「遠隔授業導入」熊本市の実践例に学ぶ6つのポイント
新型コロナはまだまだ予断を許さない状況が続く中、改めて遠隔授業の備えを進める学校も増えています。3月の休校が始まってすぐ遠隔授業をスタートさせた熊本市の実践から、導入のポイントを紹介。文部科学省のICT活用教育アドバイザーを務める平井総一郎さんからの提言です。

2020年4月4日、情報通信総合研究所特別研究員の平井聡一郎さんをスピーカーに迎え、「コロナから考えるこれからの教育〜学び方や学校の存在意義〜」(主催:一般社団法人子供教育創造機構)と題したオンライン講座がZoom(オンライン会議システム)を使って開催されました。
茨城県古河市の小学校校長、古河市教育委員会参事兼指導課長などを経て、現在は文部科学省のICT活用教育アドバイザーも務める平井さんは、ICT機器の導入・活用やプログラミング教育のエバンジェリストです。
今回の講座では、平井さんが、新型コロナウイルスによる休校が始まってすぐ遠隔授業をスタートさせた熊本市の実践を紹介し、今全国の教員たちがすべきことや、「アフターコロナ」の教育などについて提言しました。
目次
休校要請に迅速に対応した熊本市の学校
平井さんがまず紹介したのは、学習指導要領にかかげられた理念でした。
「学習指導要領の冒頭には『これからの社会がどんなに変化して予測困難な時代になっても、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれに思い描く幸せを実現してほしい』という趣旨の一文があります。今までこれは単なるお題目だと思っていました。ところが、突然コロナウイルスの感染拡大という『予測困難な時代』がやってきてしまった。今まさに子どもたちは、『自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、判断して行動』することを求められています。これを前提として、現在の状況を考えてみたいと思います。」
政府による休業要請が出た後の全国の学校の対応は様々でした。プリントを配付しただけという学校もある一方で、熊本市の学校のようにすぐに授業をオンラインに移行できたところもあります。平井さんは同市の対応は迅速だったと言います。
「熊本市は、政府の休業要請が出される前に、Zoom利用の実験やマニュアル配付などコロナ対策の体制づくりを始めていました。それで、休業後すぐ遠隔授業を始めることができたのです。」
Zoomは数あるWeb会議のサービスの中でも、ITの知識がなくても簡単に利用できるサービスとして人気を集めています。しかし、現在、安全面での問題が指摘されています(2020年4月)。利用する際は、最新のバージョンにアップデートする、会議用URLにはパスワードと待機室を用意する、会議用URLをSNSに投稿しないなど、安全を確保した上で利用しましょう。Web会議のサービスにはMicrosoft Teams、Googleハングアウトmeet、Skypeなど、他にも様々なものがあります。
平井さんが紹介した熊本市の小中学校の取り組みは次のようなものです。
①Zoomで出欠チェック・健康観察
教室でやるのと同じように先生が名前を呼んで、子どもたちの顔を見ながら体調や家での過ごし方などについて聞いています。
②Zoomで健康管理の指導
運動不足にならないように、家でできるかんたんな運動などを、先生が実際に動きを見せて指導しています。
③Google formsを使ったアンケート
家での過ごし方などについて、クラウドサービスのGoogle formsを使ったアンケートを子どもたちや保護者に向けて行っています。
④Zoomを使った英語の授業
先生がスケッチブックを見せながら英語表現の説明動画を作る課題の内容を説明。子どもたちが30分でClips(iPhone/iPad用ビデオ作成アプリ)などを使って作品を作ります。資料はオンラインで配付し、質問も受け付けながら進めています。
⑤オンラインで小学3年生が「自由研究」
風邪予防によい料理を考えるという自由研究の課題を出し、子どもたちがレシピを考案。風邪予防に有効な理由を説明する図表や、作った料理の写真を提出しました。
⑥「ロイロノート」で1日の学びを報告
熊本市では、教育支援アプリ「ロイロノート」も利用しています。これを使って子どもたちが毎日やったことを先生に報告し、先生がコメントして返す、あるいは保護者ともやりとりするなどのインタラクティブな活動も行ない、家庭と学校が常につながっています。
【関連記事】ロイロノートだけを使ってオンライン授業に取り組んでいる学校もあります。こちらの記事も併せてお読みください。→小学校オンライン授業実践例:使うツールは?保護者への連絡は?
コロナで進む意識改革
なぜ、熊本市の学校では、このような取り組みができたのか、平井さんは次のようにみています。
「熊本市の学校で、すぐに遠隔授業ができたのは、ICT環境が整っているだけでなく、子どもたちが日常的に、探究的、創造的な学びに取り組んでいるから。先生たちも、ふだんからアプリなどを使いこなしているので、非常時にもいろいろ応用することができます。つまり、いつもやっていることをオンラインに移行しているだけだということです。」
ということは、ICT環境整備や新しい学びが進んでいる学校と、そうでない学校の差がどんどん広がってしまうのでは? 平井さんは、そのことは心配だとしつつも、今の危機的状況が、自治体や学校を変えるだろうと指摘します。
「今まで、新しい学びを支えるICTの整備がなかなか進まなかった自治体でも、今回のことで『1人1台体制』『遠隔・オンライン授業の日常化』『クラウドの利用』『LTE(高速通信回線)』の必要性を実感しています。コロナ対策によって、意識改革が急速に進んでいるのです。」
そして、今こそ「アフターコロナ」も視野に入れたチャレンジが必要だと言います。
「これからICTの環境整備を進めるならば、例えばインフルエンザ休校や、不登校・院内学級など、さまざまな場面を想定して、どこでも学べる環境をつくることが大切です。WiFiよりもLTEを選ぶというのもそのひとつです。コロナ対策の中で『本当に必要な環境とは何か』も見えてくると思っています。」