【シリーズ】高田保則 先生presents 通級指導教室の凸凹な日々。♯23 ―通級指導教室で指導する学習方略(3) ―学習方略を拠りどころにした自己調整学習

通級指導教室担当・高田保則先生が、多様な個性をもつ子どもたちの凸凹と自らの凸凹が織りなす山あり谷ありの日常をレポート。情熱とアイデアに満ちた実践例の数々は、特別支援教育に関わる全ての方々に勇気と元気を与えるはずです。
執筆/北海道公立小学校通級指導教室担当・高田保則
目次
はじめに
北海道オホーツク地方の小学校で、通級指導教室を担当している高田保則(たかだやすのり)です。日々、子どもたちと向き合う中で感じたことや考えたことを綴っています。ここに記す事例は、これまでに出会った子どもたちのエピソードを組み合わせて作った架空のお話ですが、実際に過ごした時間の空気感を込めています。
認知心理学の知見に基づく「学習方略」という視点から、通級指導を見直してみることを提案しています。「学び方」の指導です。今回の記事では、学習方略を拠りどころにした自己調整学習の実践について記してみます。前回、前々回の記事と併せてご覧いただければ幸いです。
1.学習方法は指導事項なのでは?
皆さんは、子どもの頃に「自分に合った勉強法」を具体的に教わった記憶はあるでしょうか。
私は、字を書くのが苦手です。だから、中高生の頃のテスト勉強は、ノートに書くということをほとんどしませんでした。代わりに、教科書の重要語句を塗って隠す「暗記ペン」を多用していました。さらに私は、座学でじっと集中するのも苦手です。テスト勉強では、ベッドに横になったり、部屋の中を歩き回ったりしながら、テキストを読んでいました。これらは、私が自分で考えた学習の工夫です。
教員の多くは、自分なりの学習法を身につけています。だからこそ、教員になれたとも言えます。そして自分がそうだったから、「学習法は自分で考え、自然に身につくものだ」と思い込む傾向があります。
一方、多くの子どもは「学習方法を工夫する」という発想自体を持っていません。自分の学習方法が、他の子と違うとも思っていません。
「自分なりの学習法を見つけて勉強してください」
教員にそう言われて腑に落ちるのは、成績優秀な子だけかもしれません。多くの子どもは、そもそも何が重要語句なのかがわかりませんし、自分の学び方の得手不得手もわかりません。わかるのは、突きつけられた「自分の成績」だけです。だから、勉強する気が失せていくのです。
学習方法は、個人のセンスに任せるものではなく、明確に「指導すべき事柄」ではないでしょうか。その根拠として後ろ盾になるのが、認知心理学の知見に基づく「学習方略」です。
「自分なりの学習法で」という言葉が、子どもたちを突き放す無責任な言葉になっていないか。今一度、問い直してみる必要があるのではないでしょうか。

2.子どもの得意に合わせた学習方法で良いのか?
子どもの学び方について、教育現場にはいくつかの誤解があるようです。その一つが、学習スタイルを巡る誤解です。認知心理学の研究では、子どもが得意とする認知スタイルに偏った学習方法は、効果的ではないという知見が出ています。
具体例を示します。
言葉を理解する力に優れている子が、長野県の位置を学習するとします。長野県を地図で示せば一目瞭然です。一方、言葉で記すとこうなります。
「長野県は、日本列島のほぼ中央に位置する本州の中部地方(内陸部)にあります。およそ北緯35〜37°、東経137°〜138に位置しています。群馬県、埼玉県、山梨県、静岡県、愛知県、岐阜県、富山県、新潟県の八つの県と接しています。」
いくら言葉の理解力に優れた子でも、これでは、わかりにくいですよね。たとえ言語理解が優れている子であっても、地図の見方を学ぶことは有効な手だてとなるのです。
同様に、見て覚えるのが得意な子は、教科書を読むだけで学べるというわけではありません。作業処理が得意な子も、ひたすら反復学習をすればよいというものではないのです。
その子の学び方の特徴を分析することはとても大事です。でも、得意分野を活かすのは、苦手を補ったり、学習意欲を高めたりするための手立ての一つに過ぎません。得意分野に偏った活用をすれば、かえって子どもの学びにとって逆効果になりかねないことを意識する必要があります。
