小3算数「比較・抽象・概括」メリハリ授業のヒント

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大幅に削られた授業時数の中でも、国語と算数については、特に慎重に指導をしたいもの。二学期の授業内容の精選や組み方を工夫して、子供たちの「積み残しゼロ」をめざしましょう。ここでは小三算数について、メリハリある授業のポイントをご紹介します。

執筆/富山県公立小学校教諭・前田正秀

みんなで学ぶ楽しさを実感している今がチャンス

時間が限られた中でめざす力を育むためには、じっくり時間をかけるべきところと、省力化できるところを考えることが必要です。では、何に時間をかけるかと言えば、みんなで考える楽しさを味わわせることだと思います。

富山県で6月から授業が始まったとき、何人もの子供が「みんなで授業することが楽しい」「みんなで考えを深めるのが楽しい」と、日記に書いていました。

それは長期休業によって、一人で生活する時間を過ごした後、みんなで登校できるようになったからこそ、強く思ったのだと思います。さらに言えば、人は関わり合いの中で成長することを、改めて実感したのではないかと思っています。

時間的に余裕をもちにくい今は、どうしても指導内容に目が行きがちでしょう。しかし、子供たちが友達と学ぶ楽しさを感じているこの時期こそ、それを味わわせるチャンスだと考え、時間をかけることが大切だと思います。

正直言って、内容の取りこぼしと算数嫌いを天秤にかけたとき、内容の取りこぼしよりも算数嫌いを取り戻すことのほうが、はるかに難しく時間がかかるものなのですから。

さて、みんなで考えることに時間をかけるとなると、減らす部分も考えなければなりません。そう考えると、私は「教えること」と「考えさせること」を明確にし、すっきり簡潔に教える一方で、しっかり友達と考えさせることが大切だと思います。

それは学習指導要領の評価観点で言えば、「知識・技能」に当たるところはしっかり簡潔に教え、「思考・判断・表現」に当たるところはしっかり時間をかけて考えさせるということです。

ゲームで図形に関する概念形成を図る

具体的に三年生の後半の内容、「三角形」の学習で考えてみましょう。この内容全部を考えさせようと思うと、まず多様な三角形に触れさせ、仲間分けをさせて、そのうち辺の長さに着目させて、二等辺三角形と正三角形に分け…とやっていくと膨大な時間がかかります。

しかしこの学習で、二等辺三角形の仲間、正三角形の仲間に分けられるというのは、知識として教えるべきことで、それらの特徴を捉えていくことは考えるべきことです。

ですから、私なら三角形のくじ引きゲームをします。まず二等辺三角形、正三角形を含む多様な三角形を黒板に貼りますが、この三角形の裏側には、一般的な三角形にはハズレ、二等辺三角形には当たり、正三角形には大当たりと書いてあるのです。

三角形のくじ引きゲーム

子供たちは最初は分からないから、適当に選んでめくっていきます。しかし、いくつかめくって、ハズレ、当たり、大当たりのくじを並べていくと、次第に特徴に気付いていきます。「当たりは2つの長さが等しい」とか「全部同じ長さが大当たり」と、くじを当てるために特徴を言葉で表現し始めます。

さらに少し迷う形について議論をし始めるでしょう。鈍角を含む三角形はいずれも子供が受ける印象が似ているのですが、鈍角二等辺三角形は当たりで、それ以外はハズレです。さらに鋭角二等辺三角形という印象の異なるものも当たりということで、議論になります。

そして見比べることで、「尖っていてもいなくても『2つの長さが同じだと当たり』なんだ」と特徴を言葉にしていきます。

あるいは三角形の向きによっても印象が違うのですが、ここでも見比べる過程で、「これはきっと当たりだよ、だって…」と予想しながら、それぞれの三角形の定義が言葉で表され、明確になっていきます。

このように、教えるべきことはあらかじめ三角形の形に当たり、ハズレを付けることで宣言しておいて、三角形を比べることに時間をかけて、図形に関する概念形成を図るわけです。

知識や技能以上に大切な「概念形成」

ちなみにこの単元に限らず概念形成は、三つの過程を経て成されると言われます。それは、比較、抽象、概括です。比較は比べることで、抽象は特徴を見いだすことで、概括は言葉で表すことです。

三角形の例で言えば次のようになります。

大当たり、当たり、ハズレの形を見比べる(比較)

特徴を見いだす(抽象)

その特徴を言葉で表す(概括)

時間がないときには、とりあえず知識や技能だけでもと思いがちですが、それは逆です。基本的な考え方の定着を図っておけば、知識は後からでも付け足すことができます。

この例で言えば、図形(三角形)の概念形成というのが、その基本的な考え方で、まずそこをじっくり対話させ、考えさせることが大切です。

同様に棒グラフで言えば、グラフのかき方は教えるところで、目盛りの取り方による見え方の違いは考えさせたいところです。そのために最大値が19ほどのデータなら、目盛りを20くらいに取ったグラフと、100くらいまで取ったグラフをあらかじめ作って示し、見え方の違いを考えさせていくのです。

さらに言えば、見え方について考えさせるには、「伝えたい」という思いを抱かせることが必要です。例えば、宿泊体験で何が最も楽しかったかなど、生のデータを取り、下級生に伝える学習を行うと、「効果的に伝えたい」と思うことで、子供たちは自然とよりよいグラフの表現を考えていきます。「伝えたい」という思いを抱かせるところには、時間をかける必要があるのです。

2桁かける2桁の筆算の学習の場合は、筆算の手順は教えるところで、具体物を使った操作と筆算がどう結びつくかを考えていくのは、じっくり時間をかけたいところです。

そのように、教えるべきことと考えさせるべきことを明確にするときには、単元を貫く大切な考えは何かを、しっかり考えることが重要です。

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取材・文/矢ノ浦勝之

『教育技術 小三小四』2020年9月号より

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