【連載】坂内智之先生の 愛着に課題を抱えた子が伸びるアプローチ~学級担任にできること~#6 愛着の課題を乗り越える授業、どうつくる?<前編>―実践編その2―

近年、教員たちが対応に苦慮し、学校現場を根底から揺るがしている「愛着障害に苦しむ子どもたち」。そうした子どもたちによって荒れた学級を何度も立て直してきた坂内先生が、今、学級担任に何ができるのかを提案し、これからの学級のあり方について考えていく連載第6回。今回は実践編の第2回。いよいよ授業による具体的なアプローチについて提案していきます。
執筆/福島県公立小学校教諭・坂内智之
目次
はじめに
私の授業スタイルは主に共同(協働)※型の学習です。子どもの主体性を基盤に、学習課題の解決を展開していくスタイルです。近年の子どもの変化を敏感に捉えることができたのは、私の授業が子どもの主体性、つまり子どもの探索機能を活用した授業スタイルだからです。
以前でしたら、子どもに課題を投げかけると、子どもは一斉に探索(探求)に走り出しました。ところが近年ではこうした授業が成立しにくくなってきたと感じることが多くなり、それが子どもの変化について捉えるきっかけとなりました。
学校生活の大半は「授業」の時間です。文部科学省による「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の最新データによると、現場での観察通り、小学校3・4年生で問題行動が増えてきています。私はその最も大きな原因として、授業に課題があるのだろうと考えています。
今回はこの「授業」に焦点を当て、愛着の観点から、現状の授業の何が問題なのか、授業をどう改善していけばよいのかを考えていくきっかけになればと思います。
※「共同」とは、共通する目的のため、クラスみんなで同じことを行うことを指し、「協働」は、立場や活動が異なりながらも、共通の目的を達成するために、それぞれが協力して働くことを表します。
1 なぜ授業なのか
繰り返しお伝えしてきたように、近年の小学校現場では3・4年生のクラス運営がとても難しいものとなっています。特に3年生は、私が見聞きし、担任してきた中で今、最も難しい学年だと感じます。
これまで私が4年生の担任をすることが多かったのは、3年生での学級の不安定さから学級経営が安定せず、その立て直しとしてバトンタッチされてきたからです。
では、なぜ3年生の学級経営が難しいのでしょうか。私はその最も大きな原因が「授業」にあると考えています。学校生活の大半の時間は授業です。もし、この授業が子どもの心によい状態をもたらすものであるならば、学校でのトラブルはほとんど起こらないでしょう。そう考えると、3・4年生の授業の中に、何か子どもの問題行動を助長する要因があるはずです。
1・2年生とは何が違うのでしょうか。私は、二つの大きな要因があるのではないかと考えています。
その一つは学習内容の定着の強化(いきすぎた学力向上対策)です。
そして二つ目は学習教科や学び方、子ども同士の関係の広がりです。
学校における生徒指導関連の各種データが明確に悪化し始めたのは、全国学力状況調査の結果が可視化され、学校評価や競争を用いた各自治体における学力向上の取組強化の時期と重なります。
近年では全国学力状況調査とは別に、ほとんどの都道府県で独自の学力テストを行うようにもなりました。それは6年生だけでなく多くが3・4年生の段階から実施され、数値を上昇させることが教師の評価にもつながるようになってきています。
現場では、学習の定着のため、より強い指導や大量のプリントによる知識の定着が図られるようになりました。さらには「家庭との連携が大切だ」と、宿題も徹底されるようになりました。
こうした知識・理解の強化は、厳格な授業規律や、より強い指導(言葉)へとつながっていきます。
そうなると、愛着の課題を抱え、不安感の強い子どもたちは、授業に不適応を起こしがちになります。
特に教師の望むような学力を満たせない子どもや認知にゆらぎのある子どもにとっては、安心が満たされず、授業は苦痛そのものになっていきます。授業から逃げ出す子ども、授業をあきらめてしまう子どもが増えてくるのも、3・4年生という「学力が見えやすくなる」この時期と重なっています。
