【連載】令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ ♯17 学校に「行き渋る」子と、その保護者への関わり方

近年の子どもたちと昭和型学校システムとのミスマッチを要因とした令和型不登校への対応を、三角形を組み合わせた模式図を用いて解説、提案する好評連載、今回は、学校への「行き渋り」への対応について提案します。
執筆&イラスト/千葉孝司(元・北海道公立中学校教諭)
目次
今回の相談事例
小学4年生担任からの相談(架空事例)です。
クラスの児童について相談させてください。毎朝の行き渋りがひどくて保護者が疲れ果てています。
毎朝、時間になると「あれが嫌だ」「これが嫌だ」と騒ぐそうです。無理矢理にでも連れてくると、諦めて騒ぐことはなくなります。学校では、いわゆる「いい子」で、友人と楽しそうに過ごしています。
保護者はその子に「あれが嫌だ」「これが嫌だ」と言われるのが苦痛なので、私にいろいろと要求してきます。このような保護者と、今後、どう接していけばよいのでしょうか。(30代男性)
「安心」と「酸素」
朝の慌ただしい時間帯に、子どもが「あれが嫌だ」「これが嫌だ」と学校へ行き渋ると、保護者にとっては大きな負担になります。気持ちに余裕がなくなり、つい強い口調になってしまうこともあります。
しかし、強く言えば言うほど子どもの抵抗が強くなるという悪循環に陥りがちです。そんなとき、どのような関わり方ができるでしょう。
行き渋る子どもの心の奥には、多くの場合「不安」が潜んでいます。その不安を理解するために、安心を“酸素”にたとえて考えてみると、子どもの気持ちがぐっと見えやすくなります。
家庭は、子どもにとって酸素がたっぷりある場所です。自分を受け止めてくれる人がいて、安心して呼吸ができる空間。そこでは深く息を吸い込み、心を満たすことができます。
一方で、学校は子どもにとって“海の中”のような場所。酸素が自然には得られず、常に緊張や気遣いが必要な環境です。友達との関わり、先生とのやりとり、決められたルールや活動……子どもにとっては、意識して泳ぎ続けなければ溺れてしまう世界でもあります。文字通り息苦しい場所です。
だからこそ、学校という海中に潜るためには、家庭でたっぷりと酸素を吸い込んでおく必要があります。安心が十分に満たされていないと、海に入った途端に息が切れてしまい、「行きたくない」という気持ちが強くなるのです。
また、肺活量に個人差があるように、深く潜れる子もいれば、少しの不安で苦しくなってしまう子もいます。どちらが良い悪いではなく、その子の特性として受け止めることが大切です。
海の中に洞窟があるとします。たくさん息を吸った人でも、「その洞窟がどこへ続いているのか」「どれほどの長さなのか」が分からなければ、途中で息が切れてしまうかも、という不安から、なかなか中へ入っていけません。先が見えない場所に踏み出すことは、大人にとっても勇気が必要です。子どもにとってはなおさらでしょう。
ただし、もし海の中に酸素ボンベがあれば、息が続かなくても潜り続けることができます。これは、学校の中に安心できる場所や信頼できる人がいることにあたります。苦しくなったときに頼れる存在があるだけで、子どもは安心して前に進めるようになります。
さらに、海中の洞窟であっても、その構造をよく知っていれば恐れずに入っていけます。これは、子どもが学校生活に見通しを持てる状態に近いものです。「今日は何をするのか」「どんな流れで過ごすのか」が分かるだけで、不安は大きく減っていきます。
行き渋りのある子どもにとって大切なのは、家で十分にリラックスして心の酸素を満たすこと、そして学校にも安心できる場所や関係があることです。そこに見通しの持てる生活が加われば、子どもは少しずつ海の中へ、そして洞窟の先へと進む力を取り戻していきます。
朝だけの問題として捉えず、トライアングルで考える
行き渋りを“その日の朝だけの問題”として解決しようとすると、とても難しいものです。子どもの気持ちは、朝起きた瞬間に突然生まれるわけではなく、前日の夜の状態や、帰宅してからの出来事・気持ちの余韻が積み重なって形作られています。
子どもが安心を十分に蓄えることができる夜を過ごせているか、帰宅後に気持ちを落ち着ける時間があるか、学校での出来事をゆっくり話せる余裕があるか……。こうした安心や余裕の積み重ねが、翌朝の「行けそう」という気持ちにつながっていきます。行き渋りへの対応は、朝の一瞬だけで完結するものではなく、日々の生活全体を通して子どもの心を整えていくプロセスなのです。
