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「横浜St☆dy Navi」とはどんな実践?【次期学習指導要領「改訂への道」#27】

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中教審レポートと関係者インタビューで綴る 次期学習指導要領「改訂への道」
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次期学習指導要領「改訂への道」
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第9回教育課程企画特別部会(以下、特別部会)では、本連載にもご登場いただいた山本朝彦委員(横浜国立大学教職大学院教授)が、昨年度まで在籍した横浜市教育委員会の「横浜St☆dy Navi(スタディナビ)」という教育ダッシュボードの実践を紹介されました。このシステムを使うことで、子供の理解や支援・指導さらには評価や保護者対応など、多様な側面から教育の質の向上を図れるとともに、教員の負担軽減にもつながるという委員の評価が多数聞かれました
そこで、今回からはこの「スタディナビ」の機能や可能性について紹介するとともに、同市教委がこのようなシステムを開発してきた意図などについて、同市教委の丹羽正昇学校教育部長に伺っていきます。

健康面や学力面、体力面などのデータを、集団状況から個の履歴まで見られる

まず、「横浜St☆dy Navi」(以下、「スタディナビ」)の主な機能について丹羽学校教育部長は次のように説明します。 

「『スタディナビ』には、教職員用と子供用(児童生徒用)があります(さらに教育委員会用もあり、教育データの分析・活用に生かされる)。 

子供たちは朝、登校したら子供用のトップ画面の中から(資料1参照)、健康観察をタップすることになっており、『今日の体調はどう?』というような質問が出ます。それに対して、5段階評価で体の状況や心の状況について答えるのです。 

【資料1】

資料1

そうすると、教職員用画面の健康観察や出欠情報として、ダッシュボード化されて出てきます。これは保護者からの情報提供システムともつながっていて、保護者から届いた情報も可視化されるようになっています。それを1回タップするとクラスごとの状況が出てきて、クラスをタップすると一人一人の状況が出てきて、さらに子供の名前をタップすると、その子供の過去1か月の体や心の状況や自由記述で書き込まれた、例えば悩みや困り事などを見ることができるのです 

休んでいる子供には連絡をするわけですが、登校している子供は直接、顔や様子を見て確認をします。そうして、体がすぐれないと言っているAさんや、心の不調を訴えているBさんの様子を確認することはもちろん、『Cさんは元気だと言っているけれども、表情がすぐれないぞ』と本人を目の前にしてデータと見比べながら、子供の健康状態を把握するのです」 

横浜市の「スタディナビ」は、このような心身の健康面だけでなく、学力面や体力面、体験学習、非認知能力など、多様な側面のデータを集団状況から、個やその個の履歴まで見ることができます(資料2参照)。加えて、同様のデータは子供たち自身も(もちろん自分自身のデータについてのみ)見られます。 

【資料2】

資料2

「スタディナビ」を組織の仕組みとしてサポートしているのがチーム担任制

では、なぜ、このようなシステムを整備したのでしょうか。丹羽学校教育部長は次のように話します。 

「『スタディナビ』は健康面でも、学習面でも、教師の経験や勘をエビデンスベースで補完するものなのです。実際の見た目を信じようということで、経験則を当てにしてしまうと、経験によって見とりに差が出てきてしまいます。そのため、他のクラスのデータも見られるようにして、『Dさんは具合が悪そうだったけど、大丈夫?』と、学年の中で子供を真ん中に置いた会話ができるようにしています。 

あるいは、学校によっては職員室の大型モニターに映して、職員室の教職員が担任をカバーしたり、養護教諭が保健室で見て、クラスへ見に行ったりと、1人の子供に対し、学年や立場を超えた複数の目で関われるようにしています。それが、『スタディナビ』の基本的な役割です(資料3参照)」 

【資料3】

資料3

ただし、システムだけを整備すればすべてがうまく機能するわけではない、と丹羽学校教育部長。 

「このシステムを組織の仕組みとしてサポートしているのが、特別部会でもご紹介をしたチーム担任制で、ローテーションして学級担任業務を分担したり、副担任制にして分担したりしています。これまでの実践研究を通し、ICTのシステムがあるだけではなく、学校運営の中にも新しい仕組みを入れていかないと十分に機能しないことが分かってきています。 

このようなチームによる学年経営を基盤としたチーム担任制は、昨年度試行実施をして、今年度は20校でモデル実施。来年度には全校展開できるよう、年度末までにはマニュアルなどの資料も配付を予定しており、各学校が実態に合ったチーム担任制を考えて導入することになると思いますし、これから本格化してきます(資料4参照)。チーム担任制とICTシステムとの相乗効果については、今後お示しできるでしょう。 

【資料4】

資料4
教育課程企画特別部会での発表資料より抜粋。

本市は、このチーム担任制も『スタディナビ』もどちらが欠けてもダメだと考えています。我々も当初は、システムを整備すれば、一気に活用が進むのではないか、と誤解していました。しかし、学校現場から『データを利活用する場面が想定されていないのではないか』という声もあり、それによって、学校運営の側面も見直すことになりました」 

ちなみに、そうした現場の声は、システムの機能改善にもつながっていると丹羽学校教育部長。 

「例えば、現在は市の学力・学習状況調査結果について、子供一人ひとりの学力の状況が散布図上でドットと数値で示されているのですが、学力を支える子供の状況をもっと詳しく分かるとよいという声を受け、一人ひとりのドットをクリックすると、その子供の学力の経年変化や学習意識や生活意識、非認知能力などについての情報も出てくるように開発を進めています」 

子供にとって価値あるシステムだと思ってもらえることを期待

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