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若手に佳き風を吹かせるセンパイになろうよ!【連載|若手が育つ! センパイのための伴走力トレーニング #1】

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元北海道公立中学校校長

森万喜子

大ベテランの先生でも、実は初心者マークがついてしまうかもしれないこと、それは、若手教員の育成かもしれません。初任者指導担当の経験を持ち、地域の垣根をこえて様々な教員から相談を受けている森万喜子先生は、「若手育成の基本は、その人が持っているよさを客観的な立場から認める、ユニークな点などに興味を持って聞くこと」と言います。どんな教員にも、理想や意欲はあります。それを引き出すためにできることは、上からの「指導」ではなくフラットな「伴走」。それは人手不足の教育現場で教員の離職を防ぐためにも、センパイ教員の大切なスキルです。

執筆/元北海道公立中学校校長・森 万喜子

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新連載がスタートです!

新学期を迎え、また新しい学校の一年が始まります。職員室で働く仲間にも新しい人が加わり、「はじめまして」「どうぞよろしくお願いします」というあいさつがあちこちで交わされていることでしょう。もっとも、今はどこも教員不足です。年度初めに教職員が確保できていない、というお悩みもあるのではと心配しています。また、初めて学校に勤務する初任者の教員や職員を迎えた職場もあることでしょう。若手や、初めての職場に勤務する人たちに、希望とやりがいをもって働き続けてもらいたい。そのためにも職場全体のムード、「先輩」としてのマインドと行動は大事です。「先輩風を吹かす」「先輩面をする」などとネガティブな言葉もありますが、若手に佳き風を吹かせる「センパイ」になろうよ! ということで、具体的なエピソードを交え、時にユーモラスに、時に辛口でお届けします。どうぞよろしくお願いします。

1 緊張をほぐす~職場でもエンカウンターは大事

入学・進級した児童生徒に対して、構成的グループエンカウンターのワークやゲームを取り入れて人間関係づくりを促す先生方が増えてきています。さて、職員室ではどうでしょうか。4月1日の職員朝会などで、転入職員が職員室の前方にずらりと並び、順番に名前と前任校名などを言いあいさつは終了、初日は職員会議や学年、分掌会議などであわただしく一日が終わる、慣れない初任者にとっては、緊張と不安の一日です。かつてコロナ禍中では職場の懇親会も開かれず、仲間との距離を縮める機会も少なく、同じ学年を組む人以外とは言葉を交わすことがないまま一年が過ぎる、なんていうこともありました。

私が校長を務めていた学校では、そんな年度初めの職員会議冒頭に、教頭さんが「これから一年間を過ごす仲間ですので、会議の前に一人30秒でいいので、自己PRタイムにしましょう」と提案しました。職員室はどよめきましたが、そこは話上手な教員たちが多く「カラオケでは高得点を出せます」「ベース弾きで、プライベートではバンド活動をしています」「バイクが大好き」「実はサーファーだった」「ラーメン屋巡りをしています」などと、旧知の仲でも知らなかったエピソードがたくさん出てきて、会議終了後の休憩時間にはコーヒーを片手に、あちこちで会話が盛り上がっていました。

何の打ち合わせもなく始まったのですが、教頭さんは職員室に漂う緊張感を感じ取ったのでしょう。教頭さんのセンス、さすがだなと感心しました。懇親は歓迎会でやるので、と考える職場もありますが、今は子育てや介護などで夜の会合に出席できない方もいます。初日の勤務時間中に少しだけリラックスして打ち解ける場をつくるのは有効。そして、私たち、学校の大人たちは、子どもたちに対してだけじゃなく、職場の仲間にも初日からウエルカム感を出して話しやすい人にならなくちゃね、と感じます。

2 「熱心な無理解者」が若手を潰す

東京都の2023年度新規採用者の1年以内の離職率は4.9%という報道がありました。東京に限らず日本全国で、採用後数年未満で退職する若い先生方がいます。

「熱心な無理解者」という言葉を知っていますか。これは児童精神科医の故佐々木正美先生の言葉です。発達障害のある子どもたちを指導する、例えば、以下のようなことをする大人のことです。

