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“ジェンダー”って、聞いたことあるけど、何だっけ?【教室から始める性教育~“いのち”と“多様性”を育てる授業】#5

連載
教室から始める性教育~“いのち”と“多様性”を育てる授業
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小学校や中学校で性教育の指導に長年携わったスペシャリストである、帝京平成大学教授・郡吉範先生による連載「教室から始める性教育~“いのち”と“多様性”を育てる授業」の第5回目です。この連載では、安心して実践できる基礎的・基本的なことがらやすぐに使えるヒント、ちょっと背中を押す言葉などをお届けします。第5回のテーマは「“ジェンダー”って、聞いたことあるけど、何だっけ?」。分かっているようで曖昧なイメージのジェンダーについてどういうことなのかを紹介します。具体例は、郡先生の経験や現場での実践に基づくものですので、現場でのヒントにしてください。

執筆/帝京平成大学人文社会学部教授・郡 吉範

どこが問題か分かるかな?

ここから、性の多様性に関する言葉や概念について整理していきたいと思いますが、その前にちょっと考えてみてください。以下のような言葉を、どこかで耳にしたことはありませんか?

・「レズビアンって、心は男ってこと?」
・「レズビアンなら、いずれは性別を変えたいと思っているの?」
・「ゲイの人って、全員オシャレで美容に詳しいんでしょ?」
・「ゲイの人って、男女どっちの気持ちも分かるから恋愛の達人なんでしょ?」
・「トランスジェンダーの人は、手術すればすぐに幸せになれるんだよね?」

さて、これらの言葉のどこが問題か分かりますか?

「えっ、そんなに変なこと言っている?」と思うかもしれませんが、実はこの中には誤解や思い込みがたくさん詰まっています。

こういった言葉は、悪意がないからこそ意外と広まってしまい、結果的に当事者の人たちを傷付けたり、間違ったイメージを定着させてしまったりすることがあります。こうした“ふとした一言”が無自覚な偏見や差別につながることがあり、それを「マイクロアグレッション」と呼ぶこともあります。

でも大丈夫。これから1つずつ解きほぐしていきますので、読み終わる頃には「なるほど、そういうことだったのか!」とスッキリできるはずです。では、早速始めましょう!

ジェンダーイメージイラスト

「ジェンダー」って、ちゃんと理解していますか?

性のことを考えるときに、最初に出てくるのがこの言葉――「ジェンダー」。

最近ではテレビや新聞、SNSでもよく見かけるようになりましたが、「聞いたことはあるけど、正直、意味はよく分からない……」という声も、実は少なくありません。なので、すでに知っているという方も、ここで改めてしっかり整理しておきましょう。

「性別」には、まず“身体の性”があります

まず基本となるのが、「生物学的な性」です。これは赤ちゃんが生まれたときに、医師が身体の特徴を見て「男の子」「女の子」と判断するものですね。英語では “sex(セックス)” という言葉が使われます。……が、日本の学校教育ではこの単語、ちょっと気まずく感じてしまうことも多いですよね。そのため、学校では、「身体的な男女」とか「体の性」といった言い回しで表現しておきましょう。

「体の性」だけでは説明できない違いがある?

私たち人類は長い間、“身体の性別”(biological sex)――つまり「男の体」「女の体」という、生物学的な違いを前提に、社会制度や役割分担を構築してきました。家庭、教育、職業、服装、行動様式など、あらゆる場面で「体の性」が人の生き方を決定付ける基準とされていたのです。

しかし、1950年代以降、「体の性」だけでは説明しきれない現象が、心理学や社会学の分野で注目されるようになります。その中心となったのが、アメリカの心理学者ジョン・マネーによる性同一性研究です。彼は、「性別は身体だけで決まるものではなく、個人が社会的な経験を通して自分の性をどう認識するか(性自認=gender identity)も重要である」と提唱しました(※1)。

この研究以降、身体的な性(sex)と、社会的・文化的に形成される性別役割(gender)とを明確に区別する考え方が定着していきます。とくに1970年代以降のフェミニズム運動やジェンダー研究の発展により、「ジェンダー(gender)」という概念は広く社会に知られるようになりました(※2)。

例えば、

「男の子なんだから泣かないで」
「女の子はピンクが好きだよね」

といった言葉や態度。

これらは生物的な違いから来ているのではなく、“社会的につくられたイメージ”から生まれたものです。こうした「社会が期待する性別らしさ」を問い直す視点こそが、ジェンダー論の出発点となりました。

また、国際的にもこの考え方は広く受け入れられています。例えば、WHO(世界保健機関)も公式文書の中で、「ジェンダーとは社会的に構築された性別の役割、行動、活動、属性のことを指す」と定義しています(※3)。

「ジェンダー」は、カタカナのまま根付いた言葉

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