「プログラミング教育の手引」に見る文部科学省のねらいとは【教育ニュース】
先生だったら知っておきたい様々な教育ニュースについて、東京新聞の元教育担当記者・中澤佳子さんが解説します。今回のテーマはプログラミング教育の教員向け手引改定についてです。
執筆/東京新聞記者・中澤佳子
目次
プログラミング教育について解説した教員向け手引が改定
新学期を迎えましたが、新型コロナウイルスの対応に追われている学校も多いことでしょう。一日も早い終息を願うばかりです。そんな中、小学校の新しい学習指導要領が全面実施になりました。話題の一つは、プログラミング教育の必修化です。
文部科学省はこのほど、プログラミング教育について解説した教員向け手引を改定し、ホームページで公開しています。
手引は2018年3月に作った後に一度改定し、今回は第3版。改定の焦点は、社会とプログラミングの関わりです。企業と連携し、身近な製品やサービスに、プログラミングがどう生かされているかを学ぶ授業を提案しています。
例えば、移動にも物流にも欠かせない自動車。一方で事故や渋滞は社会問題です。
授業では、まず「車中心社会の課題」「高齢ドライバーの事故」など身近な問題を議論。家族や地域住民、警察などに尋ねたり、データを調べたりし、場所や時間、被害者の年代、事故形態などを分析して実態をつかみ、原因を考えます。そのうえで自動車メーカーから、近年の車に搭載している衝突回避や運転アシストなどの技術に、プログラミングがどう生かされているかを教えてもらいます。
住宅にもプログラミングは生かされています。授業では家族構成や世代、地域の違いも踏まえながら、便利で暮らしやすい住宅について話し合います。そして、家の中のものがインターネットとつながった「IoT住宅」や、人の動き、温度、明るさなどを感知するセンサー、人工知能などの技術活用について住宅メーカーから学びます。
プログラミング教育で思考力を培うことをめざす
プログラミング教育のねらいは、IT人材の養成ではありません。授業の例にはプログラミングでの作曲や多角形の作図も挙げられていますが、わざわざコンピュータを操作し、曲や多角形を仕上げること自体が目的ではありません。
意図した動きをコンピュータにさせるため、複数の指示を組み合わせて試行錯誤する過程を重視しています。この作業を通じて、物事を順序立てて考える思考力を培うことをめざしているからです。
よりよい暮らしをめざすうえで壁になる、目の前の問題はどうすれば解決できるか。それには何が足りず、何を補えばよいのか。考えを深め、模索を重ねることで、技術は進んできました。学習や仕事、コミュニケーションの手段に活用され、欠かせないものとなった情報技術も日々進展しています。だからこそ、適切に使いこなす術も身に付けなければなりません。
手引では、著作権など自分や他者の権利の尊重、セキュリティの確保など、情報モラルの重要性にも触れています。利用するうえでの安全性や注意するべきことを子供たちに理解させるとともに、他人を不快にしたり困らせたりするために、プログラミングを使うことのないよう意識させる指導が求められます。
『教育技術』2020年6月号より