「誰1人取り残さない授業」は生成AI活用で〜五所川原市立五所川原小学校・前多昌顕先生の実践
五所川原市立五所川原小学校の前多昌顕先生は、今さまざまな形で授業での生成AI活用を進めています。小学生が使うにはいろいろなハードルがある生成AIですが、前多先生は独自のプログラムを作って子供たちが直接使うことも可能にしました。その結果、子供たちが考える時間、話し合う時間が増え、さらに本当の意味で誰1人取り残さない授業の実現にも近づいているようです。
前多先生がどのように生成AIを授業で使っているのか、いろいろな活用方法を伺いました。

前多昌顕(まえた・まさあき)五所川原市立五所川原小学校教諭
青森県プログラミング教育研究会発起人・事務局長として、ICT教育の推進に尽力。マイクロソフト認定教育イノベーターフェローやGoogle for Educationトレーナー。教育現場でのデジタルツール活用に積極的に取り組み、著書も多数執筆。
目次
ようやく整ってきた「誰1人取り残さない」授業実現の環境
GIGAスクール構想スタートから5年。私は、GIGA端末フル活用授業をずっと続けてきました。例えば小学6年生は、年間約1000コマ、すなわちほとんどの授業で端末を開いて使っています。そして、Canva、カトカトーン、Lucidspark、ふきだしくん等々、さまざまなアプリを使ってきた結果、子供たちはどの活動にどのツールが最適なのか、自分たちで判断して使えるようになりました。
つまり子供たちにとっては、今や端末を使うことは、鉛筆や消しゴムなどを使うのと同じように、当たり前のことになっています。こういう授業を展開していると、GIGAスクール構想がめざす、端末の活用で「誰1人取り残さない授業」が実現したのでは? と言われることもあります。さて、本当にそうでしょうか。
よく考えてみると、実はできていないと思うのです。誰も置いていかないというのは、GIGAスクール構想以前から先生たちがめざしてきたことです。でも、いろいろな事情でどうしても取り残してしまう子供たちが出るのはやむを得ない、というのが現実だったと思います。
ところが、最近ようやく誰1人取り残さない授業を目指す環境が整ってきたと思うようになりました。それは生成AIを活用できるようになったからです。
生成AIが登場したとき、これはすごいと思いました。子供たちにもぜひ知ってもらいたくて、授業でいろいろ使って見せたところ、大きな反響がありました。子供たちが「前多昌顕」について調べてほしいと言うので、ChatGPTに聞いたら、前多昌顕は政治家だと言ったり、武将だと言ったり、いいかげんな答えが返ってきて、子供たちと大笑いしました。
でもこのように、生成AIは、頭はいいけれど、知らないことを知らないと言えず知ったかぶりをする、という認識を子供たちと最初に共有できたことは、その後の生成AI活用にとても役立ちました。生成AIを過信しないという土壌を作ったうえで、いろいろ使っていくことができたからです。
子供たちの思考を引き出し、議論の相手にもなる生成AI
授業で最初に生成AIを使ったのは、国語でオノマトペを学んだときです。子供たちがChatGPTはオノマトペを理解できるのか知りたいと言ったので、ChatGPTに作らせてみました。そこで出てきたのがこれです。

子供たちも私も、もっとしょぼいものしか出てこないと思っていたので、正直びっくりしました。子供たちが事前に作っていたオノマトペよりいいものもあって、微妙な雰囲気になり、子供たちはもう一度オノマトペ作りにトライすると言い出しました。その結果、たくさんのいいアイデアが出てきたのです。私は、このように子供たちの思考を引き出すきっかけを作る生成AIの活用を、「思考の呼び水的活用」と呼んでいます。
また、道徳の授業での生成AIの活用例を知って、私も使ってみることにしました。私は、対話して議論する道徳の授業というのがどうも苦手でなかなかできず、何とかしなくてはと思っていたところでした。そこで、子供たちへの「転校した友達から料金不足の絵葉書が届いて不足分を支払った後に、友達にそのことを伝えるか?」という問いを、生成AIにも投げかけてみました。
当初子供たちは、伝えない派が多かったのですが、AIに両方の立場と理由を生成させたところ、意見が見事に割れました。その後の議論では、反論するときも友だちにではなく、AIに反論する形になったので、子供たちは気兼ねなく、とても活発に発言するようになりました。後から子供たちに聞いたら、「生成 AIは反論しても人間関係が崩れない」と言っていました。
高学年になると、相手に気を遣って、仲のいい友だちに本音でぶつかるのは難しくなってきます。でも、生成AIにはおかしいと思ったことをはっきり言うことができたわけです。 そして、このやり方を続けていくうちに、生成AIを使わない授業でも、子供たちは批判的な思考で議論ができるようになりました。これは、生成AIの「思考のサンドバッグ的活用」です。生成AIを使って、子供たちは議論することのトレーニングができたのです。