2学期のスタートアップに改めて考えてみませんか? 子どもが「納得する」ことの大切さ。
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- 大切なあなたへ花束を


さあ、2学期が始まりましたね。みなさんは、どんな夏休みを過ごしましたか?
私は1学期の終業式の校長講話では、子どもたちにいつも『つくろう 自分の夏休み』というテーマで「たった1回しかない〇年生の夏休みを自分らしくつくってね」と伝えていました。
教職員には、学校で働く者が夏休みをどう過ごすかは、必ず子どもに返っていくので、たくさんのことを経験してくださいね、と話していたのを思い出します。
長期の休みで、一度クラスのつながりがゆるやかになり、再び結束を強めようとするのが2学期のスタートアップだと思います。ぜひ、子ども同士のつながりを大事にしながら、学級づくりをしてほしいと思います。
【連載】大切なあなたへ花束を #21
執筆/みんなの学校マイスター・宮岡愛子
この夏、二つの出会い
私はこの夏、(木村)泰子さんが語った、次のような言葉の大切さを改めて感じさせてもらえる、二つの出会いを経験しました。
すべての子どもが一日の学びを終え、
子どもが納得して「さようなら」安心して「おはよう」
保護者も納得 安心 教員は働くことが楽しい
Episode 1
一つは、この4月から1年生を担任している、とある若手先生との出会いです。
1年生の担任って、とっても責任重大ですよね。初めて小学校に入った子どもたちと出会い、これから始まる学校生活が安心できて楽しいものであることを伝えるのですから。
それまで子どもたちは、幼稚園や子ども園、保育園など、バラバラな集団の中で育ってきました。
その子どもたちが一つの集団となり、これからの学校生活をスタートさせていくのです。
あそこの幼稚園の子どもたちは、お行儀がいいとか、それに比べて⋯⋯という話題が出ることはありませんか? 1年生になったのだから、きちんと座って話が聞けるようにしなければならない。45分間座ることが大事!と思っておられる先生もいらっしゃるでしょう。
でも、私が出会った1年生の若手先生は、子どもたちの思いを大切にしながら、安心できるように学級をつくることが最優先だと考えていました。そして、私にこんなエピソードを聞かせてくれました。
ある日のこと。いつものように、子どもたちを前にして本の読み聞かせをしようとしたところ、一人の子どもが大きなバスタオルを持ってきたそうです。
そして、「今日は、ここで寝転んで話を聞いてもいい?」と聞いてきました。
さあ、みなさんなら、ここでどう答えますか?
その先生は、もちろん「いいよ!」と答えたそうです。
その子はとても喜んで、バスタオルを床に広げました。とても大きなタオルだったので、その子は一人で寝転がるだけでなく、友だちにも場所を分けてあげて、まるでキャンプのように楽しそうにしています。
その様子を、たまたま通りかかった先輩の先生が目撃していました。隣のクラスの担任をしている、いわゆる主任クラスの先生です。
その先輩先生は、職員室に戻ってきた若手先生に対し「子どもが寝転んでお話を聞いているのはあかんやろ!」とたしなめてきたそうです。
私は、こう思います。この場面での目的は、先生のお話を聞き、お話の世界を楽しむことです。
三角すわりで座っている子どもが聞いていて、寝転んでいる子どもが聞いていない、ということがあるのでしょうか?
姿勢や形にこだわることはないし、ものごとの本質を捉えることの方が大切やで。
それに、バスタオルの子は、自分が考えて行動したことを先生に認めてもらえて、深く納得できたのだから。これからいろいろなことにチャレンジしてもいいのだという気持ちになったんやで。
と若手先生に伝えました。
そして、ものごとの本質を捉えていない問いかけに対しては、逆に疑問文で問い返したらいいで!と伝えました。「どうして、寝転んだらいけないのですか?」と。

Episode 2
もう一つの出会いは、大阪府堺市の子どもネットワーク会議で講演をすることになり、会を支える皆さんとお話ができたことでした。
堺市には、平成14年度から「つなげよう! みんなで子育ての輪」を合言葉に、未就学児童の子育ての輪を広げていくことを目指して結成された子育てネットワークがあります。
地域の子育てサロン(※1)や、みんなの子育て広場(※2)のみなさん、そして各小学校や子ども園、行政の担当者が集まって、未就学児を対象としたネットワークをつくっていくものです。
子どもが健やかにすくすくと育つように、みんなで連携し、みんなで見守り、子育てしやすい地域づくりを目指すということでした。
〈※1〉子育てサロン
自治体が運営する、0才児~3才児を対象にした遊び場。専門スタッフが常駐しており、保護者の相談に乗ったりしてくれます。
〈※2〉みんなの子育て広場
堺市に住んでいる、未就学児をもつ保護者が対象。空き店舗や地域の会館などで、同じ子育て仲間と集い、子育ての相談や地域の子育て情報などの交流ができます。
こうした支援が広がっているのは、昨今の社会情勢の変化で、子育て親子が社会から孤立しがちになり、支援が得られにくくなっているのが背景でしょう。経済が停滞し少子化が進む現在、子育て世帯の窮状はより深刻になってきています。
だからこそ、今までつながっている皆さんが、それぞれ自分にできることをアップデートしていこうよと、そんな気持ちを込めて私は皆さんとお話をしました。
皆さんと接していて、改めて思います。未就学児に関わる皆さんは、子どもを主語にして、子どもをありのままに受け入れようとしています。
そうです、これからの社会をつくる子どもたちに必要なことは、「自分で考えて、自分で決めることができる」ということです。失敗OK、どんどんチャレンジをさせていこう。子ども同士で時には摩擦や衝突を起こし、それを自分たちで考えて解決できるようにしていこう、ということです。
この意識は、保育に携わっていない他の大人たちとはなかなか共有できません。
保護者は、他の子育て家族や知見をもつ先輩などとのつながりをもつことが難しい場合が多いので、どうしても親子の一対一の関係になりがちで、子どもを自分の管理下・判断下で育てたくなってしまいがちです。
だから、サロンや広場に来た子どもたちと保護者の皆さんに、
「よく来たね。来てくれてうれしいよ」
と伝えてくれることが、今の時代にどれだけ必要なことか、と伝えました。
そして、願わくば就学前の段階で、一人でも多くの子どもが、保護者同士の納得の上で、お互いにけがのない範囲で、ぶつかり合って問題を解決する時間をもてるようにしていきたいものです。
また、せっかく未就学の間に、自分を主語にして受け入れてもらっていた子どもたちも、小学校に上がった途端、規律や規則で行動することを指示されてしまい、自分で考えることをやめてしまう恐れがあります。
先に例として出した主任の先生は、クラスがガタガタするのが嫌なのです。
だから、自分の意に沿わない子を落ち着かせようとT2に頼んだり、大学生のボランティアを教室に入れたりと、いろんな策を講じます。挙句の果てには、特別支援教室に入れたりもします。
子育てネットワークは、各小学校もメンバーになっているのです。ぜひ、各校の校長にも、意識のアップデートをお願いしたいと思います。
他人にジャッジされることに慣れてしまったら、自分で解決する力は育ちませんし、他人のせいにするような他責思考の人間に成長しかねません。
そして、子どもや保護者も「学校は、先生は何もしてくれない」という思いをもつことにもなりかねません。
何より恐ろしいのは、大人の見えないところで、こうした影響がいじめを生むことです。