また、この時期には課題に取り組むことをあきらめ、ノートや教科書を開かず、授業中何もしない子どもも目立ち始めます。学力が低く、内容を理解できない子どもたちは、不登校となる割合が高くなり、それは中学校進学後にさらに顕著になっていきます。近年の学校ではこうした「授業に耐えられない」という不安を抱える児童や生徒がかなり多いのではないかと推測されます。
実際、不登校の子どもの中には、学校の中に、個別対応で安心できる学びの環境があると、登校できるようになる子がいます。そうした子は決して学習そのものが嫌で学校に登校できないわけではなく、授業というシステムに課題があるために適応できないのだろうと考えられます。
心の基盤の弱い子どもたちは、「どうせやっても無理」「どうせみんなと同じようにできない」という感情から、他の子の学習を妨げたり、課題に取り組まなかったりという姿を、授業の中で見せているのです。
また、3年生では新たに理科や社会科、総合的な学習の時間などが加わり、教科の数が増えます。これまで具体を中心としていた学習内容に、目には見えない抽象的な概念が加わり始めます。
愛着形成に課題のある子どもたちは、新しい教科や抽象的で分かりにくい概念への対応がうまくできず、不安を感じやすいように見受けられます。なぜなら、教科が広がり、抽象的なものに対応するには、愛着でいう「探索機能(探究)」がとても重要になるからです。
「安全」や「安心」の基盤が弱い子どもたちは、こうした学習の広がりに対して不安や苦痛を感じてしまいます。理科や社会科、総合的な学習の時間という教科では、自分で調べてまとめるなど、自律的な学びが要求され、探索する力も必要になります。
併せてグループやチームなど、集団での活動も多くなります。そのためクラスの仲間と協力・協調していかなければなりませんが、愛着形成の弱い子どもは、他者よりも自分の感情を優先させてしまい、トラブルになることが増えていきます。
このように、学習内容の広がりは、不安を抱える子どもの授業からの逃避や妨害、または無反応な姿となって表れてきます。
また、そうした子たちは不適切な言動を繰り返し、周りの友達が困っていたとしても、それを理解しにくいという特性も持っています。こうしたことが重なり合い、授業はどんどん混乱していきます。
私は、これらの理由から、3年生以降、学校への不適応の問題が大きくなっているのだと分析しています。もちろん、その問題は早ければ1・2年生でも起こり始めますし、改善されなければ5・6年生、そして中学校へと続いていきます。
私たち教師がまず改善すべきなのは、こうした課題を抱える授業そのものなのです。
2 授業改善のポイント
ここからは、授業における3つの改善策、「安心できる学習環境を確保する」「授業の中で選択や決定の機会を増やす」「共同(協働)学習を広げる」を示していきます。
そしてそれぞれの改善策についていくつかの具体的な実践ポイントを提案し、共に考えていくきっかけにしたいと思います。
改善策その1 「安心できる学習環境を確保する」
愛着に課題を抱える子どもたちは、授業への見通しがないと不安になります。
「今日の授業の予定は?」「今日の授業はどんなことをやるの?」。こうした言葉を頻繁に繰り返します。そうした姿から見えてくるのは、その授業で自分はうまく学べるのか、内容を理解できるのかという不安です。そんな子どもたちが授業の見通しをもてるようにし、安心できる学習の場をつくることが大切です。
ポイント1 学習の見通しをもたせること
私が授業づくりで大事にしているのは、授業の終わりに、「次の時間には何をどう学習するのか」を知らせておくことです。
以前の私はどちらかというと、突然で、サプライズな授業を好んでいましたが、近年の子どもたちの変化に合わせ、できるだけ次の授業で何をするのかを予告するようになりました。
授業の始まりには何をもってゴールとするのかも、できるだけ明確にするようにしています。
例えば、「次の理科の時間には、この実験の続きをやっていくね」「じゃあ、明日は〇〇の気持ちについてもみんなで考えていこうね」…。このようなさりげない言葉で次の時間の見通しを示しておくことで、子どもたちはやることが見え、安心できます。
さらによい方法もあります。それは子どもたち自身が次の授業の課題をつくることです。
「先生! 今度はこの実験の続きをしたいな」「今度は〇〇の気持ちもみんなで考えていきたいな」こうした子どもの言葉を引き出し、子ども自身が次の課題をつくっていく授業です。
「そんな授業は難しいな」「子どものそうした発言ってどうしたら引き出せるの?」と思うかもしれませんが、じつはとても簡単なのです。