3.学習方略を拠りどころにした自己調整学習の指導実践
子どもたちを主体的な学び手に育てる手立てとして、いま「自己調整学習」が注目されています。
子どもが自分の学習のハンドルを握り、「学習目標」という目的地に向かって、「動機付け」というアクセルや「メタ認知」というブレーキを使いこなしている状態。それが「自己調整学習」だと想像してみてください。

小学6年生のDさんの事例を紹介します。
【自分の力で問題を解きたいDさん】(生成効果 メタ認知の活用)
生成AIは、今や単なる「解答生成機」ではありません。対話を通じて、評価やアドバイス、そして新たな提案をもたらすパートナーへと進化しています。
算数の既習事項を復習する学習に取り組んでいたDさんは、解けない問題に突き当たり、ペンを止めました。Dさんは非常に真面目で、何より「ごまかし」を嫌う性格でした。私は、問題文を写真に撮ってAIに尋ねてみることを提案しました。AIは即座に、正確な解答を導き出しました。
「でも、これだと答えの丸写しですよね……」
Dさんは不満そうに呟きました。これでは自分の力にならないと、Dさんは感じ取っていたのです。
「じゃあ、『ヒントを出して』と指示してみようか」
修正指示を受け、生成AIはDさんの理解度に応じた「絶妙なヒント」を提示しました。それを手がかりに、自分の頭で考え、自力で正解にたどり着いたDさんの顔に、柔らかな笑みがこぼれました。
このDさんの姿には、学習方略における二つの重要な概念が隠されています。
①メタ認知:自分の「学び」を俯瞰する力
Dさんが「答えの丸写しでは自分の力にならない」と感じたこと。これこそが高度な「メタ認知」です。メタ認知とは、自分の認知プロセス(理解度や思考の状態)を客観的に捉える「もう一人の自分」の視点です。Dさんは、単に正解を得ることではなく、「自分の頭が動いているか」というプロセス自体をモニタリングできていたのです。 教員の役割は、こうした子どもの違和感を拾い上げ、「ヒントを出して」という具体的な調整(コントロール)の方法を教えることにあります。
➁生成効果:自力で生み出すことで記憶に刻む
Dさんが、AIのヒントを頼りに自力で正解を導き出したプロセスには、「生成効果(Generation Effect)」が働いています。 人間は、与えられた情報を受け取るだけよりも、断片的な手がかりから情報を自力で生成(アウトプット)した方が、記憶の定着率が劇的に高まることが知られています。 Dさんは、AIを「答えを教える道具」としてではなく、「生成効果を引き出すためのヒントメーカー」として活用しました。そのことで、この学習はDさんにとって、学習内容が自分の知識として定着する経験へと変わったのです。
イラスト3/ヒントをもとに解答を考える by高田保則 (生成AIを使用して作成) 【全クリを目指すDさん】(セルフモニタリング 資源管理方略 動機付け)
学習意欲を維持するための手立てや工夫を、「動機付け方略」と言います。子どもからよく耳にするのは、テストで百点を取ったらお小遣いがもらえるという外発的な報酬系の方略です。
しかし、これを続けていると報酬への慣れが生じ、効果が薄れていきます。意欲を維持するために、さらなる報酬を求めるという悪循環が生まれかねないのです。自己調整学習ができる子どもを育てるには、他者からの報酬はかえって邪魔になっていくのです。勉強する楽しさに気付き始めたDさんのエピソードを続けます。
卒業を控えた6年生のクラスでは、算数のまとめの授業が行われていました。子どもたちは、各自が教科書の巻末にある復習問題を解いていました。机の上には、黄色い厚紙で印刷されたシートが置かれていました。単元ごとの問題を全て解けたらシールを貼る仕組みです。「がんばりカード」的な取組は小学校の随所で見られます。行動分析学ではこれを「トークン・エコノミー法」と呼びます。
