コロナ禍で教育格差が明らかに! 急がれる学校のICT環境整備

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東京学芸大学教職大学院・教授

堀田龍也

オンライン授業を始めるために、全国の市区町村教育委員会や学校が、今しなくてはならないことは何でしょうか。日本のICT教育政策を牽引してきた東北大学大学院の堀田龍也教授に話を聞きました。

語る堀田龍也先生
東北大学大学院・堀田龍也教授

堀田龍也(ほりた・たつや)●東北大学大学院情報科学研究科教授。東京都の公立小学校教諭を経て教育工学の研究者となり、2014年より現職。中央教育審議会の委員として新学習指導要領の策定にかかわり、文部科学省の「学校におけるICT 環境整備の在り方に関する有識者会議」では座長を務めた。

オンライン授業が必要な理由

今こそ、学校がオンライン授業に取り組まなくてはいけない理由は、2つあります。1つ目は、時代の変化に合わせて日本の教育システムの前提を変える必要があるからです。

コロナ禍により、多くの日本人が気づいたことがあります。それは「学校は、子どもと先生が毎日学校に行く、という前提でしか教育が機能しないようになっている」ということです。もちろん、子どもが全員、毎日、学校に通える状態が望ましいわけですが、怪我をすることもありますし、感染症が流行することもあります。今後、自然災害が起こるかもしれません。外国にルーツを持つ子どもの数が増え、保護者の価値観が多様化しています。そういう時代にあって、子どもや先生が全員揃うことを前提とした教育環境のままでいいのでしょうか。学校は、子どもと先生が毎日学校に行かなくてもできる、教育の提供のしかたを持っておく必要があります。これが、学校がオンライン授業に取り組まなくてはいけない最も根本的な理由です。

オンライン授業ができれば、学校がこれまで抱えてきた様々な問題も解決します。例えば、不登校の子どもの学びを保障できます。病気で療養中の子どもも学び続けることができます。山間・遠隔地の学校に通う子どもが、遠く離れた場所にいる子どもと一緒に授業を受けることができます。外国にルーツを持ち、日本語の指導が必要な子どもは授業についていけなくなりがちですが、自宅でも学校でも、自分のペースで学習することができるのです。

続いて、学校がオンライン授業に取り組まなければいけない理由の2つ目は、学び方を変える必要があるからです。これまで多くの学校では、子どもたちは席に座って話を聞いていれば、先生が大事なことを教えてくれて、問題も出してくれる、という学び方をしてきました。これは実は、とても贅沢な学び方だと思うのです。

なぜかといいますと、大人になったら、毎日誰かが必要なことを教えてくれることなどなく、与えられた課題の答えを自分で探さなくてはならないからです。その答えを知っている人がどこかにいるのかどうかさえわからず、ネットで検索したり、メールでやりとりをしたり、ときにはオンラインでミーティングをしたりして情報を集め、答えを求めて自ら学んでいかなければいけないのです。いや、答えがないことだってあるのです。つまり、インターネットやICTを道具として使い、自分からリソースを得に行き、それらを活用して問題解決を図っていく、ということです。大人の社会ではこれらは当たり前のことですが、今の日本の子どもたちは、学校でそのような学び方を経験していないのです。

これに対し、欧米の学校の場合、授業の最初に先生が教える時間はありますが、その後は能力別のグループに分かれて学習したり、個別学習をしたりすることが普通に行われています。その際に、子どもたちはICTを使って主体的に情報にアクセスし、友だちと対話しながら問題を解決するような学び方をしているのです。

これからの時代に求められる学力は、教科の知識だけではありません。日本の子どもたちもICTを道具として使いながら、知識を得るために自分から情報にアクセスするときの態度やスキルを身に付ける必要があります。もちろん、小学校の低学年では、先生からたくさんのことを教えてもらっていいと思いますが、だんだんその割合を減らしていき、高校生になる頃には、ICTを駆使して自分たちだけで学べるようになることが求められます。それにはオンライン授業を通してICTを使った学び方に慣れていく必要があります。

オンライン授業の2つのタイプ

オンライン授業というと、多くの人はZoomなどを使う授業をイメージすると思いますが、オンライン授業には様々なやり方があります。その中で代表的なのはリアルタイム型とオンデマンド型の2つです。

リアルタイム型は、Zoomなどを使って同時双方向で行う授業です。ビデオ会議システム、Web会議システムなど、様々な呼び方がありますが、具体的には、ネットで映像と音声を送り合い、ときにはファイル共有をして授業を行います。そのメリットは、先生と子どもの間で顔を見ながら、同時双方向のコミュニケーションがとれることです。子どもはわからないことがあれば、先生に質問できますし、友だちの意見から学びを深めることができます。

一方、オンデマンド型には、YouTube やEテレなどの学習動画を視聴する学び方があります。この方法のメリットは、子ども自身の意思で動画を途中で止めたり、戻したり、早送りをしたり、もう一回見たりできることです。「僕は、ここはもうわかっているから早送りしよう」、反対に、「僕はここがわからないからもう一回見よう」などと、学習を自ら振り返りながら学べます。

オンデマンド型に含まれるのは動画だけではなく、先生がクラウド上に用意しておいた資料やワークシートなどをダウンロードして使う学び方もあります。いずれにせよ、能力や関心に応じて子どもが学び方を自己決定でき、家でも学校でも、何度でも、自分のペースで取り組むことができます。

リアルタイム型とオンデマンド型を比較してみますと、リアルタイム型のほうが対面式の授業に近い部分があるといえます。しかし、先ほどオンライン授業が必要な理由の2つ目に挙げましたが、子どもが様々なリソースの中から必要な情報を選び、自らアクセスし、自分のペースで学ぶ能力を高めていくには、むしろオンデマンド型のほうが適していると思います。

