宇野弘恵先生に聞く!ICT支援員と連携した授業改善に必要なこと(聞き手:五十嵐晶子さん)

学校内のICT環境を改善し、ICTを活用した効果的な授業を広げていくためには、何が必要なのでしょうか? ICT支援員の導入コンサルティングと育成の専門家・五十嵐晶子さんは、著書『デジタル化時代の学校教育を支えるICT支援員の仕事』(小学館)のなかで、ICT支援員と教師との連携の重要性を強調しています。この点について、現場の先生方はどのように思っているのか。『みんなの教育技術』でもおなじみの北海道公立小学校教諭・宇野弘恵先生に、五十嵐晶子さんが聞きました。

宇野弘恵(うの・ひろえ)
北海道公立小学校教諭。民間教育研修などに参加、登壇し、今日的課題や教員人生を豊かにすることを学んでいる。著書に『あと30分早く帰れる!子育て教師の超効率仕事術』(学陽書房)『スペシャリスト直伝!高学年担任の指導の極意』『伝え方で180度変わる!未来志向のことばがけ』『生き方を考える!心に響く道徳授業』(以上明治図書)など多数。

五十嵐晶子(いがらし・あきこ)
2000年頃より小中学校の情報アドバイザーを始め、神奈川県を中心に小中高校のICT導入研修会講師とICT支援員、ICT支援員運用コーディネーター等、学校ICTの導入と活用に関わる。2020年3月に独立し「合同会社かんがえる」を創業。情報通信技術支援員(ICT支援員)の導入コンサルティングと育成を専門として、全国の支援員事業を行う企業や、自治体所属の支援員に向けた様々なICT研修会を提供。現在教育ICT環境アドミニストレーター協会理事長、中央教育審議会デジタル学習基盤特別委員会委員。
目次
質問1:ICT支援員も授業を見るべきだと思いますか?
五十嵐:私は自著(『デジタル化時代の学校教育を支えるICT支援員という仕事』)の中で、「ICT支援員も授業を見るべきだし、子供理解も進めるべき」と書きました。これについて、授業者としてどのようにお感じになりますか? また、支援員が授業を見学させていただく際のポイントを教えてください。
授業の支援こそしてほしい
宇野:残念ながら私の勤務する学校には、ICT支援員さんが配置されていません。それでもICT以外では、いろいろな支援員さんが学校に来てくださっていて、とても助かっています。その前提でお話ししますね。
もしICT支援員さんが授業の支援に入ってくれるのであれば、私は、猛烈に頼っちゃうと思います。それはまず、トラブルが起きたときと使い方が分からないときです。もちろん授業での支援も重要です。私が一斉指導したとき、子供にうまく伝わらなかったときなどにサポートしてもらえるなら、とても心強い存在だと感じます。
ただ、もし支援員さんたちが子ども理解に、あまり重きを置いていないとか、授業の流れに関心が向いていなかったとすれば困ってしまいます。子供の特性に配慮しなかったり、いつでもどこでも手助けをしてしまったりするのは、教員にも多いことなんです。
学びの機会を奪わない
ご存じの通り、私は機械音痴ですので、タブレットが学校に入ってきたとき、何もできませんでした。そうすると子供たちが「先生、ここはこうじゃない?」「こうやればうまくいったよ」と全部教えてくれたんです。完全に私が教わる立場になっていました。子供って本当に力を持ってると思います。
それなのに、子供がちょっとでも「わかんない」って言ったら、どれどれって手を出してしまう大人が多いのです。よかれと思ってやっていることが、結果的に子供の自分で学ぶ力を奪っているんじゃないでしょうか。ICT支援も、このあたりが難しいと思います。
授業の流れを知るということ
たとえば授業中、T1として私が話しているとき、子供が支援員さんに「分からない」といったとします。このとき支援員さんから「先生、〇〇ちゃんが分からないって言ってます」と発言されると困ります。授業の流れがさえぎられるし、子供の集中は切れるからです。私が指導しているところと違うものに子供たちの関心が向いてしまいます。
さらに問題なのは、「先生の話は、ちゃんと聞かなくても助けてもらえる」と誤学習をさせてしまうことです。低学年はとくにそういう傾向が強くあります。低学年でそういう誤った経験をさせてしまうと、中学年以降も、それが習慣になってしまいます。自分の責任で聞かない子が育ってしまうのです。
「自分の責任で失敗しないように人を頼る」子を育ててはいけません。説明を聞いていなかったのは、自分の責任です。そういう意味で、支援員さんには授業を見ながら、
- この先生は、どういう流れで授業をするのだろう。
- この先生は、どういうことを大事にしているのだろう
ということを知ってほしいし、「この子はこういう子なんだろうな」というような児童理解に関心を持ってほしいです。これはすごく大切なことだと思います。
質問2:ICT支援員が授業を見学する際のポイントは?