だからこそ、行き渋りは一日の中で切り離して考えるのではなく、前日から続く生活の流れの中で捉えることが大切です。夜の安心した時間、帰宅後のリラックスしたひととき、家族とのやりとり――それらすべてが翌朝の心の状態に影響します。
保護者に伝えたい関わり方のヒント① ― 前日の関わり方
前日の関わり方は、翌朝の行き渋りを和らげるための大切な土台になります。夜の時間は気持ちが落ち着きやすく、子どもの本音が出やすい時間でもあります。
まずは、「明日、楽しみなことはあるかい?」と声をかけてみるとよいでしょう。「ある」と答えたときは、その楽しみを一緒にふくらませることで、翌日に向けた前向きな気持ちを育てることができます。小さな楽しみでも、共有することで子どもの心に安心と期待が生まれます。
一方で、「ない」と答えて不安や不満を口にした場合は、まさにその気持ちを解消するチャンスです。否定したり励ましすぎたりせず、まずは「そう感じているんだね」と受け止めることが大切です。夜の不安は翌朝に持ち越されやすいため、この段階で少しでも安心を補っておくことが、翌日の行動につながります。
さらに、「もし明日の朝、行きたくないって言ったら、どうしてほしい?」と事前に確認しておくことも有効です。子ども自身が望む対応をあらかじめ共有しておくことで、朝の時間の混乱を減らし、子どもにとっても見通しが持てる状態になります。
前日の夜に心を整えることは、翌朝の一歩を軽くするための大切な準備です。子どもの気持ちに寄り添いながら、安心を少しずつ積み重ねていきたいものです。
保護者に伝えたい関わり方のヒント② ― 朝の関わり
朝の時間に子どもが「嫌だ。行きたくない」と口にしたとき、登校を無理強いしてしまうと、抵抗感をさらに強めてしまうことがあります。そんなときに有効なのが、いくつかの選択肢を示し、子ども自身に決めてもらう関わり方です。
例えば、別室で1時間だけ過ごしてから教室に行く、給食の時間から登校する、今日は無理をせず明日に向けて心の準備を整える、といった選択肢を提示します。どれを選ぶかを子どもに委ねることで、「自分で決めることができた」という感覚が生まれ、気持ちの負担が軽くなります。
保護者に伝えたい関わり方のヒント③ ― 帰宅時の関わり
帰宅したときの関わり方は、行き渋りのある子どもにとって、とても重要な意味をもちます。
ところが、「学校に行けて当然だ」と考えていると、帰宅時に対話をせずに終わってしまったり、「行けて良かったね」などと一言だけで済ませてしまったりすることがあります。
しかし、それでは子どもがその日の頑張りを十分に実感できないままになってしまいます。
本当に大切なのは、子どもが「心配していたけれど、思ったより大丈夫だった」「なんとかできた」という達成感をしっかり味わえるようにすることです。
例えば、「今日はどうだった?」「どんなことができたの?」と、子どもが自分の力で乗り越えた部分に目を向けられる声かけをしていくと、安心感と自信が積み重なっていきます。
また、大人のペースで声かけをするのではなく、子どものリラックスを優先しながら声をかけることも必要です。行き渋りのある子どもにとって、帰宅後の時間は“心の酸素を補給する時間”です。その日の小さな成功を一緒に振り返り、頑張った自分を認められるように支えることで、翌日への一歩が軽くなっていきます。
保護者に伝えたい関わり方のヒント④ ― 登校できた日の夜の関わり
朝、目が覚めたときに、前日の夜に感じていた不安や緊張がそのまま続いてしまっている場合があります。だからこそ、眠りにつく前の時間をどのように過ごすかはとても大切です。子どもが安心して一日を終え、気持ちよく眠りにつけるように、夜の関わりを丁寧に行うことが、翌朝の行き渋りを防ぐことにつながります。
子どもが不安感を抱えている様子があれば、これまでに「できたこと」や「乗り越えてきたこと」を一緒に振り返り、自信を取り戻せるように寄り添います。成功体験を思い出すことで、「明日も大丈夫」という前向きな気持ちを育てることができます。
また、心身ともにリラックスできる環境づくりも重要です。穏やかな声かけやスキンシップ、落ち着いた雰囲気づくりなど、子どもが安心感を得られる関わりを意識します。眠る前に気持ちが整うことで、翌朝の不安が軽減され、スムーズに一日を始めやすくなります。
ただし、保護者自身の酸素が不足していると、子どもに酸素を供給することができません。相談事例のように不安を抱えている保護者に対しては、以下のように関わってみてはいかがでしょうか。
保護者との対話例
担任 最近、朝の行き渋りが続いていると聞いて、少し心配していました。おうちではどんな様子ですか?
