小五理科 流れる水の働きと水害を関連づける学び【理科の壺】


近年、様々な災害がありますがその対応はどこで学んでいるでしょうか? 何かが起きるたびに、「自分たちも準備しよう」と考えることも多いのではないでしょうか。ただ、学校ではなかなか学ぶことがないのも現状としてあります。そこで、流れる水の働きの単元と関連づけて、水害や治水の学習を行う授業を今回ご紹介します。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/三重大学教育学部附属小学校教諭・前田昌志
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
流れる水の働きと水害を関連づける学び
近年、日本各地で頻発し、被害が深刻化している水害。ニュースでその様子を目にするたびに、「洪水」という自然現象が、人々の暮らしとどのように結びついているのか、改めて考えさせられます。この「水害」というテーマを理科の授業でどう扱えばよいのでしょうか?今回は、第5学年の単元「流れる水の働き」を通じて、子どもたちと一緒に「水害」について考えるためのポイントをご紹介します。
1.「流れる水の働き」と水害を関連づけるポイント
しん食、運搬、堆積といった流れる水の働きを学ぶこの単元では、川の内側と外側で地形がどう変化するか、上流と下流で川の様子がどう違うのかに着目します。ただ、それだけでは「水害」について学ぶには不十分です。
「水害」とは、「洪水(川の水があふれる自然現象)」が人々の生活と交わることで初めて起こる社会的な事象です。つまり、この学習を「水害」と関連づけるためには、「人と川の関係性」を意識することが欠かせません。

2.子どもの中から自然に湧き出てくる「治水」の概念
単元の中盤で行うモデル実験は、「水の量が増えると流れる水の働きがどうなるか」を探るものです。ここでの一工夫として、モデル実験の川の周りに家や畑を配置してみましょう。紙粘土や工作用紙を使って、子どもたちに自由に作らせると、一層の愛着が生まれます。
いざ水を流してみると……どうなるでしょうか?
堤防を越えた濁流が家々を飲み込む様子に、子どもたちの悲鳴が上がるはずです。「街が大変だ!」と驚く声もあるでしょう。そして、子どもたちは夢中になって堤防を固めたり、高くしたりし始めます。この行動こそが、「治水(=水害から人々の命や財産を守る取り組み)」の考え方の出発点です。教師が教えなくても自然に生まれるこの姿が、「治水」の学びの面白さそのものなのです。


3.人と川の物語から広がる学び
人間と川は切っても切れない関係にあります。古く世界の四大文明は,大河のほとりで産声を上げています。人々は古代から水の恵みを享受する一方で,水の怖さとも闘い続けてきました。日本でも戦国時代の武田信玄が治水に力を入れた話は有名ですよね。「水を制するものは国を制す」と言われたように、治水事業は人々の生活でもあり,願いでもあり続けたのです。
さて、モデル実験を経た子どもたちからは、「私たちの地域の川では、どうやって洪水を防いでいるんだろう?」という問いが自然に湧き上がるでしょう。現代の子どもたちにとっても、治水は喫緊の課題なのです。
この問いを起点に、地域に根ざした「河川防災学習」を進めてみてください。例えば、近隣の河川や治水施設を見学することで、子どもたちの学びはさらに深まるはずです。現地で人に出会い、話を聞いてみるのもおすすめですよ。子どもたちの探究が進めば、それは「理科」を起点とした、「総合的な学習の時間」の学びに広がっているはずです。
イラスト/難波孝
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。
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<執筆者プロフィール>
前田昌志●まえだ・まさし 三重大学教育学部附属小学校教諭。専門は河川教育と天文教育。日産財団理科教育賞(研究代表者)、ICT夢コンテスト2023 総務大臣賞、日本理科教育学会 優秀実践賞、令和4年度文部科学大臣 優秀教職員表彰、ICT夢コンテスト2022 文部科学大臣賞などの受賞歴がある。NHK Eテレ『キミも防災サバイバー!』番組委員。三重県教育委員会や各自治体の研修講座講師、公立学校での指導助言も多く務めている。

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。