それ、医療の話ではありません――“狭義のトランスジェンダー”は学校の日常にある【教室から始める性教育~“いのち”と“多様性”を育てる授業】#7
小学校や中学校で性教育の指導に長年携わったスペシャリストである、帝京平成大学教授・郡吉範先生による連載「教室から始める性教育~“いのち”と“多様性”を育てる授業」の第7回です。この連載では、安心して実践できる基礎的・基本的なことがらやすぐに使えるヒント、ちょっと背中を押す言葉などをお届けします。第7回のテーマは「それ、医療の話ではありません――“狭義のトランスジェンダー”は学校の日常にある」“狭義のトランスジェンダー”というのは何なのでしょう。学校現場の日常に見られるいろいろな“当たり前”を見直していこうという話です。具体例は、郡先生の経験や現場での実践に基づくものですので、現場でのヒントにしてください。
執筆/帝京平成大学人文社会学部教授・郡 吉範

目次
狭義のトランスジェンダーは学校教育の中の課題
前回は、LGBTのTについて触れました。これはトランスジェンダーと呼ばれ、「トランス・セクシュアル」と「狭義のトランスジェンダー」に大別されることをお伝えしました。「トランス・セクシュアル」=“体”への違和感が強いタイプと、「狭義のトランスジェンダー」=“社会的な期待”への違和感を抱くタイプがあるとお話ししました。
今回は、トランスジェンダーについて、もう少し深めたいと思います。特に2つ目の「狭義のトランスジェンダー」についてです。「1つ目の“トランス・セクシュアル”は医療が関係する話だから、学校とはちょっと距離があるかな……」と感じた方もいるかもしれません。
「トランス・セクシュアル」の方の中には、ホルモン治療や手術など、医療的なサポートを求める人もいます。その部分は、もちろん専門の医療機関が担うべき領域です。
でも2つ目の「狭義のトランスジェンダー」は、学校教育の“ど真ん中”にある課題なのです。このことをもう少し具体的に考えたいと思います。
社会の“ミニチュア”である学校だからこそ
「狭義のトランスジェンダー」の問題は、 “社会の中で求められる性別らしさ”に対する違和感が根っこにあります。つまり、子供たちが最初に出合う“社会”――そう、学校という“ミニ社会”こそが、その違和感と向き合う場になるのです。言い換えれば、先生たちこそが、この課題の最前線に立っているということなのです。
では、何から始めればいい? 「うーん……そう言われても、実際には何をすればいいの?」と思った方、大丈夫です。いきなり大きなことを行う必要はありません。まずは“不要な男女分け”を見直してみることからでOKです。
しかも、これって実は、小学校ではすでに自然にできていることも多いのです。 中学校・高校でもできることがたくさんありますよ!

ジェンダーの視点から考える日常の工夫
学校あるあるを、ちょっと見直してみませんか?
「ジェンダー平等の視点」と聞くと、何か特別な取組をしないといけないように感じてしまうかもしれません。ですが、実は私たちの身の回りにある“当たり前”を少し見直すだけでも、大きな一歩になります。
まずは、よくある「学校あるある」から。「これ、どこの学校にもあるよね」と感じる場面を、いくつか挙げてみます。
■ こんな場面、思い当たりませんか?(中学校を中心に)
・下駄箱やロッカー → 男女で分けずに、名前順でよくない?
・集合写真の並び方 → 毎回男女で分ける必要、ある?
・朝礼や整列 → 「男子右側へ、女子左側へ」って本当に必要?
・運動会・合唱祭の座席順 → 性別で分けなくてもいいよね?
・委員会名簿の順番 → 男子が上、女子が下? 五十音順のほうが自然では?
・宿泊行事の整列や食事の座席 → 部屋班ではなくて昼間の男女の行動班のままでいいよね。
・行事の代表選出 → 「男女ペアで」は本当に必要?
・体育の整列 → 男女別よりも、身長順や自由整列でもOK。
・卒業式や入学式の呼名 → 「〇〇くん・〇〇さん」より、全員「〇〇さん」で統一したほうがすっきり。
・水着やラッシュガードの選択 → 男子も上半身を隠せるラッシュガードを購入しやすくする工夫。
■ 生徒にかかわる“指導の一言”、見直してみませんか?
・体育の更衣指導での声かけ →「男子は早く着替えて!」「女子はちゃんと見えないようにね」 → 無意識に性別での“違い”を強調してしまっていないか? → 着替えがつらい子、性別に違和感がある子には、毎時間が苦痛です。
・性に関する相談対応のすれ違い → 男子が性の悩みを抱えていても「そんなの男なら当たり前」と軽く流していない? → 逆に女子にだけデリケートな配慮をする、という偏りがあるかも。
・「男女ペア」の割り当てやグループ活動 → 「男と女で組んで」って、何気なく言っていない? → 生徒によっては、誰と組めば安心できるのかに悩んでいることも。
・「男子だから元気に」「女子は丁寧にね」などの言葉がけ → ちょっとした一言が、自己肯定感を下げてしまうケースもあります。 → 「らしさ」より「その子らしさ」に目を向けたい。
こうした“男女で分ける”仕組みや声かけを、あらためて問い直してみること。それだけでも、子供たちにとっての「違和感」を少しずつ減らしていけるかもしれません。
もちろん、指導のねらいによっては、男女別の必要性がある場面もあるかもしれません。ただ、本当にその「男女別」が必要なのか――それを今一度、問い直してみる時期に来ているのではないでしょうか。
