【連載】令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ ♯9 不登校からのリハビリ、大切な3原則


近年の子どもたちと昭和型学校システムとのミスマッチを要因とした令和型不登校への対応を、三角形を組み合わせた模式図を用いて解説、提案する好評連載。今回も架空事例を基に、「明日は学校に行きます」という子どもの言葉の受け止め方と、具体的な「リハビリテーション・プラン」について提案します。
執筆/千葉孝司(元・北海道公立中学校教諭)
目次
はじめに
「明日は行きます」。不登校の子どもから、その言葉を聞くと担任は嬉しいものです。でも翌日、来なかったときの落胆もまた大きいものです。その言葉を約束という意味合いで受け止めると、その子が休んだときには怒りさえ湧いてくるかもしれません。
でも、そのやりとりは回復の過程では必要なものなのです。
今回の事例
担任の先生から寄せられた、「明日は行く」を繰り返している子どもについての相談事例(架空事例)を紹介します。
私は小学4年生の担任です。クラスの子どもの怠けぐせに困っています。もともと自分がやりたくない授業がある日は、休みがちでした。そのことを指摘、注意すると学校に来なくなりました。
家庭訪問をすると「明日は絶対に行きます」と、その場逃れの嘘をつきます。翌日はもちろん登校しません。次の家庭訪問でも、「明日は絶対行きます」と言うので、「前回も行くって言って来なかったよね」と指摘すると、次の日に保護者から「先生が怖くて行きたくないと言っている」というクレームが来ました。休んでいる理由がいつの間にか担任のせいになっています。納得いきません。
白黒はっきりさせたいという気もありますが、管理職からは止められています。私にできることはありますか。 (30代 男性 小学校教諭)
「明日は行く」に嘘はない
「明日は行く」という言葉を信じ、期待して待っていたのに……。こんなとき担任は裏切られた、嘘をつかれたと感じるかもしれません。そんなとき、つい強い言葉が口をつきます。
「昨日、行くって言ったよね?」
こう問い詰められた子どもは、「もう二度としない」と思うはずです。「二度としない」内容は、休むことではなく、学校に行きたいという希望を口にすることです。心の中では、下図のように「もう二度と行くなんて言うもんか」と思っているはずです。
嘘をつかれたと思う担任もいるかもしれません。でも子どもは本当にその瞬間、「明日は行こう」と思っているのです。そして「きっと行ける」「絶対行く」と思っています。もちろん「明日は行く」と言わないと担任が許してくれないから、説得の後の苦しまぎれに言う場合も無いわけではありません。
学校に来ることが出来るのに来なかったと思えば、腹も立つかもしれませんが、実際は登校したくてもできないのです。
学校に行こうと思っているのに行けないのは、身体の問題です。身体がすくんでいるのです。緊張で足が震えるのをコントロールできないのと同じように、学校に足が向かなくなることがあるのです。
そんなときに学校に行くことを目標にすべきではありません。それはハードルが高すぎます。
次の図のような声かけをしてはいかがでしょうか。
身体がすくんでいる子に必要なのは、いきなり登校を目指すことではありません。病気やけがにたとえるとリハビリテーションが必要であり、そのためには安心と前向きな気持ちを与える必要があります。
子どもが安心し、やる気になるには、大人が見方を変える必要があります。大切なのは最初に休んでいる状態をどう捉えるかです。
休んでいる状態を「わがまま」「怠け」と捉えてしまうと、不登校の状態は良くなりようがありません。教師が頑張れば頑張るほど悪循環に陥ります。
「わがまま」「怠け」だという捉え
↓
叱責、説教といったプレッシャー
↓
関係の悪化
↓
登校の回避・担任に会いたくない
「安心不足」「過緊張」だという捉え
↓
適切な支援
↓
信頼関係の構築
↓
前向きな行動・担任に会いたい
スタート地点が変わらない限り、状況は好転しません。「子どもに嘘をつかれた。許せない」と思うのではなく、「あのときの行こうと思った気持ちは嘘じゃないんだよな。誰だって、言ってもできないことはあるよな。それなのに、責められたらあの子もつらいよな。また責められるんじゃないかと思って、会いたくないのも当然だよな」。そう考えて自分自身の行為を謙虚に振り返ることが大切です。
子どもに会いたいと思ってもらえるような自分だったのだろうか。そう考えたことのある人と、ない人とでは、子どもが会ったときの印象は変わるはずです。
不登校の子どもとの関係が悪化する場合、たいてい大人側に原因があります。そして、その原因は大人の想像力の不足です。自分の視野、自分の立場からは見えないことを想像していく力が求められます。
