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小6道徳科 それぞれの自由「自由行動」

特集
文部科学省教科調査官監修「教科指導のヒントとアイデア」
小6道徳科 バナー

今回の教材は「自由行動」です。自分の自由と相手の自由、どちらの自由も守るためにはどのような考えを大切にすればよいかを考える授業を紹介します。主題を自分事にし、他者との交流を通して自分の考えを深めたり広げたりする際、タブレット端末のいくつかの機能を活用しています。

執筆/鹿児島県公立小学校教諭・諸平幸奈
監修/文部科学省教科調査官・堀田竜次
 鹿児島県公立小学校校長
 鹿児島県小学校道徳教育研究会会長・永里智広

1 はじめに

「自分だったら○○と考えて行動するよ」「でも、□□のときは、△△とも考えられるよ」「確かにそう考えることもあるよね」 このような子供たちの言葉があふれ、発言していてもしていなくても、その主題についてじっくり考えたり、考えを交流させたりする姿。「さっきは○○とみんなが話していたけれど、やっぱりぼくは違うと思うんだ」など授業が終わった後も問いをもち続ける姿。このような子供たちの姿が見られたとき、私自身、とてもわくわくしてきます。ときには、想定外の考えを子供たちから得ることもあります。

このような姿や考えがたくさん見られる授業、そして、道徳科の授業で考えたことをこれからの自分の生き方に生かしていこうとする姿が見られることを日々目指しています。そのために授業づくりをする際、大切にしていることは、子供たちが主題を自分事にできるようにすること、友達の考えと比べながら自分の考えをよりよいものにしていくことができるようにすることです。今回もそのアイデアの1つを使った授業展開となっています。

小6道徳科 それぞれの自由「自由行動」 イメージカット

2 展開の概略

 事前アンケートをもとにした「自由」の捉え方の共有
 自分のめあてを焦点化
 主人公に自我関与させた際の考えと他者との考えの交流(ロイロノートの活用)
 「自由」の新たな捉え方に迫る発問
 本時を通した自己の振り返り
 実生活につなげるために、実践意欲を高める説話(行事との関連)

 

タブレット端末(ロイロノート)の活用

1人1台タブレット端末が配付され、子供たちはもちろん、教師自身も授業などの中で活用する機会が増えてきました。今回の授業では、導入で使用した事前のアンケート、展開での考えの交流、終末の実生活につなげる場面の際に活用しました。

▼現時点での捉え方を把握できる簡単なアンケート

小6道徳科 それぞれの自由「自由行動」 タブレット端末(ロイロノート)の活用 簡単なアンケート
※自由な発想で考えてもらうために、無記名アンケートにしています。

今回の授業では「体育の時間に自由にできるとしたら何をしたいか」を尋ねました。5分あれば全員の回答が終わるほど短時間で行うことができました。

授業前の考えを子供たち一人一人が確認したり、全体で共有したりすることで、本時のめあてを焦点化したり、考えの再構築に生かしたりすることに活用できるようにしています。

 

▼他者との考えを交流する際、考えを分類することができる色カード

小6道徳科 それぞれの自由「自由行動」 タブレット端末(ロイロノート)の活用 考えを分類することができる色カード
※実際には記名があります。

賛成か反対かで色を選ぶことができるようにし、そのカードに自分の考えが書いてあるワークシートの写真を貼って提出箱に提出します。どちらの考えもあるという子が自分でカードを半分にすることがありました。これは子供が自ら行っており、新たな教具の工夫のアイデアを子供からいただきました。

このカードをもとに、まずは考えを聞いてみたい人と交流し、その後全体で交流します。それぞれの考えを可視化することで、誰がどのような考えをもっているのかを把握しながら交流し、考えを深めることができるのではないかと考えています。

 

▼生活につなげ、実践意欲を高めるためのスライド

終末の際に、子供が印象に残る言葉や写真、動画などを紹介することが多くなります。今回の授業では「9 25」という数字を見せました。これは修学旅行で自主研修をする日です。子供たちも本時で考えたことと自分たちの生活をつなげてくれたのではないかと思います。

小6道徳科 それぞれの自由「自由行動」 タブレット端末(ロイロノート)の活用 生活につなげ、実践意欲を高めるためのスライド
※実際には記名があります。

ワークシートの工夫

▼ 自分のめあて、中心場面、振り返りを1枚にまとめたワークシート

道徳科の授業で主題を自分事にしてもらうために、毎回自分のめあてを考える場を設けています。また、振り返りの際には本時を通して考えたことをもとに振り返りをする場を設定しています。自分のめあて→中心場面で考えたこと→振り返りを1枚で見ることができるワークシートを作成しています。その際、中心発問は記入せず、子供たちが考えを幅広くもつことができるようにし、図やマスはその授業に合わせて変更するようにしています。また、振り返りでは「自分と重ねて考えたこと・新たに考えたこと・これからの生活のこと」という観点を示すことで、考えを文章化することが苦手な子も記入しやすいようにしています。

小6道徳科 それぞれの自由「自由行動」 ワークシート

3 実際の授業展開

主題名 それぞれの自由

教材名 自由行動(日本文教出版6年)

