生徒がほしいinputをどれだけ与えることができるか 【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #25】
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福井県は全国学力・学習状況調査の結果が良好な県として知られていますが、英語教育実施状況調査でも、全国トップの良好な結果を示している自治体。その福井県には指導力の優れた教師を認定する「授業名人」という制度があります。そこで今回からは、福井県の「授業名人」であり、同県の中学校教育研究会英語部会もその指導力を評価する、越前市南越中学校の朝倉由花教諭に、単元・授業づくりの考え方や具体的な実践事例について聞いていくことにします。
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目次
生徒たちが学習内容を自分事にできるような工夫を加える
初回となる今回は、朝倉教諭の単元・授業づくりの考え方を象徴する単元と、その単元内の授業を紹介していただきます。今回紹介するのは、1年生の単元「Speech about My Brother 〜身近な人を紹介しよう〜」の単元の実践例です(資料1参照)。
「本市の英語研究会では、単元を貫く課題をゴールに設定し、教科書の単元に込められたメッセージや内容を活用しながら、単元計画をしていきます。その際に、生徒たちが学習内容を自分事にできるような工夫を加えています。単元を通してスパイラルに学習をしていくというイメージで、授業の1時間1時間で少しずつ表現を獲得し、最終的にはそれまでに学んだものを使って、最後の課題に取り組むときに(この単元の場合は身近な人の紹介文)、気が付いたら豊かな表現ができるようになっているというのが理想です。
1時間ごとの授業の中では、導入を大切にしています。その時間に学習する教材の内容を踏まえ、T-S(先生と生徒)でのコミュニケーションをとりながら、生徒たちに『How about you?』 と投げかけ、自己表現をさせます。例えば、最初は教科書のイラストや写真などを使って、『Who is this?』など、内容の確認をするようなことから始めていきますが、そこから次第に、内容と生徒たち自身を結びつけながら投げかけていくのです。この単元の場合、登場人物がお兄さんの話をしているのですが、そのときに『Do you have any brothers?』と生徒たち個人に問いかけます。生徒たち一人一人が自分と関連付けてコミュニケーションをとりながら、自分事として少しずつ表現を獲得していくのです」
ちなみに、こうした授業の中で厳密にオールイングリッシュで授業を行っているわけではないと、朝倉教諭は話します。では、どんな場面や内容で日本語を使っているのでしょうか。
「理想はオールイングリッシュですから、教員からの指示や質問、生徒のリアクション、教材文の内容や生徒たちが気持ちを表現するなど、授業においてのやり取りは基本的には英語で行います。ただし、授業の中心は生徒ですから、生徒の様子や雰囲気を見ながら、必要に応じて日本語を使用します。例えば、細かい文法の説明が必要な場合は日本語のほうがよいと思います。特に、学びの初期段階にある生徒たちであれば、なおさらです。日本語の使用は、授業のゴールにとって、生徒にとってよいかどうかで判断します。そのほかに、できるだけ視覚的な情報を提示するとか、友達と理解度をシェアする時間を取るなどといったことも配慮します」
【資料1】単元計画
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教科書の理解だけでは、どうしても他人事になってしまう
単元の構成についても、できるだけ自分事として表現をするような機会を多くもたせることでinputを増やし、さらにoutputの質を上げていくのだと朝倉教諭は話します。
「教科書の内容を理解していくだけでは、どうしても他人事になってしまい、それではinputが通り一遍になる可能性が生じます。ですから、教科書の内容と関係付けながら、生徒たち一人一人の情報、考えを聞くような投げかけ方をしたり、生徒たち同士で聞き合うような活動を入れたりすることで、生徒自身が使いたい表現を引き出して、生徒が欲しいinputをできるだけ増やしていきたいと考えています。
この単元であれば、3/6時までは教材に沿って活動を行いながら、表現を増やしていくのですが、4/6時にはペア同士で相手の情報を聞き出し、学んだ表現を使って、相手の紹介文を書くという活動を行います。この活動は、教科書に載っているものなのですが、単に教科書に沿って『紹介しよう』というのではなく、生徒たちが『ちょっとやってみたい』と思える工夫をします。
例えば、『相手の意外な一面を探そう』とか『お互いの共通点を探そう』とかという目的をもたせれば、相手のことを考えて、どんな質問なら引き出せるか生徒は考え始めます。うまく引き出せれば、他の生徒にも紹介したくなるでしょう。
すでに仲のよい友達とはいろんな話もしてきて、多様な情報ももち合っているでしょう。しかし1年生ですし、まだまだよく知らない友達もいます。互いに質問し合って答えることで、自己開示をする機会とするのです。
このように、互いの情報を聞き出す機会を多く設定し、安心して自己開示できる環境をつくっていくことは、結果的には英語だけでなく、あらゆる学びの場面で生きる(安心して自分の考えを表現できる)ことにもつながります」
ペアも入れ替えながら繰り返し表現し、ブラッシュアップする
そうした単元の最後、6/6時に、それまでの学習を生かして、自分の身近な人物について紹介する授業(教科書外)を行うのだと朝倉教諭(資料2参照)。
「単元を通して身に付けてきた表現を活用して、自分の兄弟姉妹や家族、または自分の憧れの人などについて紹介する活動を行います。この場合も、生徒がやる気になるような目的・場面・状況を設定します。
生徒には『せっかく同じクラスになったクラスメイトとさらに仲よくなるために、自分自身のことをもっと知ってもらおう』と投げかけます。自分にとって身近な人を紹介することで、自分がどんな人なのか、どんな考えをもっているのかを知ってもらい、さらに仲を深めていこうというのです。この目的の場合、単にその人物について紹介するだけでは、不十分です。自分とその人物について関連付けて伝えることが必要です。
この活動では、生徒一人一人が誰について紹介するか英語で簡単に書いてみます。それを基に、ペアでお互いに英語で伝え合い、その際に質問をすることにします。すると、その質問に答える形で情報が増えて、さらにペアを変えながら、お互いに質問することで、話す分量を増やしていくことができます。そして最終的に、まとめて書く活動につなげていきます。
最初は自分なりに考えて話してみるのですが、実際にペアで伝え合ってみると足りない部分があります。最初はうまくいかなくても、そこを修正する過程に学びがあるわけで、互いに質問をしたり、アドバイスしたりしながらブラッシュアップしていくのです。
そのペアも入れ替えながら、繰り返し表現し、修正していきながら表現の質を上げていくのですが、その際に大事なことは、教員が生徒たちのやり取りの中からよりよい表現を取り上げたり、大切なポイントを押さえたりして、必ずフィードバック(中間指導)をしながら支援をしていくことです。
この単元では、4/6時で友達について書いた経験をしましたが、その学びを生かし、改めて自分の身近な人について表現することで学びが深まっていきます。学習の過程で英語の4技能5領域の力を統合させて、最終的な発表につなげていくわけです」
【資料2】指導案
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今回は、朝倉教諭の単元・授業づくりを象徴する実践事例を紹介しました。次回は、そうした単元・授業づくりの背景となる、朝倉教諭の考え方について紹介をしていきます
【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり】次回は3月7日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之