授業の終盤、子どもに対して、「次の授業ではどんなことを学びたい?」「この先どうなると思う?」といった問いかけを入れていくだけで、子どもたちはどんどん考えを広げ、伝えてくれます。
「教師のもつ学びの主導権を少し子どもにも分けてあげる」。そんな感覚をもつとよいでしょう。
学級が不安定だからと教師が授業の手綱を強く握ろうとすればするほど、子どもたちは教師の言動一つ一つに敏感になり、不安も増大していきます。その結果、授業はうまくいかなくなります。
大事なのは「子ども自身が先を見通す」、そんな感覚です。それはとても大きな安心感をつくりだし、子どもたちを前向きにしていきます。
ポイント2 座席の配置
教室の机の配置にもひと工夫することをお勧めします。
よくあるのが問題行動を起こしやすい子、気になる子を教室の最前列や、最後尾に置くという工夫です。AさんとBさんは一緒に騒ぐからと、教師が意図的に距離を空けるのもよくある配置です。
しかし、こうした教師の意図は、大抵逆効果になります。課題のある子どもたちは、慣れてくると席から自由に離れて動き回り、騒ぎ、勝手な行動をし始めるからです。
また、大きな不安感を抱え、課題のある子どもの隣の席に、面倒見のよい子どもを配置するのも、よくあるパターンです。でも、私はお勧めしません。
面倒見のよい子どもは、初めは担任の期待に応えようと頻繁に声をかけたり世話をしたりしますが、不安を抱えている子が望んでいるのは、その隣の子との関わりではありません。
むしろ隣の子から不必要な言葉を頻繁にかけられることで、余計に不安や不快を感じ取り、より苦しくなっていきます。一方で面倒見のよい子どもにとっては、いくら頑張っても相手の反応が弱いため、次第に嫌気がさし始めます。どちらの子どもにとっても、よいことはありません。
そこで、私は子どもに「授業中の教室内での移動は誰もが自由である」と話し、実際にそうしています。
子どもをしっかりと席に着かせ、授業をコントロールしたいと思う教師にとって、子どもが自由に立ち歩きできるようにすることは、とても怖いことでしょう。
でも、教室の「安心」を確保するためには、ここが大切です。もちろん、その自由な立ち歩きは、あくまで「学びのためのもの」であり、おしゃべりやおふざけのためではないことは、しっかりと伝えていく必要がありますし、私語が多い時には授業をいったん止めて、振り返らせることも必要です。
それでも、子どもが「選ぶ」ことが大切なのは、学ぶためなら誰とでも(それは先生とでも)、「距離を自分で縮めることが自由にできる」という「感覚」をもてるようにするためです。
こうした「感覚」が、子どもの安心感を生み出すのです。
一方で、愛着の課題を抱える子どもの中には、こうした自由な環境を与えられても、うまく動けない子どもがいます。そんな場合は教師が個別に、「君はどう考えたの?」「分からなくて困っていることある?」などと声をかけたり、同じような状況の子ども同士をつなげたりしています。
時間はかかりますが、こうしたことを積み重ねていくうちに、次第に子どもたちは自ら人と関わり、学べるようになってきます。
また、教室の机の配置を子どもたちと一緒に考えるのもよい方法です。仮にそれがうまくいかなかったら、それを基に子どもたちと再び一緒に考え、さらによいと思う方法を考えていきます。そうすることで、子どもたちは机の配置をより意識していくことでしょう。
今年の私のクラスも、席の配置は子どもたち自身で考え、決定しています。
今(2025年5月現在)はアイランド型(グループ型)で学んでいますが、課題が多ければ子どもたちで見直し、席の配置について話し合うことにしています。
なお、こうした実践には手間も時間もかかるものです。私は半年くらい先の姿を考えつつ、「今の席はどうかな?」「席の配置で困っていることはない?」と定期的に言葉をかけるようにしています。こうした言葉かけにより、「教室の席の配置は先生が決めるものではなく、自分たちの考えが反映されたものだ」と感じ取れるようにしています。机の配置一つを通しても、時間をかけて長い目で子どもを育てていくという姿勢が大切です。
ポイント3 教師の在り方
授業中の教師の在り方も大切です。
問題行動が多い子どもたちに対して最も悪い対応は、大声で怒鳴ったり、圧をかけたりすることです。今の子どもたちに対しては、これは悪手です。