このような2つのタイプを示すと、「どちらかを選ばなくては……」と考える方もいるかもしれませんが、現在、オンライン授業がうまくいっている学校では、授業の中身に合わせて、両者をうまく組み合わせています。

例えば、最初はZoomなどを使ってクラス全員が集まり、リアルタイム型で授業が始まります。先生が「今日はこういうことを学習します」などと課題を提示し、「では、15分、時間をとりますから、このURLとこのURLを見て考え、ここに自分の意見を書いてください」のように指示をします。そこからオンデマンド型になり、それぞれの子どもが情報にアクセスして学習し、指定された場所に意見を書き込むのです。20分後、再びZoomで全員が集まり、リアルタイム型に戻ります。子どもたちは、友だちが書き込んだ意見を見て学びを深め、指名された何人かの子どもが発言し、最後は先生が大事なことを整理します。

対面式の授業では、一斉→個別→一斉のような形で授業が進んでいくと思うのです。オンライン授業では、一斉の部分をリアルタイム型、個別の部分をオンデマンド型に置き換えることができる、と考えてもらうとわかりやすいと思います。

もちろん、日によってリアルタイム型で先生が話す時間が長めになる日があってもいいですし、反対に、オンデマンド型で子どもが活動する時間のほうが長い日もあると思います。大事なのは、リアルタイム型かオンデマンド型か、どちらかを選ぶことではなく、学校は両方のやり方ができなければいけないのです。

そして、このようなオンライン授業を実現できるかどうかは、教育委員会が学校のICT環境の整備をきちんとしてきたかどうかにかかっています。

ICT環境の差がもたらすもの

学校のICT環境の整備は、教育委員会の仕事です。コロナ禍により、多くの教育委員会ではICT環境というインフラを十分に整備していなかったことが露呈しました。これが一番の問題だと思います。

校長先生の中には「もう休校期間は終わったのだから、オンライン授業をする必要はないだろう」と考えている方もいるかもしれませんが、それは違います。学校は対面式で授業ができるときにこそ、オンラインの活動を取り入れるべきなのです。

例えば、授業の最初に、先生が課題を確認したら、「ここから先はオンラインでやります」と宣言します。子どもは自分用のコンピュータを使って指定されたURLにアクセスし、資料などを見て考え、指定された場所に意見を書き込みます。先生は子どもたち全員の意見を大画面のテレビに映しだし、机間巡視をしながら必要に応じて個別指導をします。最後に、何人かの子どもを指名して発言をさせてから、先生がまとめます。このように対面式の授業の中にオンラインの活動を取り入れることで、対面式の授業だけではできなかったことも、できるようになります。

自治体の中には、これまでに学校のICT環境の整備をきちんと行ってきて、何年も前からコンピュータ1人1台が配備されているところもあります。そのような自治体の学校では、休校期間中、ごく普通にオンラインで授業が行われていましたし、ご紹介したような、オンラインの活動を取り入れた対面式の授業が日常的に行われています。休校期間中にオンライン授業ができなかった自治体と比べますと、その差は歴然です。自治体によって、すでに教育格差が生じているのです。

隣の学校に合わせる必要はない

校長先生の中には、オンライン授業をやるかやらないかの判断を、隣の学校と合わせた方もいると聞いています。

しかし、経済的に困難な家庭が多い地域の学校もあれば、外国籍の子どもが多い地域の学校もあります。同じ学区の中に、経済的な格差が生じている学校もあるでしょう。学校によって事情は違うのです。隣の学校と合わせることには意味がないと気づき、自校の子どもたちのために決断して行動を起こしていただきたいのです。本校はこういう状況だから、このような整備をしてくれないかと教育委員会に掛け合う、あるいは教育委員会の許可を取り、民間と連携してコンピュータを借りる、などは校長先生の判断でできることです。

校内で一生懸命頑張っている先生と子どもたちのためだけではなく、子どもたちを支える保護者の協力を得るためにも、今、校長先生に求められるのは、リーダーシップを発揮することです。

校長先生の中には、ICTに詳しくなく、むしろ苦手意識を持っている方もいるかもしれませんが、別に校長先生が詳しくなくてもいいのです。学校には様々な人材がいます。技術的なことはA先生に任せよう、みんなを引っ張っていってもらうのはベテランのB先生にやってもらおう、というように、適切な人材を配置し、組織を統率するのが管理職の仕事でしょう。

最後に、コロナ禍でオンライン授業ができなかったことが、保護者からはどう見えているのかを、学校はもっと感じ取らなければいけないと思います。授業ができない状態が1週間程度で済んだのならまだしも、年度が替わり、1か月たっても2か月たっても、多くの学校ではオンライン授業ができませんでした。その間に学校に対する保護者の不信感は確実に募ったと思うのです。一度失った信用を取り返すのは容易ではありません。だからこそ、今後、新型コロナウイルスの感染拡大の第2波、第3波が来たときには見事にオンライン授業ができるよう、学校の体制をしっかり整えてほしいと願っています。

そもそも日本の先生たちは、ICTがない環境で子どもに対応することには長けています。オンライン授業ができなかったのは、ただ単に経験がなかったからです。経験がないのは端末がないからです。ICT環境の整備は教育委員会の仕事です。教育委員会にインフラとしての環境を整えてもらったうえで、学校はこれから保護者の期待に応えていく必要があるのです。

取材・文/林 孝美

『総合教育技術』2020年10月号より

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