不安な保護者の心にひびくノンバーバルコミュニケーション<言葉以外で伝える技術>
保護者クレーム対応の実践スキル 危機を絆に変える技術⑩

今回は、言葉以外の手段で相手に信頼感と安心感を与える技術について詳しく解説していきます。姿勢、表情、声のトーン、視線の使い方など、ノンバーバルコミュニケーションを意識的に活用することで、クレーム対応の効果を劇的に向上させることができます。
執筆/一般社団法人日本未来教育研究機構 代表理事・熱海康太
目次
メラビアンの法則の正しい理解と活用
メラビアンの法則は、しばしば誤解されて引用されますが、これは言語的内容と非言語的内容に矛盾がある場合に、どの情報が採用されやすいかを示した研究結果です。つまり、言葉では「申し訳ございません」と言いながら、表情が無表情で声のトーンが冷たい場合、相手は言葉よりも表情や声のトーンの方を信じてしまうということです。
クレーム対応においては、この法則を逆手に取って活用することができます。言葉による謝罪や共感の表現と、表情、声のトーン、身振り手振りを一致させることで、相手により深い誠意を伝えることができるのです。
効果的な姿勢と身体の向きの技術
対面でのクレーム対応において、最初に相手が認識するのは姿勢と身体の向きです。相手に対して正面を向くことで、真剣に話を聞く姿勢を示すことができます。ただし、完全に正面を向いて対峙すると威圧感を与える可能性があるため、やや斜めに座ることで、親しみやすさと真剣さのバランスを取ることが重要です。
背筋を伸ばし、やや前傾姿勢を取ることで、相手の話に積極的に耳を傾けている印象を与えることができます。反対に、背もたれにもたれかかったり、腕を組んだりする姿勢は、相手に防御的で非協力的な印象を与えてしまいます。
表情管理の高度な技術
表情は、相手の感情に最も直接的に影響を与える要素の一つです。クレーム対応では、相手の感情状態に応じて適切な表情を使い分けることが求められます。基本的には、真剣さと親しみやすさを両立した表情を心がけますが、相手が深刻な悩みを抱えている場合は、より真剣で共感的な表情が適切です。
眉間にしわを寄せすぎると険しい印象を与えますが、全く表情の変化がないと冷淡な印象を与えてしまいます。相手の話の内容に応じて、適度に表情を変化させることで、話をしっかりと聞いていることを示すことができます。
特に重要なのは、相手が感情的になっているときの表情です。相手の怒りに反応して険しい表情になったり、困惑の表情を見せたりすると、状況をさらに悪化させる可能性があります。落ち着いた、受容的な表情を維持することで、相手の感情を鎮める効果が期待できます。
視線の使い方とアイコンタクト
適切な視線の使い方は、信頼関係構築の重要な要素です。相手の話を聞く際は、適度にアイコンタクトを取ることで、集中して聞いていることを示すことができます。ただし、じっと見つめ続けると相手にプレッシャーを与えてしまうため、時々視線を外すことも必要です。
視線を外す際も、相手から完全に顔を背けるのではなく、手元の資料を見たり、少し下を向いたりする程度にとどめます。横や後ろを向いてしまうと、話に興味がないという印象を与えてしまう可能性があります。
声のトーンとスピードの調整技術
声のトーンは、相手の感情に直接的に影響を与える重要な要素です。基本的には、普段よりもやや低めのトーンで、落ち着いて話すことを心がけます。高い声は興奮や緊張を伝えやすく、相手の感情を刺激してしまう可能性があります。
相手が感情的になっている場合は、意識的に声のトーンを下げることが効果的です。相手が大声で話していても、こちらは低く落ち着いた声で応答することで、相手も自然と声のレベルを下げる傾向があります。これは、人間の模倣本能を利用した技術で、電話対応でも同様に効果を発揮します。
バナーイラスト/futaba(イラストメーカーズ)

著者:熱海康太(あつみこうた)
一般社団法人日本未来教育研究機構 代表理事
大学卒業後、神奈川県内の公立学校、私立学校で教鞭を取る。
大手進学塾の教育研究所を経て、現職。
10冊以上の教育書を執筆し、全国10,000人以上の先生方に講演を行うなど、幅広く活動している。
