表組みの次期学習指導要領は、各教科等の幹と枝葉がよく分かる構造【次期学習指導要領「改訂への道」#29】

前回の特別版でご説明した通り、次期学習指導要領の基本的な方向性は、中央教育審議会の教育課程企画特別部会「論点整理」としてまとめられ、方向性の具体については総則・評価特別部会で、各教科等の具体については各ワーキンググループで、それぞれ議論が進められています。そこでこの連載では今後、総則・評価特別部会での議論を中心にしながら、同時に進められている各教科等のワーキンググループの議論についても必要に応じて紹介をしていきます。
まず今回は、教育方法学の専門家であり、第2回の総則・評価特別部会でも「目標・内容の構造化・表形式化等について」というテーマで発表を行った、同部会の石井英真副主査(京都大学准教授)に、論点整理で示された次期学習指導要領の重点化、表形式化の意味やその背景となる考え方などを中心にお話を伺います。
目次
学習指導要領の解説にある、内容を縦系列で整理した系統表を見て、授業づくり
今回、論点整理で示された表組みの学習指導要領は、各教科等の幹と枝葉が分かりやすい構造になっていることが特徴です。現行学習指導要領は、内容のまとまりごとに3つの資質・能力(主に「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」の2つ)が明示される一方、内容の幹の部分は何なのかが見えづらくなっています。「この内容に即してこんな思考を育てる」という資質・能力は分かるけれども、縦系列で(教科の同領域で学年を超えて)一貫して大事な部分が見えづらいのです。
そのため、実際に教科書をうまく使いこなし、よい授業をされている先生は、学習指導要領の解説にある、内容を(学年を超えて)縦系列で整理した系統表などを見て授業づくりをされていました。例えば、「ごんぎつね」なら「ごんぎつね」をなぜ小学校4年生で学習するのか、系統表を見ることで「ああ、だから中学年のこの時期に学習するのか」ということが分かるし、それを基に単元・授業づくりをしていたわけです。
そのように資質・能力は明確に示されているものの、内容の系統性やポイントが分かりづらいという課題が、現行の学習指導要領にはありました。その点をより分かりやすくするため、論点整理のように学年を超え、一貫して大事な部分とその質的な深まりが見えるように表組みにしているのです。
また、「思考力、判断力、表現力等」の面では、現行学習指導要領でも、多面的・多角的に考えるなど、知識・技能等を総合的に使いこなすプロセスが重視されてきました。しかし、現在の学校で先生方が意識している内容面は例えば社会科の明治維新なら、年号や学制発布、文明開化といった個別のトピックが中心です。そのため、多面的・多角的に考えることとはミスマッチが生じています。
年号はただ覚えるものですし、文明開化なら少しは多角的に考えることはできるかもしれないけれど、もっと大きな「明治維新とは何か?」とか「日本の近代化とは何か?」といった内容や問いであれば、多面的・多角的に考えることの必然性が生じます。そういったよりメタで一般的な内容や問いを意識して授業をされている先生と、そうでない先生の授業には大きな違いが出てきます。当然、(そうしたことを考えて学習活動をつくることが難しい)若い先生はどうしても活動ベースになってしまいます。
「主体的・対話的で深い学び」のような改革のキーワードも意識する形で、教科書には活動のプロセスが入りました。しかしその分、その活動を通して何を学ぶのかということがはっきりしなくなってしまったのです。そのため、内容面とプロセスの齟齬が生じてしまいました。
つまり現行学習指導要領の弱点は、資質・能力や「どう学ぶか」は明確になったものの、「何を学ぶか」という内容がきちんと整理されていないというところです。ちなみに整理するというのは、今ある内容を機械的に精選すればよいということではありません。深め甲斐があるような幹となる大きな内容、つまり中核的な概念を軸に、内容全体を重点化、構造化していくことです(資料参照)。
資料