保護者 朝になると不安が強くなるみたいで……。私もどう声をかけたらいいのか分からなくて、つい焦ってしまいます。
担任 毎朝その状況に向き合うのは、本当に大変だったと思います。
保護者 そうなんですよ。朝からぐったりしてしまいます…。
担任 じつは、行き渋りの子どもは、“安心という酸素”が不足している状態なんです。
保護者 安心という酸素……ですか?
担任 酸素が不足すると、学校という海の中に潜ることが難しくなるんです。
保護者 どうすればいいんですか?
担任 不安を解消したり、身体をリラックスさせたりする必要がある、ということです。あと、大人自身が酸素不足だと、子どもに酸素を供給できなくなります。
保護者 確かに、そうですね…。
担任 行き渋った朝の関わりだけでどうにかするのは無理なので、日常的に自信を育てる必要があります。自信は“持ち歩ける酸素ボンベ”のようなものです。「前にもできた」「あのとき頑張れた」という記憶は、子どもが不安になったとき、自分で吸える酸素になります。
保護者 確かに、できたことを思い出すと少し安心できるかもしれませんね。
担任 そうなんです。小さなことでも「できたね」と一緒に振り返ることで、酸素ボンベがどんどん満たされていきます。学校でも、安心できる場所や関係ができるように工夫しますね。それが“酸素供給所”の役割を果たします。
保護者 そんな場所があるといいですね。
担任 はい。担任の傍や保健室、支援員さんの傍など、子どもが「ここなら安心できる」と思える場所があると、学校でも酸素を補給しながら過ごせます。不安感が強い日は、まずそうした安全基地に立ち寄るだけで気持ちが落ち着くことがあります。朝、登校を渋るときには、そういう場所に行くことも提案してあげてください。
保護者 はい。
担任 そしてもう一つ大事なのは、我々、大人自身が酸素不足にならないことです。大人が不安な気持ちでいると、子どもに酸素を分けてあげる余裕がなくなります。
保護者 確かに、私がいっぱいいっぱいだと、子どもを受け止める余裕がなくなってしまいます…。
担任 行き渋りを経験するお子さんはたくさんいます。毎日欠かさず登校させなければという考えから離れることも大切です。少し休みながら登校しているうちに徐々に安定して、毎日登校できるようになる子もいますよ。
保護者 そうなんですね。
担任 下の図のような3ステップを参考にしながら、ゆったりと関わっていきませんか?

保護者 ありがとうございます。助かります。でも、子どもが朝、行かないことを選んだ場合は、行かせなくてもいいんですか?
担任 行くか・行かないか、という二択を迫るのではなく、その中間の選択肢を用意しておくことも大切です。いくつかの段階を示して、その中から本人が選べるようにすると、子どもは自分のペースで前に進みやすくなります。
保護者 無理にでも行かせた方がいいのではありませんか?
担任 無理矢理連れてこられて10日通うより、子どもが自分の気持ちで「行ってきまあす!」と元気に登校できる一日の方が、ずっと大きな意味があります。強制されて行く場合、登校できる日数はだんだん減っていきますが、自分で「行こう」と決めて登校する場合、登校できたことが自信になって、その後少しずつ行ける日が増えていく場合が多いですよ。
保護者 そうですか。もし毎日「行かない」って言ったら、どうしたらいいでしょうか?
担任 子どもだって、ずっと学校に行けないままでいたいわけではありません。まずは、週に何回なら挑戦できそうか、本人に確認してみるといいと思います。もし「もうずっと行かない」と言うようであれば、何か大きな不安や問題を抱えている可能性があります。そのときは、ぜひ教えてください。話し合いながら、◯◯さんに合った方法を一緒に考えていきます。
保護者 分かりました。よろしくお願いします!
イラスト/千葉孝司
※この連載は、原則として月に1回の更新予定です。
<千葉孝司 プロフィール>
ちば・こうじ。1970年北海道生まれ。元・公立中学校教諭。ピンクシャツデーとかち発起人代表。いじめ防止や不登校対応に関する啓発活動に取り組み、カナダ発のいじめ防止運動ピンクシャツデーの普及にも努める。著書に「いじめと戦う!プロの対応術」(小学館)、「令和型不登校対応マップ」「WHYとHOWでよくわかる!いじめ 困ったときの指導法」「WHYとHOWでよくわかる!不登校 困ったときの対応術」(いずれも明治図書出版)等がある。
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