中学校が10万6524件(昨年度より8820件増)となっており、小学校で約14%増加しているのが目立ちます。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302902.htm
※参考/文部科学省ホームページ
10月の主な出来事
・10月11日 スマホ5G時代本格化に伴い、アップルなど各社が対応機種を発表。
・10月16日に公開されたアニメ映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の累計興行収入が、日本で上映された映画としては歴代最速の10日間で100億円を突破。
11月「コロナ禍で進学を諦める高校生が増加」
退学や休学を考える大学生も
親を亡くした子どもたちなどを支援している「あしなが育英会」の調査によると、コロナで禍で家庭の経済状況が苦しくなったことで進学を諦める高校生が増え始めていたり、退学や休学を考えている大学生が3割を超えていたりなどの、苦しい実態が明らかになりました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201130/k10012737791000.html
※参考/NHKニュースサイト
11月の主な出来事
・11月1日 大阪都構想、住民投票で反対多数。
・11月3日 2020年アメリカ合衆国大統領選挙の一般投票が行われ、ドナルド・トランプ現大統領(共和党)とジョー・バイデン(民主党)が大接戦。
・11月8日 第126代天皇徳仁が秋篠宮文仁親王の立皇嗣を国の内外に宣明した一連の国事行為である「立皇嗣の礼」を執行。
12月「令和7年度までに小学校の1クラスの定員35人以下へ」
コロナ感染防止の効果も
小中学校における1クラスの児童生徒の定員は、現在、小学1年生が35人以下、小学2年生から中学3年生までは40人以下と決められています。きめ細かな教育を目指すには少人数学級が必要と訴えていた文部科学省は、新型コロナウイルス感染防止の観点からも、小・中学校ともに1クラスの定員を30人以下に引き下げるよう強く求めました。財務省との協議の末に、1クラスあたりの児童生徒数を35人以下に引き下げる方向で調整をすることになりました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201216/k10012767871000.html
※参考/NHKニュースサイト
12月の主な出来事
・12月6日 日本の小惑星探査機「はやぶさ2」から分離されたカプセルが豪州の砂漠に着地。
・12月15日 「Go Toトラベル」について12月28日から2021年1月11日まで全国一斉に一時停止すると発表。
・12月26日 新型コロナウイルス変異種の国内侵入を防ぐため、全ての国・地域からの外国人の新規入国を12月28日から2021年1月末まで一時停止すると発表。
・12月31日 男性アイドルグループ・嵐がこの日をもって無期限で活動を休止。
欧州やアメリカなどでは、新型コロナウイルスのワクチン接種が開始されるなど、世界的なパンデミックには収束の兆しが見えてきました。一日も早く学校が平常を取り戻せるよう、編集部も願ってやみません。2021年は、良い年になりますように!
参考記事/『総合教育技術』2021年1月号より
構成/みんなの教育技術