学級活動⑵イ「よりよい人間関係の形成」でICT授業は無謀!?【5年3組学級経営物語6】

連載
学級経営のポイント満載の学級小説「4年3組~6年3組 学級経営物語」

通称「トライだ先生」こと、2年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。今回は、 渡来先生がICT教育に初チャレンジします。
ICTは、子どもたちが学習に主体的、探究的に取り組むための便利なツール。目標や必要感に基づく教師の適切な指導が、有効な活用を実現させることができます。自信がなくても、できる事から一歩一歩! さあ、教育の未来を拓くICT教育に、レッツトライだ!

文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ

学級経営物語タイトル

6月②「ICT教育」にレッツトライだ!

<登場人物>

トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職2年目の5年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。トラブルに見舞われることが多く、学級経営の悩みが尽きない。特技は「トライだ弁当」づくり。


しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
5年1組担任で、今年はじめて学年主任に抜擢された、教職10年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。産休明けで、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。


オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活4年目の5年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。しかし、昨年度、学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられたという経緯をもつ。

トライだ先生の挑戦

早朝の3組教室、子どもたちのタブレット入力が始まりました。

入力を補助する渡来先生。珍しそうにタブレットをタップする子どもたちに応えます。

「ICTにトライだ。まず『心の天気』で、よりよい学級づくりにみんなで取り組むんだ!」

朝の教室に、オ~ッという歓声が轟きました。


「『心の天気』の集計データを活用して、学級活動⑵のイで実施しようと考えていましたが…」

一週間後、学年打ち合わせで経過報告をする渡来先生。理解できずに、曖昧に頷く鬼塚先生。

高杉先生が、指導要領解説を読み上げます。

「⑵は、日常の生活や学習への適応と自己の成長及び健康安全。その中の イ は、よりよい人間関係の形成。…つまり、データ分析により各自の意思決定に持ち込む、教師主導の活動だな」

「そのつもりでしたが、方針を変更しました」

そう答える渡来先生に、怪訝そうな鬼塚先生。

「子どもたちの心の状況を教師がセンサー的に察知し、指導に役立てる。『心の天気』は、教師の指導場面での活用を想定してつくられている。それ以外の活用方法は、マニュアルにない…」

顔をしかめる鬼塚先生に、説明する渡来先生。

「⑴のアで実践します。データの自主的な活用を、子どもたちが提案したんですよ。それで…」

驚き慌てた鬼塚先生が、その言葉を遮ります。

「自主的活動って…、個別データを子どもたちが共有すれば、プライバシー侵害だ。個人情報を保護しなければ、人権問題。…無茶だぞ!」…ポイント1

「でも教師だけで、よりよい学級はつくれません。子どもたちが、自分事として学級づくりに参画するためには、データ共有は不可欠。その事に実践の中で気づいたんです。…だから、各天気別の人数や平均得点等でデータの個人色を薄め、そして人権尊重も事前に指導をします」

冷静に話す渡来先生。まだ何か言いたそうな鬼塚先生を眼力で制し、高杉先生が決断を下します。

「教師主導の『心の天気』を、自主的活動で実施するのか…。興味深いな。今月の二年次教員の授業研究、ぜひこの実践で取り組んでほしい」

ポイント1【個人情報の保護】
以前から個人情報の保護は重要な課題でしたが、近年の情報化の進展によりさらなる配慮や指導が必要になりました。とくに学校では、成育歴、家族関係、徴収情報等だけでなく、成績や発育測定の結果、生徒指導の記録等の、多種多様な個人情報を扱うので、適正で厳格な管理が求められています。そのため各学校では、保護に関するガイドラインを定めています。また、情報モラルに関する授業が行われ、個人情報の適切な対応についても主体的に学ぶ機会が設けられています。

『快晴プロジェクト』始動!

