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よくわかる教育委員会〜指導主事の仕事を中心に|第4回 「クレーム・不当要求への対応」

連載
よくわかる教育委員会〜指導主事の仕事を中心に

連載「よくわかる教育委員会」、前回指導主事に求められる身だしなみと電話対応の基礎についてお伝えしました。今回はさらに進めて、対応するのが難しいクレーム電話への対応方法と心構え、不当要求への対応(法的な部分も含めて)についてご説明いたします。さらには、私(西村)がこれまでの経験で感じた「クレームを入れてくる人の心理とそのタイプ」についても、参考までに解説いたします。

西村健吾(にしむら・けんご)
1973年鳥取県生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、鳥取県の公立小学校および教育委員会で勤務。「マメで、四角く、やわらかく、面白い…豆腐のような教師になろう!」を生涯のテーマにしている。学校教育に関わる書籍を多数執筆。近著は『学校リーダーの人材育成術』(明治図書)。現在、米子市立福生東小学校長。本コラムは、10年間の教育委員会事務局勤務の経験を元に執筆している。

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※動画は生成AIを利用した「NoLang」にて作成しました。

クレームもチャンスと捉える

教育委員会に対して、クレームを言ったり不当な要求をしたりする方は、学校や教師の対応に対して不満を持っている場合がほとんどです。中には理不尽に感じる場合もあるでしょう。クレームは電話をとった瞬間から察知できるものですが、決してネガティブにならず、前向きに取り組むことが重要です。不適切なクレーム対応は、ほとんどの場合、新たなクレームを生んでしまいかねないからです。

さらに、見方を変えれば「クレーム=関係改善・強化のチャンス、サービス向上のチャンス、指導力や経験値アップのチャンス」と捉えることができます。クレームに対してきちんと対応する経験を積むことは、間違いなくあなたのスキルアップにつながります。冷静かつ丁寧なコミュニケーションを心懸けましょう。

クレーム電話対応

受容・傾聴

まずは通常の電話対応同様、しっかりとこちらが名乗ることが大切です。名乗ることで誠意が伝わります。

その上で、しっかり相手の言い分を共感的に受け止め「主訴(最も訴えたい気持ち・内容・対応)」が何なのかを把握しようとすることが大切です。納得できなかったとしても、相づちを打ちながら、共感的に聞き取ります。決して途中で話をさえぎってはいけません

  • 「そうでしたか。それはさぞご不快な思いをされたと思います。」
  • 「そんなことがあったのですか。すぐに事実確認をしたいと思いますが、お気持ち、ごもっともなことだと思います。」
  • 「どのような状況だったか、お聞かせ願えますか。」

主訴の確認

必要な情報(学校名、担当者名、日時)とともに、怒りの原因は何か、相手の主訴は何か、学校側に求めている対応は何か、しっかりと確認します。

そのため、必ずメモを取ることが大切です。後の対応は、制度や法律、ルールに基づいて考えることになるため、相手の主張は正確に記録し、相手に確認することが必要です。

  • 「内容を確認させていただきますと、〜ということですね。」
  • 「お話を整理させていただきますと、〜ということですね。」

おわび

不快な気持ちにさせてしまったことについて、 まずは丁寧におわびします。自分が直接関わっていないことであったとしても、学校や教育委員会を代表しておわびします。

ただし、事実確認ができていない段階で、具体的な内容についての謝罪は避けましょう。例えば対応が不調に終わり、万が一裁判になったときなどに、痛くもない腹を探られてしまう可能性が生じるからです。相手の心に対しておわびはするけれど、安易な謝罪(罪を認めて謝ること)はしないということが大切です。

また、怒鳴られても個人(自分)に対する攻撃と受け止めず、感情的に反応しないことを心懸けます。そして原因を分析し、不快な感情の元となる事実についておわびします。

  • 「ご不快な思いをさせてしまったことについておわびします。」
  • 「不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ございません。」
  • 「ご迷惑をおかけし、申し訳ございません。」
  • 「〇〇であったことについておわびします。」
  • 「お気持ちごもっともです。申し訳ございません。」