勉強することの面白さに気付き始めたDさんは、通級指導教室に算数の教科書と黄色いシートを持参しました。シートを見ると、あと三つで全ての項目がクリアできます。Dさんの学習意欲は相当に高まっている様子でした。私はDさんに、黄色いシートがやる気を引き出す理由を解説しました。「この黄色いシートは、先生が準備してくれたものだよね。でも、中学生になって家庭学習を進める時には、自分専用の『マイがんばり表』を作るという手があるよ」
そう言って、自室のカレンダーにシールを貼って自律的に学習を管理していた私の娘のエピソードを紹介しました。
「トークン・エコノミー法」は、子どもの意欲を引き出す強力な着火剤です。一方で、黄色いシートは、自分の学習の進捗を測る指標にもなっていました。私は、中学校に進学するDさんに、自己調整学習への鍵となる提案をしました。小学校で広く用いられる「がんばりカード(トークン・エコノミー)」という外的な動機付けの仕組みを、中学生以降の「自律的な学習者」へと繋げる橋渡しにしたかったのです。そして、このエピソードにも、いくつかの学習方略の要素が隠れています。
①「セルフ・モニタリング」によるメタ認知の強化
Dさんが黄色いシートを見て、「あと三つでクリアだ」と意欲を高めている状態は、学習方略における「セルフ・モニタリング(自己監視)」が機能している証拠です。 学習者が自分の進捗状況を客観的なデータ(シール)として視覚化することで、「自分はどこまで到達したか」「ゴールまであとどれくらいか」を正確に把握できます。この「自分の学びを俯瞰する力」こそが、メタ認知の核心です。
② 「資源管理方略」の自律的な構築
「マイがんばり表」や「カレンダーへの記録」などの手立ては、学習方略の中でも「資源管理方略」に分類されます。これは、時間や環境、教材、そして自分自身のやる気をどのようにマネジメントするかという戦略です。
私は、学級担任から与えられたシート(外部制御)を、自作のツール(内部制御)へと置き換える提案をしています。これは、依存的な学習から脱却し、自ら学習環境を整える「自律的学習者」への転換を促していると言えます。
③ 方略の「転移」と自己効力感
このエピソードで見逃せないのは、小学校の成功体験を中学校という新しい環境でも「自分を助ける武器」として使いこなせるように導いている点にあります。
Dさんは「シートがあるから頑張れた」という成功の要因を理解し始めています。そこに「自分でも作れる」という新たな選択肢を提示することで、「自分なら中学校でもやっていける」という自己効力感(セルフ・エフィカシー)を育んでいます。また、私の娘の具体例(カレンダーの活用)を提示したことは、認知心理学における「モデリング」として機能し、Dさんが新しい方略を具体的にイメージすることを助けています。
イラスト4/がんばりシートと学習意欲 by高田保則 (生成AIを使用して作成)
4.学習方略と自己調整学習
最近、「自己調整学習」に取り組んでいる先生方の実践報告や書籍を拝読する機会が増えました。目の前の子どもたちのために試行錯誤を重ねる姿には、同じ教育者として深く敬意を表します。一方で、その熱意ある実践に「学習方略」という科学的な根拠が加われば、より説得力と汎用性が増すのではないかとも感じています。
認知心理学の研究者が積み重ねてきた「確かなエビデンス」と、教育現場の実践家が培ってきた「豊かな経験知」。この二つが手を取り合ったとき、文部科学省が求める「個別最適な学び」は、理想論を超えた具体的な実践へと進化していく。私はそう確信しています。
研究者のエビデンス(科学的根拠)は、教員の「勘と経験」を否定するものではなく、むしろその価値を証明し、他者へ伝えるための共通言語になるのです。
〇参考文献
『まんがで知る学習方略―学び方を学ぶ』 前田康裕 著/さくら社
『認知心理学者が教える最適の学習法: ビジュアルガイドブック』
ヤナ ワインスタイン・メーガン スメラックほか 著/東京書籍
『使える! 予習と復習の勉強法 ――自主学習の心理学』
篠ケ谷圭太 著/筑摩書房

高田保則先生プロフィール
たかだ・やすのり。1964年北海道紋別市生まれ。オホーツク地域の公立小学校教諭。公認心理師。特別支援教育士。開設された通級指導教室の運営を任され、新たな指導スタイルを模索している。趣味はバンド演奏。