五十嵐:授業の流れを知ることの大切さはよく分かります。そのために、授業はどのように見学すれば「見える」ようになるのか、子供はどのように見れば理解が進むのか、ポイントを教えていただけますか?
授業を知るために
宇野:学校には、いろいろな考え方の先生方がいます。私のように、できるだけ子供に任せたいっていう考えている人もいれば、「支援員さん、いつでも助けてね」っていう考えの先生もいると思います。
ですから、まずは担任の先生と「どんなスタンスでお子さんを育ててますか? 」「授業で何を大事にしていますか?」 といった対話をするのはいかがでしょうか。私自身も支援に入っていただくときには、自分の方針を説明し、できるだけ見守ってほしいとお願いしています。大事なことなので、文書にしてお渡しします。
子供を理解するために
児童理解には、「観察すること」が有効だと思います。よく観察していると、次のようなことが見えてくると思います。
- この子はどういうときにキーってなるんだろう
- この子はどういうときに動き回るんだろう
- この子はどういうときにうまくコントロールできなくなるんだろう
- いつも固まっているこの子は、どういうときに固まるんだろう
観察をした上で、子供や先生との関係性ができてきてから、何かアクションを起こすというのが有効なのではないでしょうか。
観察する時期
担任であっても4月いっぱいは、過剰な支援や働きかけなど、あまり距離を近づけないように気をつけます。最初にその子に対して間違ったアプローチをしてしまったら、関係の修復は非常に難しくなりますので。 こちらがこう出たら、この子はどう出てくるんだろうとか、そういう観察の期間として、最初の1か月くらいは必要だと思います。
質問3:授業を見たいICT支援員は先生にどう声をかけたらいいの?
五十嵐:残念ながら、ひとつの学校に月に1度しか訪問できない支援員もいます。そうなると、関係構築が難しく、授業での支援が難しい場合が多いです。とくに中学校の場合、先生から「授業に来ないで」と言われることが少なくありません。どのように声かけをすれば、感じ悪くならずに授業を見られるでしょうか?
「評価するわけではない」ことを伝える
宇野:私は、自分の授業に自信があるわけじゃないですが、授業を見ていただくことには「どうぞどうぞ」という感覚を持っています。けれども、自分の授業を見られることにすごく構える先生は少なくないかもしれません。そういう方は、自信がないというか、評価されるのが怖いのではないでしょうか。
なので、五十嵐さんが本の中で「ICT支援員はスパイではありません」と書かれていたように、「評価するわけではない」ということをまず先生に知らせることが大事だと思います。
伝えるときの言い方例
とはいえ、授業を見せてもらうときの言い方は難しいですよね。たとえば「私の勉強のために授業を見せていただくことはできますか」といった依頼をしてみてはいかがでしょうか。そして「授業を見るだけなんですけれども、万が一何か ICT に関してお悩みのことがあれば、お力になれることもあるかもしれません」などと言って、先生にとっての見せるメリットを付け加えたらよいと思います。
質問4:ICT活用の好事例をうまく紹介するにはどうすればいい?