大人にも想像することや人の気持ちに共感することが苦手な人、あるいは決まっていることへのこだわりが強い人など、様々なタイプの人がいます。
子どもとの関係が悪化するようであれば、その先生を子どもと接する最前線に立たせないことも大切です。関係が悪化するということは、子どもが傷ついていることとイコールです。それを放置すれば回復も遅くなるのです。職員室の論理ではなく、子どもファーストに考えて対応したいものです。
自信や前向きな気落ちが出てきたとき、いきなり再登校を目指すのではなく、段階を踏んだ方がスムーズに進みます。
ちなみにリハビリテーションには次の3原則があります。
繰り返し行うこと、マンネリにならないように変化をつけること、休息をとることの3点です。
もし、この子どもが一人で家から一歩も出ない状況であれば、学校に行かせるという目標は現実にそぐわないものです。家でリラックスさせることが優先されます。もし一人で外出ができる状況であれば、リハビリに取り組むことは可能です。
反復させるのは、学校に向かって歩くという行為です。
バリエーションは次のようにつけます。
【通学リハビリ・プラン】
1日目は通学路を3分の1まで歩く。
2日目は通学路を半分まで歩く。
3日目は通学路を3分の2まで歩く。
4日目は学校の門が見えるところまで歩く。
5日目は学校の周りをぐるりと1周する。
途中で「今日はやめておく」という日があれば、そこが休息のタイミングになります。大丈夫そうであれば、土日が休息ということになります。
再登校にチャレンジした際、学校の門を見たときの緊張感はかなり高いはずです。しかし学校の周りをぐるりと1周することを繰り返していけば、緊張感は次第にやわらぎ、やがて校舎内の玄関に足を踏み入れやすくなります。
「明日は行く」と言う子どもとの対話例
子「先生、明日は学校に行きます」
先「あ、行こうと思っているんだ」(なるべく冷静に)
子「はい」
先「じゃあ、天気予報みたいに、実際に明日行ける確率はどれくらいか教えて。まあ、何事も100%は難しいから、100%はなしでね」
<子どもの言う確率が高い場合>
子「はい。80%です」
先「ということは10回挑戦したら、8回行けるということだよね」
子「はい」
先「ということは明日行ける場合もあるけど、2回続けて行けないこともあり得るよね」
子「まあ、そうですね」
先「もし、2回連続して行けなかったら、あなたはどんな気持ちになりそうかな?」
子「やっぱり無理なんだって思うかもしれません」
先「3回目をチャレンジしない可能性もあるよね」
子「そうですね」
先「じゃあ、少しずつ慣らしていく方がリスクが少ないね」
子「はい」
先「こんなのはどう?」(と、上述の「通学リハビリ・プラン」を示す)
子「これなら出来そうです」
<子どもの言う確率が低い場合>
子「…ええと、30%くらいかな」
先「ということは、正直言うとまだ無理かなあ、という気持ちかな」
子「はい」
先「じゃあ、そんな一か八かやってみようということではなくて、よし行けるかも、と自信ができてから挑戦しようよ」
子「はい」
先「学校に行くことにこだわらずに、今の自分に必要なこと、今の自分に大切なことを少しずつやろうか?」
子「はい」
先「今の自分に必要なことは何だと思う?」
子「今の自分は、全然ダメ過ぎて、何が必要かはわかりません」
先「自分のことをダメだなって思うんだ…」
子「はい」
先「そう思うとつらいし、元気がなくなるよね」
子「そうなんです」
先「じゃあ、少しずつ自信を持てるようなことをしようか」
子「どうすれば自信を持てるんですか」
先「自分で何かを続けたり、人に喜ばれたり、いろいろな方法があるよ」
子「そうなんですね」
先「何に挑戦するか、一緒に考えていこうか。もちろん、しっかり休むことも大切だからね」
子「はい」
大人の思いや願いが強すぎると、子どもは自分のペースではなく大人のペースで行動しようとします。そしてそれは、うまくいかない場合がほとんどです。子どもの現実、ペースに合わせることが大切です。
※この連載は、原則として月に1回の更新予定です。
<千葉孝司 プロフィール>
ちば・こうじ。1970年北海道生まれ。元・公立中学校教諭。ピンクシャツデーとかち発起人代表。いじめ防止や不登校対応に関する啓発活動に取り組み、カナダ発のいじめ防止運動ピンクシャツデーの普及にも努める。著書に「いじめと戦う!プロの対応術」(小学館)、「令和型不登校対応マップ」「WHYとHOWでよくわかる!いじめ 困ったときの指導法」「WHYとHOWでよくわかる!不登校 困ったときの対応術」(いずれも明治図書出版)等がある。
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