不登校の子の多様な学びを、教育課程でどう保障するのか~Unlock Learningのススメ
不登校の子どもたちの学びを学校の教育課程の中でどのように位置づけ、どう保障し、どう評価するのか。現場には、いまだ明確な答えが示されていないのが現状です。
本記事では、学校の「当たり前」を見直し、学びのあり方を変え、広げていくことをUnlock Learningと名付け、養護教諭と現場の先生がタッグを組んで独自の形で不登校の子どもたちを支援している東京学芸大学附属小金井小学校における実践例を紹介します。

目次
不登校の子どもの学びがメタバースで再始動
2025年11月下旬に、「ICTに学びを救われる子はあなたのそばにいる 東京学芸大学附属小金井小学校 ICT×インクルーシブ教育セミナー vol.8」というイベントが品川で行われました。そのイベントの中で行われた発表の内容をご紹介します。
佐藤牧子先生(東京学芸大学附属小金井小学校養護教諭) は、メタバース「つながり広場」を使いながら、1年間学校を欠席している6年生のAさんとコミュニケーションを重ね、学びを深めています。
つながり広場 令和7年文部科学省「特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業」の一環として、東京学芸大学がオーダーし株式会社クラスター社が開発したメタバース空間。「学校らしくないけれど、学びにもアクセスできる」という空間デザインにこだわっている。


学校として医師の診察に同行する
佐藤 Aさんについては、保護者の同意のもと、学校として医師の診察に同行し、学校での関わり方について助言を受けていました。医師からは「学校側からの働きかけは最少限にし、本人のペースを尊重してほしい」との見解だったので、最初は声をかけること自体を控えテキストチャットだけでつながりました。いきなり顔を合わせて話すのは難しい。でも、文字なら大丈夫。メタバースは、コミュニケーションの選択肢を自然につくってくれました。

これ、一見仲が悪そうに見えるかもしれないんですけど、そうではないんです。
初回で、お互いに操作に慣れていなくて、「顔を見合わせて座る」というスキルを、まだ身につけていなかったんですね。
佐藤 2回、3回と回を重ねるうちに、「今日はテーマを決めてみよう」と提案しました。
例えば、「田舎のおばあちゃんちに行くときの服装」。最初は、「目立たない格好がいい」と言っていた子が、次第に色や小物を選び始めました。ハロウィンが近いある日には、仮装にも挑戦しました。
担任があえてメタバースに入らない理由
佐藤 今(佐藤先生の発表が行われた2025年11月現在)、担任の先生は、まだこのメタバースには入っていません。それは、この場を「評価される場所」にしたくなかったからです。担任の先生って、やっぱり子どもにとっては特別なんです。
教室に行かないお子さんたちは、自分が「友達と同じように授業ができていない」ということに後ろめたさや自信のなさを持っていて、「できていない自分」をどうしても意識してしまう。だからこそ今は、評価や比較から距離を置き、安心していられる関係を優先するために、あえて担任とのコンタクトはとっていません。
Aさんは、「この限られた関係だからこそ、そのままの姿を見せても大丈夫」という感覚でいられるのだと思います。まずはそこで安心して過ごすことを大事にしています。この関係を土台にしながら、少しずつ担任との距離も縮めていけたらと思っています。
子どもが一番認められたいのは、担任の先生です。
卒業までに、「担任が入っても大丈夫」と思えるところまでいけたらいいな、と思っています。
カリキュラムへの明確な位置づけによる、柔軟な学びの実現
佐藤 この活動で、最も困ったのは教科学習の位置づけです。この活動を教育課程のどこに置けばいいのかは、正直、ずっと悩んできました。最初は特別活動のような位置づけで始め、次にキャリア教育の内容で総合的 な学習の時間として整理し、現在は英語の要素を軸にしています。活動の実態に合わせて位置づけを変えてきた、というのが実情です。
ただ、そのたびに立ち止まるのが、「この時間は、どの教科なのか」という問いでした。子どもにとっては、安心して人とつながり、興味のある話題を深めていく大切な学びの時間ですが、一方で学校という制度の中では、「教育課程上、どう説明できるのか」が常に問われます。その整理を担う現場の負担は、決して小さくありません。
特に悩ましかったのは、活動の価値がはっきりしているのに、それを教科や学年、指導要領の文脈に落とし込もうとすると、急に言葉が足りなくなることでした。「この活動で、教科の何を学んでいるのか」「どの力が育っているのか」を、書類で説明しなければならない。教育課程と一致させる作業を日常的に行うには時間とエネルギーが取られ、この負担もなんとかしなければならないと感じました。
多様な学びを教育課程に位置づけるには、柔軟な発想が鍵となります
佐藤 東京学芸大学教職大学院の堀田龍也教授が、校務支援システムなどを活用した時数管理例や学習指導要領コードを介した教材や評価データとの連携の可能性を提案されているので、いつ実装されるのか気になるところです。それでも待てずに、教育課程の位置付け、置き換えについて「負担少なく、パッとできる」方法がないかを鈴木秀樹先生(東京学芸大学附属小金井小学校教諭)に相談したところ、「何とか形にできるよう検証してみます」とのお返事を頂きました。「佐藤、無茶ぶり!」と、思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私が待てないのには理由があります。
教室の一斉授業に参加できない(すべての)子どもたちに、「教室でみんなと同じようにできない自分が問題」または「学校は自分を認めてくれない」という思いをしてほしくないのです。
多様な学びが全国の学校で保障されるために
ここからは鈴木秀樹先生が話を引き取り、「現場の負担が少なく、すぐに回せる方法」をどう形にしようとしているのか、生成AIを活用したシステム例の紹介がありました。
AIに入力する項目は、そう多くありません。まず、学年と、その活動のねらい、指導内容・活動をざっと入力します。それだけです。
鈴木 するとAIのほうから、「その活動では、表やグラフに整理しましたか」「測ったり、比べたりする場面はありましたか」といった質問が返ってきます。それに答えると、AIがさらに深堀りする質問をしてくるので、それに答えていく。そのやりとりを何回か繰り返します。
「このくらいでいいかな」と感じたところで「判定を表示」というボタンをクリックすると、「この学年であれば、この教科の、この内容として位置づけられます」という案が出てきます。
もちろん学習指導要領が変われば作り直す必要はありますが、こうしたシステムを作ることは可能だな、ということは見えてきました。
学習指導要領との整合性を確認する対話型AIアシスト

鈴木 AIを活用することで、全国の学校でも、過度な負担なく不登校の子の多様な学びや活動を教育課程の中に位置づけられる可能性があると感じています。