五十嵐:授業を見せていただくことができたとき、すごく上手に使われている事例を他の先生に紹介したいときが難しいです。支援員が「上手」と感じた視点が合っているのか、ICTを使っていない先生のことを非難しているように思われちゃうかも、といった不安があります。先生方との信頼関係ができる前であればとくにそうです。ICT支援員の任期が1年というところが多く、短期で結果を求められるので。
校内研修で伝える
宇野:ICTに限らず、良い事例を伝えるのは難しいですよね。一つの方法として、校内研修の中で事例を伝えるのはいかがでしょうか。情報担当の先生とか、ICTが得意な先生に依頼して「ICTの使い方事例の研修はできませんか」などと提案するのが良いかと思います。
資料を配付する
紙の資料にして配付するというのも良い方法です。1対1で事例を提案するのが難しいのであれば、「困ったときの対応事例集」などと銘打って配ってはいかがでしょう。ただその場合でも、何の根回しもなく配っても、見てもらえない可能性があります。情報担当の先生や管理職を巻き込んで周知してもらいましょう。
「授業でどう使っているか」に着目
ICT活用のアイデアを伝えるときに意識してほしいのが、授業観の違いです。これは非常に大きい気がします。ICT をすごく使っている授業でも、子供と先生がみんな画面見ながらしゃべっている、という場面をよく見ます。一方で「私の国語の授業はこういうもの」みたいな哲学がある場合だと、ICTの使い方は補助的になる気がします。
なので逆説的な言い方になりますが、「授業観に関係のない使い方」の紹介だと受け入れられるのではないでしょうか。ICTを使って子供に成果物を提出させる方法とか、意見を集約させる方法とか、「3分でできる〇〇」とか。私の学校には、ロイロノートが導入されていますが、私自身は最低限の機能しか使っていません。今のところはそれでよいと思っています。
情報発信のターゲット
学校にはいろいろな先生がいます。
- とにかくICTを使うと決めてる先生
- ICTが使えない先生
- ICTを使いたくない先生
この中で、一番取り込みやすいのは「ICTが使えない先生」じゃないでしょうか。使いたくないわけじゃないので、聞いてもらえるはずです。こういう人に向けて研修なり、情報発信なりしたらよいのではないでしょうか。
質問5:ICT支援員が授業に入ることのメリットは?
五十嵐:ICT支援員が「授業に入る」ということのメリットを教えてください。それから、プログラミングの授業などの際は、T1をやってほしいと言われることがあります。言われるままに授業をすべて引き受けてしまっていいのか、その距離感が分かりません。支援員を派遣している会社の中には、「絶対にT1をやってはいけません」と伝えているところもあります。
アドバイスとトラブル対応
宇野:教師は、授業でやりたいことが必ずあるので、それを元に「これを使ったら時短になりますよ」とか「こういうのが簡単にできますよ」といった提案があると、とても嬉しいと思います。
とにかく活用のアイデアをもらえるということがまず大きなメリットです。それからトラブル対応ですね。私の場合は「あれ? なんか、さっきまでここにあったアイコンがない」などの、単純なトラブルがよくあるんです。これで時間を無駄にしています。
プログラミングの授業
プログラミングの授業は、どうやったらいいのか私には分かりません。子供が楽しいか、ではなく、どうやったらプログラミングの力がつくかっていう専門的なところを聞きたいです。プログラミングの授業をまるごとお願いできるとなったら、歓迎する先生は多いのではないでしょうか。T2として担任が授業にいれば、問題ないはずです。
もし私だったら「今日のプログラミングの授業は五十嵐先生です。拍手〜。ではお願いします!」ってやると思います(笑)。ICTに関わる部分は、支援員がT1としてやり、「ちゃんと話を聞きな」など、教育上必要な声かけは担任がT2として担うというのが良いのではないでしょうか。
質問6:宇野先生がICT支援員に期待すること
五十嵐:最後に、宇野先生ご自身がICT支援員に期待することって、どんなことですか?
宇野:私のようにICTが苦手な先生は、まだまだ多いと思います。なので、そのサポートをしてもらいたいです。知らない情報や技を教えてもらいたいです。そして、活用の仕方を知りたいです。自分の授業観にあった使い方を一緒に開発できたら楽しいですよね。
五十嵐さんが本の中で、「授業の前に先生と打ち合わせする」と書いておられて、それはとても重要なことだと思いました。ただ授業の直前に打ち合わせをお願いしても「忙しいから無理」ってなる可能性があります。
ですから、授業の1週間前とか 1か月前とかに依頼して「何日の何時から何時まで」が決められれば、予定に入れられます。やはり計画は大事ですね。
五十嵐:宇野先生、ありがとうございました! 今回の対談を通して、ICT支援員のような外部人材の活用について、授業や学級づくりのベテランである先生はどう見ていらっしゃるのか、具体的に理解できて大変学びの多い時間になりました。
ICT支援員は当初、端末自体の使い方の説明や障害対応に奔走してきました。でもこれからは、ICTによる授業改善のお手伝いが必要だと感じています。そのためには、授業のプロである先生方との話合いが欠かせないと感じました。
その点で、宇野先生のお話は、学校に関わる全ての支援員が心得ておきたい視点でしょう。授業支援の本質を理解するため、私自身も学んで行きたいと思います。
以上、宇野先生と五十嵐さんの対談をお伝えしました。ICT支援員の職務や強み、現場での連携・活用にご関心のある先生は、ぜひ五十嵐さんの著書『デジタル化時代の学校教育を支えるICT支援員という仕事』をお読みください!

取材・構成/村岡 明