小3道徳「タピオカの光と影」指導アイデア
執筆/新潟県公立小学校教諭・小林隆史
監修/山形県公立小学校校長・佐藤幸司
目次
教材を提示
教材1 タピオカごみ ポイ捨て
タピオカドリンクブームが続くなか、専門店の開業が相次ぐ京都市中心部の繁華街でカップごみの放置が目立っている。粒や液体を残したまま公園にポイ捨てしたり、自動販売機用ごみ箱へ捨てたりする人が多く、街の清掃ボランティアも頭を悩ませている。
令和元年8月30日付『京都新聞』「タピオカごみ ポイ捨て」より前半部抜粋
夏休み終盤の土曜日、若者や観光客でにぎわう新京極公園(中京区)。自販機用に設置されたごみ箱は、無理に突っ込まれたタピオカ容器で投入口がふさがれ、周囲には黒い粒の食べ残しが目立つカップやペットボトルが散乱していた。
公園の清掃を続ける中之町町内会の中川富雄会長(69)は「一人が捨てるとあっという間に増えていくし、花壇に投げ込む人もいる」とため息。町内のタピオカ店に対してはごみ対策を求めていると言い、「店頭に回収箱を設置し、客にごみを戻すよう呼びかけてほしい」と訴える。
※学年の発達段階を考慮して、表記を変更し、全文は示さない。エピソードと町内会長の言葉を中心にする。
教材2 タピオカの輸入量
教材3 SNS上のタピオカの様子
教材4 捨てられるタピオカ容器
写真①~③(令和元年8月30日付『京都新聞』「タピオカごみ ポイ捨て」より)はダウンロード資料をご覧ください。
教材5 町内会長さん
▼ワークシート
※( )内の文字は子供たちに書かせます。
実際の授業展開
タイトル
正しいことをするには ~タピオカの光と影~
指導目標
友達やほかの人がしているからするのではなく、自分で考えて正しいと判断したことをしようとする態度を育てる。
内容項目
A 善悪の判断、自律、自由と責任
準備するもの
・タピオカが流行している様子と捨てられている容器の写真(黒板掲示用)
・町内会長さんのイラスト(黒板掲示用)
・ワークシート(児童配付用)
指導の概略(板書計画例)
導入
①これは、なんのグラフだと思いますか。
- 急激な増加を見せるグラフを示し、なんの輸入を表しているか考えさせる。教材への興味・関心を高める。
展開
②なぜタピオカが売れているのだと思いますか。
- 出された意見は箇条書きで板書する。また「写真を撮るから」などの考えが出たときには、「なぜそれで売れるのかな」と問い返し、写真が拡散され、みんなが買うようになることを引き出す。
- 教材4「捨てられるタピオカ容器」を示して問う。
③どんなことに気付きましたか。
- 出された意見は肯定的に受け止め、吹き出しで写真のそばに板書していく。
④なぜ、こんなふうに捨てるのだと思いますか。
- ワークシートを配付して、自分の考えを書かせる。考えを発表し合うなかで、「誰かが置くとほかの人も置く」という意味の発言があれば、それにつなげて、町内会長さんのイラストと言葉を提示する。
ここで「タピオカが売れていることと比べてどうかな」と聞き、売れていることにも容器を捨てることにも、「みんながしているからする」という構造があることを押さえる。また、写真を矢印などでつなぎ、視覚的にも似た構造があることを示す。
⑤みんなの周りにも「みんながしているからついしてしまうこと」はあるでしょうか。
- 見付けた構造が身近にもあるかどうか想起し、資料で考えたことと自分の生活をつなげる。
終末
⑥正しいことをするには、どんなことに気を付けるとよいと思いますか。
- これまで考えてきたことを踏まえて、「正しい」ことを行うにはどんな気持ちが必要か考える。
ここがアクティブ!授業展開の補足説明
タピオカドリンクが大流行しています。その流行の陰で、タピオカ容器の放置やポイ捨てが問題になっていました。導入では、タピオカの輸入量のグラフを示します。子供たちは、急激な増加に「これは何かな」と興味を抱くでしょう。
次に、その増加の理由について考えさせます。ここでは、子供たちの発表を中心に進めます。子供たちは、自分の経験を思い出すなどしてたくさんの意見を発表するでしょう。それらをつなぎ、おいしいだけでなく、みんなが飲んでいるからというところまでを共有します。
その後、可能ならネット上にあげられているタピオカの写真を提示し、写真を見ると自分も飲んでみたくなるという気持ちを確認します。展開では、タピオカ容器が放置されている写真を示し、気付いたことを発表させます。容器に注目できるよう、タピオカ容器部分だけをまず提示するとよいでしょう。
タピオカの明るいイメージとの差に、子供は「なぜこんなふうに捨てるのかな」と課題意識を高めます。そこで、その部分を問い、自分の考えを書かせます。考えを発表していくなかで、「誰かに続いてみんなが置いてしまう」という内容が出たら町内会長さんの言葉を示します。
前半部で「みんなが飲むから飲みたくなる」という気持ちが共有されていれば、子供たちは、放置ごみにも同じ思考の構造があることに気付くでしょう。もし、そのような声がなければ、「流行とごみで似ているところはないかな」と補助発問をします。
終末では、「みなさんの周りにも『みんながしているからついやってしまうこと』はないかな」と問い、その思考の構造が身近にもあることに気付かせます。ここで、資料で考えたことと自分の生活がつながり、自然に自分事として考えることができていきます。
授業をするうえでの注意点・ポイント解説
最後に、「正しいことをするためにどんなことに気を付ければよいと思いますか」と聞きます。これは、本時のねらいにつながる大切な発問です。「友達に流されず自分で考えること」などが出されるでしょう。
また、「勇気をもつ」や「(作ってくれた人など)相手のことを思い出す」なども出てくるでしょう。それらをつなぐように板書し、正しい判断には、さまざまな心の動きがかかわっていることを視覚的に示しましょう。これが道徳的価値の多角的な理解を促します。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
「板書や教具による見える化」
「可視化」とも「見える化」とも言われるように、見えないものを見えるようにすることは、どの教科の指導においても大切なことであり、子供の理解を確かなものにしていきます。
例えば、算数では量を数字で表し、量が増えたり減ったりする様子を式やグラフで表します。色も形もない気体や液体を文字で「空気」や「空」、「水」や「海」と表したり、絵の具で「水色」や「橙色」で塗ったりもします。
道徳科で扱う人の心、道徳性も色や形はありません。だからこそ、さまざまな人の心を「見える化」することが、自己の生き方についての考えを深めていくためには大切です。そこで、教師には板書の工夫が求められます。
気持ちや考えを言葉で表記したり、色で表したり、つながりを図や矢印で示したりするなどが考えられます。また、一人の子供の考えは全体のどこに位置付くのか、自分の考えと友達の考えはどのようなところが同じなのか、違うのか、どのくらい違うのかなど、思考ツールなどを上手に利用することも工夫の一つです。
このような板書の工夫があれば、それを見た子供は自分の考えを確かめ、ほかの考えと比較し、自分の考えをより確かなものにして自己の生き方に生かしていくことでしょう。ぜひ、いろいろな板書の工夫を試してみてください。
イラスト/うえだ未知
『教育技術 小三小四』2019年12月号より