ねらい
集団の中で自分の思いを優先するか周りの人と合わせるか考えることを通して、自分の思いばかり優先するのではなく、自分の意思で考え判断し、自律的で責任のある行動をすることのよさに気付き、集団生活の中で自分と周りの人の自由を大切にしながら生活していこうとする実践意欲を育てる。

内容項目 A 善悪の判断、自律、自由と責任

4 指導の概略

小6道徳科 それぞれの自由「自由行動」 指導の概略

導入1

①体育の時間に自由にできるなら何をしたいですか。

事前に調査した答えを確認し、それぞれが自由にしたいことには違いがあることに気付くことができるようにする。そうすることで、それぞれの自由を大切にするためにはどのような考えを大切にすればよいかを考えることに焦点化できるようにする。

導入2

②みんなが考える自由が違うなら、それぞれの自由はなくなってしまうのかな。

・アンケートの結果から考えたことをもとに、自分のめあてを一人一人が設定することで、本時の主題を自分事として捉え、主体的に考えることができるようにする。

展開1

③社会科見学の前に自由計画表をつくるマサキはどのようなことを考えていたでしょうか。

・主人公のマサキがグループみんなのことを考えたリーダーになりたいという思いをもっていることを捉えられるようにすることで、中心場面での考えをより深めることができるようにする。

展開2

④途中で何回か集合する方法に賛成しますか。反対しますか。【中心発問】

(グループの中のだれかが我慢しないといけないのは、自由ではないということなのかな)
・社会科見学でテーマをグループごとに決め、自由に見学をする際、途中に何回か集合する方法に賛成か反対かを選択し、理由まで考える。その際、ロイロノートの色カードで立場を示し、同じ考えや違う考えを意識して交流することができるようにする。

小6道徳科 それぞれの自由「自由行動」 子供の反応

展開3

⑤それぞれの自由を大切にするためには、どのような考えを大切にすればよいのでしょうか。

・めあてに戻り、本時で考えたことをもとに、大切にしたい考えを全体で出し合う。この考えをもとに、一人一人が振り返りをし、本時で考えたことを深めたり実生活につなげようとしたりすることができるようにする。

終末

⑥もうすぐ修学旅行があります。修学旅行やその後の生活では、どのようなことを大切にして過ごしたいですか。

・教師の説話を聞き、本時で考えたことを生かしていこうとする実践意欲を育てることができるようにする。

5 授業の注意点・ポイント解説

中心場面での中心発問をとても大切にしています。この発問次第で子供たちの思考が変わり、ねらいを達成できなくなることもあるからです。そして、中心場面で子供たちの考えがまとまりかけたとき、または、これまでもっていた考えだけを出し合うだけで深まらないときにポイントとしているのが「主題の新たな捉え方に迫る発問」です。子供たちが「え。ちょっと待ってよ」と思わず考え込んだり、「でも、でも」とこれまでの考えをより強固にしようとしたりする発問を1つ入れることで、より考えが深まったり、新たな考えが見いだせたりすると考えています。

本時の場合は、想定とは違って途中に集合する方法に賛成という考えの子の発言が多く、ねらいとは違った方向に話が流れていました。そこで、「グループで同じコースにすることは、グループの中の誰かが自由にできないことになるのかな」という発問を準備していましたが、実際は、「グループの中のだれかが我慢しないといけないのは、自由ではないということなのかな」という発問に変えてみました。すると、「これは学習の1つだから我慢とは違うのかもしれない」「リーダーとしての責任を果たすためには、まとめていかなければいけない」「グループの一員としてリーダーを助けることも必要だ」などの考えが出て、考えを深めようとする姿が見られました。

また、道徳科の授業の中では、子供たちが自分の考えをどんどん発言し、議論になっていくことがあります。そのような中で、なかなか発言できない子もいます。そこで、自分の考えを発言していなくてもじっくりと考えることができる、自分の考えを表出できる工夫を考えています。

例えば、ここで紹介したロイロノートの活用やワークシートの工夫であったり、ペアでの役割演技を一斉に行ったり、座席を向かい合わせにして全員の顔が見えるような話し合う場の工夫をしたりしています。

全体での議論の際に発言していなくても、発言した子の考えに「ああ」などと相づちを打ったりうなずいたりするだけでもいいので、反応を示すことも大切にしようと伝えています。これは、立派な意思表示だからです。道徳科の授業は自分の心と向き合う時間です。どの教科でもですが、子供たち一人一人が主役だと伝えています。そのためには、発言していなくてもじっくりと考える、表出する、友達の考えを聞いてまた考えるということを大切にしたいと考えています。

道徳科 堀田竜次先生

堀田竜次(ほりたりゅうじ)
文部科学省 初等中等教育局 教育課程課教科調査官
国立教育政策研究所 教育課程研究センター研究開発部 教育課程調査官
鹿児島県公立小学校教諭、笠沙(かささ)町教育委員会派遣社会教育主事・社会教育係長、薩摩川内市立手打(てうち)小学校教頭・手打幼稚園副園長、鹿屋(かのや)市教育委員会学校教育課指導主事、独立行政法人教員研修センター主任指導主事、独立行政法人教職員支援機構チーフ・研修プロデューサー、鹿児島県教育庁義務教育課主任指導主事、姶良(あいら)市立姶良小学校校長歴任後、2023年4月から現職。

構成/浅原孝子 イラスト/荻野琴美(オーデザインチャンネルズ)

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