回答保留・対応確認

クレームの中には、おわびだけでは気持ちが収まらず、何らかの対応を迫ってくる場合もあります。相手の言葉に怒気が含まれている場合は、その主訴が自分の担当であるかどうかに関わらず、折り返し返答する旨を伝え、いったん回答を保留しましょう。適切な対応のためには、事実関係や法令を確認する必要がある場合が多いからです。

また、担当者が在籍しているからといって、安易に取り次いでもいけません。「たらい回しにされた」「あれだけ伝えたのに、また言わせるのか」などと感じ、火に油を注いでしまうかもしれないからです。

  • 「申し訳ありませんが、自分では判断しかねます。少々お時間いただけますか。」
  • 「恐れ入りますが、確認の上、折り返しお電話させていただいてもよろしいですか。」

なお、この応答例にあるような「申し訳ありませんが」「恐れ入りますが」といった、へりくだる前置きのことを「クッション言葉」と呼びます。クレーム対応に限らず、応答を柔らかくする上でとても大切な表現です。必ず使うようにしましょう。クッション言葉としては、他に次のようなものがあります。

  • お忙しいとは思いますが
  • お手数をおかけして申し訳ありませんが
  • 大変恐縮ですが

まれに「教育長を出せ!」と迫られる場合があります。そのときは「私は教育長の名代です。お電話があったこととその内容は必ず教育長に伝えますので、私が承ります。」などと返しましょう。それでも相手が引かない場合は、職位が上の人など、電話を替わる相手の代案を示します。

拒否

実際のところ、組織としてできることとできないことがあります。できないこと(無理難題・過剰要求)に対しては、冷静かつ毅然とした態度で拒否することも必要です。ただし、そのときも必ずクッション言葉を添えます。

さらに、「できません」という言葉はマイナスの感情を与えやすいので、適宜言い換えましょう。以下は「クッション言葉+言い換え」の例です。

  • 「大変恐れ入りますが、ご要望いただいた内容は対応できかねます。」
  • 「お気持ちはごもっともですが、そのことについて特別な対応はいたしかねます。」
  • 「ご意見は真摯に受け止めますが、ご要望への対応は難しい状況です。」

謝辞を添える

少し意外に感じるかもしれませんが、クレーム対応の最後には、「お礼の言葉」を添えましょう。これは、単なる形式的なマナーではありません。次のように、いくつか大事な意味と効果があります。

信頼回復の一歩になる

クレームは不満の表れですが、それを「言ってくれた」こと自体が改善のチャンスでもあります。「ご指摘ありがとうございます」と伝えることで、「あなたの声を大切にしています」という姿勢が伝わり、信頼回復につながります。

相手の怒りを和らげる

感情的になっている相手に対して、お礼の言葉で一歩引いた態度を見せると、相手もトーンダウンしやすくなります。クッション言葉としての役割もあり、対立ではなく「共に解決する」雰囲気を作ることができます。

感情ではなく理性のやり取りへ誘導できる

「ご意見ありがとうございました」と言われると、相手も少し冷静になって、「言ってよかった」と感じやすくなります。一連のやりとりの最後の印象は、全体の印象に大きく影響します。

組織としての誠実さを示せる

「言いづらいことを伝えてくれたこと」に敬意を持って対応するのは、組織の姿勢として大切なことです。お礼の言葉を丁寧に入れることで、教育委員会やそこで働く人に対して、人間味を感じさせることができます。

謝辞の例

  • 「今後このようなことがないよう十分注意します。」
  • 「この度は貴重なご意見をありがとうございました。」
  • 「今後も何かお気づきの点がありましたら、遠慮なくお伝えください。」

報告

クレーム対応の報告書は、事実を正確に・感情を交えずに・再発防止につながる内容を意識して書くことが重要です。後々のトラブルを防ぐため、上司や関係部署が状況を正しく理解し、今後の改善に活かせるよう、次のようなポイントで書くようにしましょう。

  • クレーム発生日・初期対応・完了した日時を記録
  • 申し出内容を事実ベースで簡潔に書く(感情を入れない)
  • 何か原因があった場合は、何が原因だったかを具体的に記述
  • いつ・誰が・どのように対応したか、対応内容を書く
  • 今後どう改善・予防するかを明記(実行可能な策を)

不当要求行為等への対策

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