快晴プロジェクトスタート

鶴の一声で決まった授業研究。それを明日に控えた帰りの会で、渡来先生は子供たちに語りだしました。…ポイント2

「…転校前、ヒデの心の中はずっと雨や雷だった。でも今は毎日晴れ。3組に来れば曇りでも晴れていく。…だから自分だけでなく、仲間も晴天にしたい。そう考えて、提案をしたそうだ」

嬉しそうなヒデに、笑顔を向ける渡来先生。

「相手の心の天気を心配して、思いやれる。そんな学級になれば、偏見や差別、イジメなどはなくなっていく。明日の学級活動、頑張ろうな!」

意欲が教室に満ちていきます。背後の掲示板には、『晴れの人数グラフ』。全員が晴れではありませんが、それが誰かを憶測する子どもは一人もいません。『快晴プロジェクト』を始めると同時に、全員でその事を確認し、約束したのです。

ポイント2【自主的活動と事前指導】
子どもたちに自主的な活動を実施させる際は、必ず活動目標や自治的活動範囲、教師の支援体制等について事前指導をします。そして、活動に対する教師の想いや考え等も明確に伝えます。それにより、目標から外れた活動に陥ったり自治的活動範囲を逸脱したりする事態が防げます。活動の途中で修正を指示、介入、叱責等を行えば、子どもたちの活動意欲が著しく低下します。寄り添い、励ますためには、事前指導の際にしっかり「活動の基盤づくり」を行うことが重要です。

みんなでトライだ、ICT学級活動!

「…では、活動内容をみんなで工夫します。天気を快晴にするアイデアを、発表してください」

司会のハジメが告げると、あちこちから手が挙がります。最初に、マユミが発言します。

「どうしたの、元気ないぞって声かけが大切。私は、お母さんと口喧嘩した時は雷、でも友達と話をすれば晴れます。みんなはどうですか」…ポイント3

皆が同意します。さらにタカが発言しました。

「間違えたり、失敗したりしても責めない。人には優しく、自分には厳しく…。難しいけどね」

「日頃のコミュニケーションを大切に、ということですね。そういう意見をお願いします」

ハジメの呼びかけに、再び手が挙がります。後方で授業を参観する鬼塚先生が、呟きました。

「オレ、初めてですよ。こんな学級活動は…」

感動気味の鬼塚先生に、小声でささやく高杉先生。

「だから公開授業にした。今までの教え子に懺悔し、今後は精進してくれよ、…学級づくりに」

話合いは順調に続き、佳境に差しかかります。『晴れの人数グラフ』を指し示し、マリが発言します。

「学級集会の日は、晴れが多いです。やっぱり、楽しいことや、その準備は心が晴れるんだよ」

データに基づいた意見に、タカが応えます。

「確かにワクワクするな。晴れを祈る『てるてる坊主』。そんな集会をみんなで計画しよう!」

歓声と拍手が教室に響き、やがて『声かけ作戦』と『てるてる集会』の実施が決まりました。

ポイント3【相手の気持ちを思いやる学級】
喜怒哀楽の気持ちは、日常生活で必ず生じます。学習や人間関係、家庭の出来事等、原因は様々ですが、子どもたちの集団生活ではそれが引き金となりトラブルや問題行動に進展する場合が少なくありません。
そんな時、「元気が無さそう」「機嫌が悪そう」等の心の疲れに思いを馳せて「大丈夫?」「どうしたの?」という声かけをし、心が安らぐように配慮すれば学級の雰囲気は和やかになっていきます。相手の気持ちを思いやり、相手のために行動することで「居心地のよい学級」の実現が目指せます。
それを「自分事」と捉え、実現に向けた取り組みに主体的に参画していく子どもを育てていくことが「教師の仕事」です。

ICT教育の基盤とは…

放課後の研究討議会では、称賛と個人情報保護への危惧の真っ二つに評価が分かれました。

「グラフ提示は、イジメにつながる恐れがある。やはり、子どもとの個人情報の共有は危険だな」

ベテランの先生の指摘に動揺し、自信を無くし始める渡来先生。シーンと静まり返る討議会。

しかし、その沈黙を鬼塚先生が破りました。

「学級活動なんて正直興味なかった。この実践研究に引きずり込まれるまでは…。でも、オレは気づきました。晴れ以外の子どもをあぶり出し、イジメる学級なんて最悪だ。担任しっかりしろよって…、オレを筆頭に指導力を責められます。3組の子どもたちは、各自で個人情報や人権を尊重し、ワンチームで快晴プロジェクトにトライしたんです。それは、事前指導がしっかり行われ、教師の想いが浸透したから…。担任の仕事は、相手の心の天気を心配して自分事として考えられる学級の構築です。個人情報を守り個々に配慮しあう実践にトライした渡来先生、…ICT教育に本当に大切な事を気付かせてくれて、ありがとう!」

深々と頭を下げる鬼塚先生。満足気に大きく頷く高杉先生。渡来先生の『心の天気』も、雲一つない晴天に変わっていきました。

(次回へ続く)

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