愛着障害を抱える子どもたちは人との関わり方に課題があるわけですから、より強い指導で子どもを抑え込もうとしても、よい効果はひとつも生まれません。子どもの興奮をさらに増大させ、混乱を大きくしてしまいます。
また、授業中に勝手な言動が広がるなど騒がしいクラスでは、その騒がしさに対抗しようと、教師がより強く速い言葉で子どもに投げかける姿を見かけます。
しかし、子どもの声と教師の声が空中で交錯し、より一層教室内が混乱する結果を生みます。
私が大切にしているのは、子どもの波長と自分の波長を意図的にずらすことです。あえてゆったりと、そして静かで柔らかい声で話をすることで、子どもたちにはこちらの声を「聞く」という意識が生まれます。
興奮して気持ちが昂ぶっている子どもに話しかける際、あえてのんびりと冷静な声で、「どうしたの?(ゆっくりと)」「そっかぁ、怒りたくなっちゃったんだね~」などと、その子の感覚とはずらした言葉をかけることで、次第にその子は落ち着いていきます。
教室という場と空気をコントロールしているのは教師ですから、教師がゆったりとした姿でいれば、子どもたちも次第にその空気に合わせ、ゆったりとした姿になってきます。
この「ずらし」がとても大切なのです。
さらに、教室での教師の表情も大切です。私がまだ若い頃、クラスの子どもとの関係がうまくいかず、教室に入るのがつらいなと思ったことが何度もあります。そんな時には、教室の前でいったん立ち止まり、笑顔をつくってから入るようにしていました。
どんな状況であっても、子どもたちは目の前の大人が笑顔であることによって安心するものなのです。
また、教師自身が駄目な自分を子どもたちにさらけ出すこともよいのではないかと思います。
何か失敗あった際に、笑顔で「ごめんね~」と謝ることができる教師の姿は、子どもたちが最も安心できる大人の姿なのではないでしょうか。
子どもの前で完璧であろうとしてしまうと、子どもにも完璧を求めていくことになってしまいます。
「まったく先生はしょうがないな~」と子どもたちが感じるような、どこか抜けている(足りていない)教師の姿も大事なのだと思います。子どもたちに助けてもらうことで、子どもたちへの感謝の気持ちも生まれます。
たくさんの「ありがとう!」が生まれるような教室は、子どもたちにもとって居心地のよい空間になっているはずです。
ポイント4 子ども同士のポジティブな言葉かけ
4つ目は、ポジティブな言葉かけです。
これは教師が子どもにかける言葉というよりも、子ども同士の言葉かけです。
課題のある子どもがいると、その子をみんなの前で褒めたくなりますが、学級集団の中で、担任が特定の子どもを褒めることは、あまりよい手段ではありません。
愛着に課題を抱える子どもが複数いる環境で、担任が他の子を褒めることは、他の子どもに強い嫉妬心を生んでしまうからです。
ですからここで大切にしたいのは、子ども同士でポジティブな言葉かけができる環境づくりです。
誰かがプリントを渡してくれた時に、「ありがとう」と言う。そんな小さな一歩からでもかまいません。そうした温かな言葉かけや姿を大切にします。
教師は、子ども同士がお互いにポジティブな言葉をかけ合っている姿を見取って、学級全体にフィードバックしていきます。
「Aさんからプリントを渡してもらった時にBさんが『ありがとうね』って言えるこのクラス、素敵だなぁ」「Cさんが問題解けたときにDさんが『すごい!』って言っていたけど、そう言われるとうれしくなるよね!」などと、「子ども同士がポジティブに関わる姿」を可視化し、評価することで、教室内でポジティブな言葉が広がり、より子どもの安心感が高まっていきます。
読者の皆様は、いかがお考えでしょうか?
スペースの都合上、改善策その2、その3、その4については次回で提案、解説していきます。

坂内智之プロフィール
ばんない・ともゆき。1968年福島県生まれ。 東京学芸大学教育学部卒業。福島県公立小学校教諭。協働学習の授業実践家で「学びの共同体」から『学び合い』の授業を経て、20年以上にわたり、協働学習の授業実践を続ける。近年では「てつがく」を取り入れた授業実践を行う。 共著に『子どもの書く力が飛躍的に伸びる!学びのカリキュラム・マネジメント』(学事出版)、『放射線になんか、まけないぞ!』(太郞次郎社エディタス)がある。
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