ハンディキャップのある子どもに、今は辛くても頑張らせるのが本人の将来のためであり、それが愛情であると考える。
努力すれば必ずできるようになる、苦手を克服させようと努力を強いて、なんでも一人でやらせようとする。
できることよりもできないことにスポットを当て、指導を入れる。

佐々木先生は障害のある子どもについて書かれましたが、上の文章の「子ども」を「初任者」に置き換えたらどうでしょう。「将来のため」「この先困るから」「至らないところが気になり指導をする」「自分で考えろ、と突き放す(その割にはあとからダメなところを指摘する)」などをしていないでしょうか。

学校の大人たちは善良で真面目な人が多い、というのが30年以上学校で働いてきた私の実感ですが、時に真面目すぎることがあります。「教師なんだから〇〇すべき」「これがこの学校の常識」「子どものためだから当たり前」などと、熱心な無理解者が自分の信念だけで突き進むと、子どもたちに悪影響をもたらすのと同様、若い教員は潰れます。突然学校に来られなくなった初任の先生の机を見て「私たち、ちょっとアドバイスしただけなのに」「本人のためを思って言ったんです」「このくらい私たちの若い頃は当たり前だった」と困惑しても、もうその先生は学校には戻ってこない……あちこちの学校でこれに似た出来事が見られます。学校を辞めないまでも、心身の不調を訴えたり、自信を失ったりしている若手教員が。

3 古いOSに新しいアプリを入れようとしていないか

「若手教員は学校現場のことをよく知らないから早く慣れてもらわないと」という気持ちは分かります。ただ、学校にいる私たちが心に留めておかないといけないのは、今の学校の中のしくみが適切にアップデートされているかを点検すること。改訂されてから2年以上たっている生徒指導提要や施行から間もなく2年を迎えるこども基本法のスピリットは学校の中まで入ってきていて、実際の教育活動に取り入れられているでしょうか。大学の学部や大学院を終えて学校現場に入ってくる初任者は、学校現場に立つ教員としては初心者だけど、最新の教育学や教育技術を学んできた人でもあるわけです。旧態依然のままアップデートすることなく使い続けてきたパソコンのOSに最新のアプリがうまく入るでしょうか。OSのアップデートをしないとダメなんじゃない?

若い人の離職や病休に「最近の若い者は」とがっかりする前に、今の学校のOSは最新のものかな? と学校全体で点検する目が必要なのではないでしょうか。

そして、初任者や採用後数年の若手の職員の育成計画と研修方針を作ることも大切です。同僚が口々に自分の経験則でアドバイスを始めると言われたほうは混乱します。学校として初任者を迎えるにあたってする準備はそう簡単なものではありませんが、現在の学校現場は教員不足で仕事が回らないところがたくさんあり、そんな中でOJTを進めるのも困難なのも事実。学校としての初任者研修の方針のプログラムを大まかにつくるのはもちろんですが、大事なのは初任者が「困っています」と言えるような職員室づくりです。話しやすい・助け合いがある・挑戦する・新規歓迎の4つの因子がある場が心理的安全性のある環境です。そんな職員室づくりから始めてみませんか。


森万喜子

<プロフィール>
森 万喜子(もり・まきこ)
北海道生まれ。北海道教育大学特別教科教員養成課程卒業後、千葉県千葉市、北海道小樽市で美術教員として中学校で勤務。教頭職を7年務めた後、2校で校長を務め、2023年3月に定年退職。前例踏襲や同調圧力が大嫌いで、校長時代は「こっちのやり方のほうがいいんじゃない?」と思いついたら、後先かまわず突き進み、学校改革を進めた。「ブルドーザーまきこ」との異名をもつ。校長就任後、兵庫教育大学教職大学院教育政策リーダーコース修了。現在は、執筆活動や全国での講演の他、文部科学省学校DX戦略アドバイザー(2023~)、文部科学省CSマイスター(2024~)、青森県教育改革有識者会議副議長として活躍中。単著に「『子どもが主語』の学校へようこそ!」(教育開発研究所)がある。


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